あらすじ
偽善か? 使命か?
私たち人間は、地球に「六度目の大量絶滅時代」をもたらしてしまった。生物多様性を守るための学問、「保全生物(生態)学」の重要性がかつてなく高まっている。
それにしても、生物多様性を守らなければいけない理由とはなんだろうか? パンダやトキが絶滅すると、何か不都合があるのだろうか? じつのところ、生物学はこれまで「保全の理由」をうやむやにしていた。いまあらためて、「命」との向き合い方の話をしよう!
【おもな内容】
序章 生物の保全は必要か?
第1章 保全不要論――絶滅は自然の摂理か?
1-1 今と昔の生物多様性
1-2 第六の大量絶滅は自然のプロセスか?
第2章 ヒトがもたらした絶滅の歴史
2-1 ヒトの起源と世界進出
2-2 ヒトは悪気のない死神か?
2-3 未来の技術で環境問題は解決可能か?
第3章 強い種が弱い種を絶滅させるのは自然の摂理か?――〈弱肉強食論〉を考える
3-1 弱肉強食は自然の摂理か?
3-2 生存競争は大量絶滅を擁護するか?
3-3 社会ダーウィニズム――弱肉強食の誤解がはびこった歴史
第4章 トキやパンダは役に立つ?――脆弱な〈役に立つから守る論〉
4-1 役に立つ種
4-2 論理的にアウト――〈役に立つから守る論〉の問題点
第5章 〈正義〉の生物学――保全は人の宿命か?
5-1 人間非中心主義
5-2 そもそも種は存在するのか?
5-3 〈正義〉の生物学
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Posted by ブクログ
なんで生物が絶滅する事が悪いの?
この疑問に対するひとつの解答を提示する本。
環境保全の理由としてよく挙げられるのが、「生物多様性を守るため」というもの。しかし、生物多様性を守る理由、すなわち「生物の絶滅は悪だ」と考える理由はあまり考えられていない。本書においては、この生物を絶滅する理由を倫理的な視点を中心に、応用生物的な側面も含めて解説している。
他の多くの生態学的な本が述べてきた「人類の発展に資する」という理由の危うさから、「自然の摂理だから絶滅なんてしょうがない」論まで丁寧に検証している。
小難しくなりがちな環境倫理学を分かりやすく砕き伝えた名著だと思います。
Posted by ブクログ
生物学の本のようで、歴史や倫理や哲学の本。
答えがあるわけではなく、この本読んで自分で考える事が大事かと。
言葉の定義や仮説検証の仕方に、筆者の研究者としての真摯な態度が見えて良い。
Posted by ブクログ
「トキやパンダを絶滅から守るべきか」を念頭に、これでもかこれでもかと、仮説を説いていく内容だ。途中、苦しくなってくるが、読み終わった時には、納得感で満たされることになる。
Posted by ブクログ
表紙裏の言葉には
過去の地球で起きた五度の
“大量絶滅”をはるかに凌ぐ勢いで
生物多様性が失われつつあることがわかってきた。
この第六の大量絶滅期を生きる私たちは,
生き物の保全をおこなうべきだろうか?
もしおこなうべきだとすれば,
その理由はどこにあるのだろうか?
と書かれている。本書には,この質問に対する著者の回答が書かれている。回答かだけ知りたければ,一番最後の章「〈正義〉の生物学」を読めばいい。
本書のおもしろさは,「今の生物多様性を守らなければいけない」という理由として挙げられている内容に対して,一つ一つ取り上げ,学問的,哲学的にいちゃもんをつけるところにある。「あなたのいいたいことはわかる…でもね~」という感じで論理は進められていく。一般的に広まっている「生物多様性を保全すべき理由」を一つ一つ吟味して,「それじゃあ不十分ですよ。」「それじゃあ,あまりに人間中心主義でしょ。」「あなたの倫理を突き進めると,こんな結論になっちゃいますよ」といわれると,「じゃあ,どう考えればいいのだよ」と著者の考えを知りたくなるという仕組みだ。
弱肉強食と生存競争とのちがいや,進化論,社会ダーウィニズムにも触れられている。最後は,〈正義〉を持ち出してくるのだが,それはエドワード・ウィルソンの理論とも深く関わっているようだ。わたしは,本書で,はじめてエドワード・ウィルソンという人を知ったのだが,なかなかおもしろい生物学者のようだ。考え方がそうとう極端みたい。
著者がどんな結論を出しているのかをここに書くのはよそう。以下の部分を紹介しておくにとどめる。
ウィルソンは,「生物種が絶滅へと向かうのを放置するのは,考えられるかぎり最悪のギャンブルである」と述べています。なぜならば,もしバイオフィリア仮説が正しければ,人類は自分たちの命を守るうえで途方もなく重要な生物多様性を、自ら手放していることになるのですから。(p.255)
人の〈正義〉は自然選択で定着したのか…なんて,今まで考えたこともなかった。
人への感染を根絶させた「天然痘ウイルス」まで,実験室の中ではしっかり管理し,培養しながら生きながらえさせている人間。
いやー,刺激的な本でした。
Posted by ブクログ
同じ疑問を抱いていた時にちょうど本書に出会った。動物を何故守らなければいけないのか、明確な結論を求めていた自分にとって、あらゆる方向から検証し自分なりの答えを考え続けることが重要であると突きつけられた印象。生物学の根本にして永遠のテーマになるのだろうか。
Posted by ブクログ
①生き物の保全はおこなうべきことなのだろうか?、②もしおこなうべきだとするならば、その理由はどこにあるのだろうか?という問いについて、保全不要論や弱肉強食論、役に立つから守る論などを論駁しながら考察し、どの生き物の命も尊重すべきであり、生き物を保全するのは正義に適うので、生き物の保全をおこなうべきと結論づける。
生物の保全はなぜ必要なのかについてじっくり考えるきっかけにはなったが、著者の論の進め方には、詭弁のように感じるところも多く、かなり違和感を覚えた。特に、後半の社会生物学論争の部分で、戦争を好むのは生存競争に有利だから致し方ないという説は論理的飛躍があると否定しておきながら、自身の生物保全=正義説の根拠として、正義にしたがって行動するのは適応的であり、生存競争において有利に働く可能性があるということを挙げているのは御都合主義と言わざるを得ないと感じた。また、人間中心主義を否定しておきながら、結局、結論部分で人間中心主義に近いこと(生物多様性はヒトの生存にとって必要)を言っているのも一貫性がないように思った。さらに、生命中心主義の射程は動物に限られ、植物はふつう対象から外れるというのを特段の理由の説明なくさも当然のように書いていたのも疑問符だらけだった。
生き物を保全することは確かに必要だと思うが、それはとどのつまり、人間中心主義からしか導かれないのだと思う。「全ての生き物の命は尊いから」というのも、それはそういう人間の気持ちを満たすために生き物を保全すべきということになるのではないか。基本的には、具体的な生物多様性のサービス機能を含め、生物多様性(あるいは生態系)は人間の生存にとって必要だからというところに落ち着くのではないかと思う(その点で、論の運びや「正義」を持ち出すところは別にして、著者の結論に大きな異論があるわけではない)。
本論とは別に、本書で紹介されている、過去の生物の絶滅の歴史やヒトの進化などの様々な生物学や生命倫理学等の知見は興味深いものが多く、勉強になった。