【感想・ネタバレ】鹿の王 水底の橋のレビュー

あらすじ

真那の姪を診るために恋人のミラルと清心教医術の発 祥の地・安房那領を訪れた天才医術師・ホッサル。しかし思いがけぬ成り行きから、東乎瑠帝国の次期皇帝を巡る争いに巻き込まれてしまい……!?

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ネタバレ

要約
天才医術士のホッサルはすでに滅んだオタワル王国の末裔で東乎瑠帝国の清心教医術を脅かす存在として敵視されオタワル医術の存続は危ういものとなっていた。宗教と結びついた清心教医術は穢れを嫌い、分をわきまえることにより天ノ苑に昇れるという信念を大切にしている為、救える命も救えないことがあったが実はオタワル医術が現れる以前は人の命を第一に考える医術であった。ホッサルは清心教祭司の安房那候の親族を診るために所領に招かれるが遂には次期皇帝争いに巻き込まれていく。次期皇帝候補の比羅宇は清心教宮廷祭司の次期トップである津雅那が推しておりもう一人の由使候はオタワル医術を擁護していた。安房那候は比羅宇候こそが皇帝に相応しいと思ったので比羅宇候にオタワル医術を認めさせることで由使候にも比羅宇候を認めさせようとした。結果清心教医術とオタワル医術が相互に学び合うことで医術の対立も次期皇帝の対立も終結したのである。

感想
幼い頃から大好きだった上橋菜穂子さんの新作であるばかりか大好きな鹿の王シリーズの続編ということだけあって読めることに大きな喜びを感じて読み進めていったがやはり本作は期待を超えてくるものであった。彼女の作品の特徴なのだが話が壮大且つ複雑且つ彼女が伝えたいパーツが彼方此方に散りばめられている為上手く作品の素晴らしさを纏められない。だがやはり私が一番心を動かされたのはホッサルとミラルの愛の形だった。身分差があり結婚できない為、誰よりも相応しいホッサルの伴侶でありながら愛人という立場にしかいられない。それでも彼女は逞しく生きていき、天罰に自分があっても構わないから目の前の患者を救いたいという強い信念は比羅宇候のオタワル医術擁護への気持ちを動かし、最終的に安房那候の養女となってホッサルに相応しい身分になるのだ。胸を焦がすような熱い恋心はないかもしれないがホッサルは生涯誰よりもミラルと一緒にいたいと強く願っていた。花部に向かう際にミラルをとっさに守って怪我を負ったシーンはそれを強く表していて胸にぐっと来るものがあった。本作は人の命の他に愛の尊さをも伝えてくれる作品でもあった。

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2025年01月14日

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ネタバレ

鹿の王が良かったので、購入後しばらくとっておいたのだが、鹿の王のシリーズの続編は読みたいような(キャラクターが死ぬのではないかとハラハラするので)読みたくないような微妙な気分になる。

前作のヴァンらは登場せずホッサル視点の物語だが、本作も命の物語なので、序盤から「死の迎え方」の描写があり重い。
ウマチや血友病の病名を変えたものが出てきたり、還元論(オタワル医術)と全体論(清心教医術)の比較のように我々の世界とつながる部分も多い。
オタワルは(ローマ時代と中世ヨーロッパの関係のように)科学技術が進んで合理的、近代的な考え方で思想面ではツオル帝国を優越しているように見えるが、ホッサルとミラルの婚姻が許されない身分制度が残るように全てが正しいわけではない。これも我々の世界の歴史そのものだ。
終盤のキーとなる土毒は症状からボツリヌス菌だろうか。

あとがきや解説の部分を読むことで実在の病気や細菌を元にしていたこと、鹿の王の黒狼熱は伝染病にしたくなかったこととなどとともに、文庫版の発刊前後の新型コロナウィルスによる社会情勢の変化とそれに対する著者の前向きな気持ちが書かれている。
文庫版に寄せたコメントは、初回の外出自粛の前に書かれたものであるのに1年後(著者の予想より1年遅れた)のデルタ株での惨状を予見しているのは門外漢であるのにすごいと思った。
日本の文系研究者は数学や理科に異常な嫌悪を示すバカがちょこちょこいる(逆は少ないはず)のだが、本当に優れている人はそんなことは毛ほども問題にせず、彼らの優れた感性を専門外の理系分野の問題に対しても発揮する(;ドキリとするような真理に切り込んだ質問や発言をすることがある)と、私は経験的に知っている。この著者も分野を問わない優れた感性を持つ人の一人だろうと本書を読んで思う。

タイトルは前作の「鹿の王」と一緒でミスリード。
前作で鹿の王の意味が明かされた時は「ヴァンの境遇が"鹿の王"とピッタリであり、終盤に仲間の盾となって死ぬ場面が来るんだ」と思ったものだ。
本書の中盤で「水底の架け橋」が出てくるときには「ホッサルは政略結婚をしてミラルとは心の中でつながりを持ち続けるしかないのか」と切ない気持ちになったが、上橋作品はそんな悲恋は許さない。
ミラルとホッサルが正面突破で正々堂々と結ばれることが出来るような優れた展開が用意されていた。全くの予想外の展開であった(終盤を読む前は、ホッサルが家を捨てる→オタワル医術を見捨てることになるので不可。政略結婚しミラルを愛人に→そんなに不誠実なことはしないだろう。ではどうする??と悩んだ)。

また、上橋作品は処女作から一貫して「優しい、後味の爽やかな作品」だと思っていたが、本作、特に終盤を読んで印象が一変した。
守人シリーズを読み切っていないので私の印象が間違っているのかもしれないが、
本書の終盤の由吏侯やリムエッル、津雅那、安房那侯らの政治的な駆け引き・策謀は非常に老獪で緻密、上橋作品では感じたことの無い高レベルのイヤラシさを感じた。良質なミステリーを読んでいるときのような、グルリと足場が入れ替わる感覚と、それに伴う背筋の冷や汗をノーガードでもろに喰らってしまった。

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2024年04月13日

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ネタバレ

面白かった
二つの異なる医学が反目しあいながらもそれぞれの真理にふれ、理解と疑念両方を持ちながら歩み寄る姿は、医療に携わる人たちも色々な矛盾を抱えながら努力しているということに、改めて気付かされたと思う。
お医者さん、頑張れ!
そして、この本は後書き、解説が秀逸。
生き方について考えさせられるが、結局、前向きに楽しく人のために生きるのが一番、ってこと。

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2024年03月01日

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ネタバレ

今回『鹿の王 水底の橋』は、医師のホッサルと助手のミラルに焦点があてられた作品。
医療とは本来どうあるべきか?
命よりも優先されるものがあるのか?
が、改めて浮き彫りになり読者に問いかけてくれます。
たくさんの考え方があり、信念がある医師たち。
そして、目の前で苦しむ患者。苦しむ患者の家族たち。
たして、何が優先されるべきなのか…。
何が医療者として、果たさなくてはいけないのか…。
上橋菜穂子さんならではの作品だなと、沁みました。
個人的には、最後のミラルの医師としての言動に、心を揺さぶられました。

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2024年01月07日

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ネタバレ

あぁそうだ、この問題が残ってたよね!という一冊。
鹿の王1〜4巻で切なさと希望を残すまとまりがある、ヴァンの話だったけど、
その時に取り残された問題があったわ!


「宗教」というのは、煩雑なものだなあ。
と、この本を読み始めて & 今の世界情勢を考えて思った。

信じるものを優先するというのは、人・民族・国のアイデンティティであり、対立するものや相反するものを受け入れるというのが、根幹を揺るがすことであるというのも理解ができる。

しかしながら、
信じるものを優先せるよりも、人命を第一に考えるのであれば、そこに宗教や方法を選んでいる場合ではない、と思うのだけど。

そうはいかないのが、物語の中でも実際の世界でも難しいところよね。

とにもかくにも、枠組みを確立させるための信念であるのか、信念があるから枠組みになるのか。
追求することをやめて枠組みに囚われていることも、他者が追求の手を止めずに糾弾するのもおかしな話よ。
と、p.217〜218のホッサルと真那の会話を読んでいて思ったな。


↓ネタバレ



今回は、鹿の王1〜4であまり描かれなかったホッサルとミラルの恋物語も焦点が当てられていました。
まるで長年寄り添った夫婦のような関係性の2人の様子は、マコウカンのようにほっこり感じていましたが、ここに“血筋”という現実味を入れてくるのがさすがよね。
大人の読者としては、そういうリアリティさというのもあるとグッと物語の要素が詰まってくる感覚。

どうしようもない問題だと思っていた事を、
その朗らかさでクリアしてしまうミラルに、最後は読者まで笑顔になってしまう。
ホッサルが惚れるのも無理はないよ!

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2023年12月18日

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ネタバレ

正直なところ、ヴァンやユナの描写がチラッとでも出ないかなぁと期待しながら読んでたんだけど、…残念だった…。でも物語は特に後半、引き込まれるように一気に読みました。相変わらずホッサルの医療に対する姿勢が素晴らしい!ミラルも素敵だし。途中ホッサルの縁談話でこっちも悲しかったけど、最終的に身分差がなくなって明るい未来が見える終わり方でとてもよかったです。

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2025年02月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昨年、子どもが角川つばさ文庫版の「鹿の王」を読んでいたので、復習もかねて久しぶりに私も読みました。
コロナ禍前と後では全く違う見方で読める内容で、自分の中の変化を感じる作品でした。

今作は鹿の王の続編、ホッサルとミラルが主人公の医療ミステリです。
私も中年になり健康が心配な年齢になりました。
私が病気になったらミラルみたいな先生にお願いしたいです。

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2025年01月12日

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