あらすじ
男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ――。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳にあることを命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。(解説・山本一力)
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Posted by ブクログ
大好きなヒラリーハーンのバッハのシャコンヌを聴きながら、最後を読み終えました。
長かった。前半はつまらなく感じ何度もストップして、他の本を優先しました。中盤からの展開で一気に引き込まれ、そしてエンディング。大感動。まさかのハッピーエンド。大満足です。
里佳の再生の物語。カジマナのマインドコントロールを受けながらも、親友の伶子と共に、それも糧にしていく。この力強くないコンビの粘りがいい。
料理にあまり興味がない私でも楽しめました。女性の生きづらさや過去のトラウマなど重たいテーマがたくさんあるものの、あまりとらわれずに、なんとかあがきながら、自分らしくやっていこうというメッセージに感じました。
ダイバーシティの多様性とはちょっと違う、型にはまらない多様性の物語なのでしょう。
Posted by ブクログ
おもしろかった!
まず食事の描写がリアル。塊バターをのせた醤油かけご飯の表現、食べた感覚になる。
人間関係や孤独についても考えさせられた。最初と最後で、カジマナの印象がガラリと変わるのが印象的。好きなことして生きて、多くの人から愛されていてちょっと憧れるというか、かっこいいなと思いながら読み進めていた。でも、料理教室で提案された七面鳥は食べてもらう人を集められないことに怒っていたというエピソードから、こんな寂しい人生は嫌だなと思い直した。リカが10人集めて七面鳥を振る舞う時、羨ましいなと思った。自分のことを振り返ると、独り身で友人も少なく、そういう人生は来ないんだろうなと絶望した。
身体や体重、見た目について、あるあるが書かれていて胸がギュッとなった。細身のリカが、少し太っただけで、どうしたのと心配される。かと思えば、セックスに誘った夜の彼氏からは、エロい身体と言われて、他人の批評の目に晒されてなんだかなぁと思う。
Posted by ブクログ
最初は面白くて早く続きが読みたい!!と思ってたんですけど後半は失速して「それより結局最後どうなんのかが知りたい」って感じで惰性で読んでました。
正直よくわからなかった。
まず、これは何の話?
レビューでは、友情の物語だとか、女にだけ課せられたルッキズムの呪いとか色々言われてたけどどれもピンと来なかった。
主な登場人物で好きになれる人も1人もいなかった。
カジマナは当たり前にヤバいし、里佳も仲良くなれる要素がないし、怜子みたいな暴走する女も大嫌い。
だけど見ててイライラする怜子と、私は近い存在なのかも。
子なし夫婦、レスに悩み、妊活の温度感に悩み、夫は愛してると言いながら本質的な部分を見てくれていない、可憐な外見でありながら中身はパワフル行動力系でギャップがあって周りから理解されない所とか、相手への敬意よりあの人にできるなら私にもできるでしょ的な自信が勝ってしまう感じとか…
そう思うとモヤモヤしてきた…
最後はすごくハッピーエンドで全員が幸せになったけど、なんかそれも突然夜が明けるみたいな展開でついていけなかったな。
前半は特にフェミニスト的な観点の文章が多くて、私も心の中で感じていた様々な理不尽が言語化された感じがしました。ここ数年、ツイフェミの意見とかを色々目にする機会があって、今まで「これが普通」「世間はこういうもん」だと思わされていた価値観が、やっぱりそうだよね、おかしいよね、ずっと苦しめられてきたのはこれだったんだって気付かされるような感覚があって。
この本は10年前に出版されているので、当時はかなりセンセーショナルだったんじゃないかな。
15年前、私がネイルを習っていた時はまだ「そんな爪で家事とかできるのかしら…」みたいな話題が普通に飛び出ていたので。
色々と疑問というかご都合主義というか回収されない部分があったので、考察の余地も含めて話題になる本なのかなと思った。
気になったのは、
・誠となぜ別れた?感情の揺れ動きがわからなかった
(里佳はセフレの延長みたいな関係性だと思ってたけど、誠はこれからは時間を作るとか結婚したいの?とか聞いてたから色々と見えてる世界が違った感じがする)
・里佳の考察に正しいものはあったのか?
(カジマナが七面鳥のレシピを嫌がった理由、篠井と怜子の肉体関係の有無、里佳の父親が死んだ理由などなど…色々里佳が推測する場面があったけどどれも当たってる気がしなかった)
・最後犬どうなった?久しぶりに会ったのに懐いてる違和感
・横田は殺人事件になりかけたのにまだ見知らぬ女を家に住まわせている警戒心のなさ、怜子がいなくなっても何も動かない不自然さ
・里佳がカジマナに傾倒したり、冷たくしたり、一貫性がなかったのは何故?冷める理由あったっけ?
料理教室のマダムたちが本当に素敵だった。
あんな人たちの輪に入りたいですなぁ。
〆
気に入った文章がたくさんある本でした。
まただ。梶井真奈子の被害者の頭には二通りの食卓しかないように感じられる。女が時間をかけて整えた温かく優しいテーブルか、ひとりぼっちのわびしく貧しい出来合いの食事。(中略)
「あなたは本当に何もわからないのね。(中略)男性を喜ばせるのはとても楽しいことで、私にとってはあなたが思うような『仕事』ではないの。男の人をケアし、支え、温めることが神が女に与えた使命であり、それをまっとうすることで女はみんな美しくなれるのよ。いわば女神のような存在になれるの。わからない? 最近、ギスギスした雰囲気の女が増えているのは、男の人への愛を惜しんでいるせいで、かえって満たされていないからよ。女は男の力には決して献わないってことをよく理解しなきゃ。少しも恥ずかしいことではないの。違いを認めて、彼らを許し、楽しませてサポートする側に回れば、びっくりするほど自由で豊かな時間が待っているわ。自然の摂理に逆らうから、みんな苦しいのよ」
話す内容とは裏腹に、梶井の顔は激しい怒りと苛立ちでじわじわと歪みつつあった。(中略)
「仕事だの自立だのにあくせくするから、満たされないし、男の人を駕してしまって、恋愛が遠のくの。男も女も、異性なしでは幸せになれないことをよくよく自覚するべきよ。バターをけちれば料理がまずくなるのと同じように、女らしさやサービス精神をけちれば異性との関係は貧しいものになるって、ねえどうしてわからないの。私の事件がこうも注目されるのは、自分の人生をまっとうしていない女性が増えているせいよ!」
butter p110
(前略)彼が彼女たちのひたむきさや素朴さを褒めるほどに、何やら乗り切れない部分があるのも事実だった。理由がなければ、好きになってはいけない。そんな風に聞こえる。努力をするから評価する、努力をしていなければ評価はしない。単に可愛いからファンなんだよね、と言ってくれた方が、よほど素直に受け入れることが出来た。
butter p135
「(前略)日本女性は、我慢強さや努力やストイックさと同時に女らしさと柔らかさ、男性へのケアも当たり前のように要求される。その両立がどうしても出来なくて、誰もが苦しみながら努力を強いられている。でも、あなたを見ているとはつきり、わかるんです。そんなもの、両立できなくて当たり前だって。両立したところで、私たちは何も救われないんだって。いつまで経っても自由になれっこないんだって」
butter p151
「レモンの皮だよ、それ。『お母さんの味』なんかじゃなくて、ただのレモン味。お母様、時間がなかったんだから、仕方ないよ。こういうことは時間がないとできないもの。愛情の問題じゃなくて、時間の問題なんだよ。やってみないとわからないね」
butter p217
あんな男に媚びてみせたりして。自分で自分が信じられない。私は一体全体、何を成し遂げたいんだろう。何をできたら今の自分に合格点を出せるのだろう。もうとうに、両親のせいにはできない年齢になっていた。
butter p373
誰と一緒に暮らしても結局私は同じなのではないか。やることは一緒。私はたった一人で家事にのめり込み、汚れがあればやっきになって磨き立て、相手の体調に合わせて時間をかけて食事を作る。美味しい?(としつこく尋ねる。
性的な気配ややりとりはなんら発生しない。そして、我慢できないほどの怒りが身体の内側に巣食っている。私は本当に亮ちゃんを愛しているといえるのだろうか。もちろん、亮ちゃんといると楽しい。彼の大きな体で包まれていると、ぬくぬくと安心できる。大事にしているし、されていると断言もできる。
でも、こちらが動くのをやめたら家族というメリーゴーランドの回転が止まるのではないか、という感は常に消えない。自分から動かなければ、愛されない。動いたところで、愛される保証もない。そもそも、愛されるってなんなのだろう。必要と思ってもらえることだろうか。ならば、人の役に立つ私がどうしてこんなにぽっかりと惨めなのだろう。
どんな私になれば、落ち着いて深く呼吸ができるようになるんだろう。
butter p374
「(前略)ある日突然、彼らが無性にわずらわしくなったの。求めれば与えられることを、なんにも疑問に思ってないあの人達の顔つきが、何も差し出さないで食卓について、ただほうっと料理を待っているだけの彼らが、なんの緊張感もなく大切にされて当たり前だって顔をしている彼らが、突然、嫌になったの。そんな相手のために、旬の食材を買って、下ごしらえをして、料理をして、お皿を選んで、盛り付けて、そして後片付けして水仕事するのが面倒になったの。連絡をしなかったり、家事や料理をしなくなったら、彼らは慌てた。疑心暗鬼になってストーカーみたいなことをする人もいたし、元の一人暮らしに戻ったせいで暮らしが投げやりになって体調を崩す人もいた。なんだかみんな母親に世話されなくなった赤ん坊みたいだった。変よね。なんにもできないで私に甘えきっている彼らが、可愛いと思ってたのに・・・・・」
butter p387
里佳は悲しくなった。彼は面倒だから、こう言っているわけではない。おそらく本当に努力さえすれば、物事は解決すると思っている。この世界で起きる悲劇はすべて個人の責任であり、誰しも人に甘えてはいけないと思い込んでいる。
「あなたや世間を喜ばせるような努力の仕方を、四六時中、出来る自信はないの。もう若くなくなってきてるし、もう他人に消費されたくない。働き方とか人との付き合い方を、自分を軸にして、考えていきたいの」
butter p427
「私たちの出身地とか出身校とか、服やカバンをどこで買ったかをしつこく聞いてくるの。既婚か、そうじゃないか。夫の仕事は何か。恋人がいるのなら、その人と結婚を考えているかいないか。すごくない?(中略)なんていうか、すごく疲れたし、面食らった。私、外の世界の、ああいうのに疲れて、この教室で息を吹き返してたのに」
「ああいうのって?」
「なんていうのかな、女をランク付けする男目線のものさしっていうのかな。梶井さんは女っていうより、男だったのよね。あ、言い方が悪いか。男っていうか、強者側。(中略)そういうものさしをいきなりこっちに押しあてるから、なんか疲れちゃったの。私たち、お互いが普段は何してるかよくわからないまま、一緒に料理を作って、それが楽しかったのよね。今もそう。なんかね、船を作って、沖に押し出すのに似てる。セーフテイネットなの、あの教室は。仕事でへとへとでろくに家族とも会えないけど、この教室に通えるように時間を死守して、早く帰る。自炊するのも昔より面倒じゃなくなった(中略)私たちお互いに、本当に下の名前くらいしか、知らなかった。ネットで言われてるようなマウンティングなんて全然なかったの(中略)知っているのは、それぞれの苦手な食材と好きな食材、ナッペができるとか、フランスにチーズ旅行にいったとか、どこのデパ地下が好きだとか、テーブルセッティングの参考にしている映画はなんだ、とか、そういうこと。そういう断片みたいなことが、私たちにとってはなにより大切なプロフィールなんだ」
いずれも、今まで、自分がないがしろにしすぎてきたものだと思う。
butter p470
唐突に、里佳は夜が滲みそうになった。こんな風に、自分の親友を誰かと蒸しむ瞬間をずっと待ち望んでいたのだ。若いころから、伶子と楽しい瞬間を重ねれば重ねるほど、どこか心もとない感情を味わっていた。ずっと彼女を見ていられるわけではない。彼女のほんの少しだけわかりにくい場所にある本当の美点を、自分以外の誰が理解して、慈しんでやれるのだろうと、不安になった。亮介さんは伶子の明るく正しい部分を好きで、彼女の概にはずっと気付かず、それはそれで彼なりの愛し方だが、それゆえに冷子を追い込んだともいえる。彼女の暴走しがちな傾向や独りよがりや痛ましい生真面目さを、こんな風に第三者と軽やかに笑いながら共有したかった。
butter p496
この間、すっぴんに構わない服装のまま社内の女性誌で受けたインタビューが、知らないうちにウェブにアップされていたせいで、里佳の顔写真は早くも出回っていた。
あの記事に対する意見より、ずっと自分の体型や顔立ちに対するそれの方が厳しいことに、里佳は驚いた。肥満なわけでもなく、そう醜いとまでは思っていなかっただけに、衝撃は大きかった。人前に出る職業なのに、体型管理や化粧を怠るなんて女として怠慢だ、努力が足りない、というヒステリックな意見が目立った。これが今まで梶井真奈子が受けてきた視線だと思うと、彼女がどうして頑なに主観の中で生きて行くのか、初めてわかった。あれほどまでにバリアを張り巡らし、強靱な精神力で自己肯定し続けなければ、胸を張って生きることが困難な程、この世界の容姿に対する基準は厳しいのだ。
butter p524
でも、きっとー。何キロ痩せても、たぶん合格点は出ないのだろう、と里佳は、とうに気付いている。どんなに美しくなっても、仕事で地位を手に入れても、仮にこれから結婚をし子供を産み育てても、この社会は女性にそうたやすく、合格点を与えたりはしない。こうしている今も基準は上がり続け、評価はどんどん先鋭化する。この不毛なジャッジメントから自由になるためには、どんなに怖くて不安でも、誰かから笑われるのではないかと何度も後ろを振り返ってしまっても、自分で自分を認めるしかないのだ。
butter p539
Posted by ブクログ
読んでいる序盤は梶井がどんな罪を犯したのか、本当に殺人したのかなど夢中になり、終盤は梶井に大して寂しい人だったんだと、読んでいて離れていく感覚になりました。
梶井がおすすめする食べ物は全て美味しそうに思えたし、試してみたいとも思ったけれど、その上で自分の好きなものを見つけてみたい。
長く生きてきて自分の美味しいと思う味付けや量の適量を知らない気がした。
また女性に向けられる体型についての厳しい目や、男性に対する寂しさについても描かれていて、それのどちらかに縛られて生きるのは辛いと思いました。
私も女性で、体型のことや見た目について言われる世の中だからこそ、自分の適量を理解できないでいることにハッとさせられました。
人が好きではないものを好きな自分を受け入れる。
そんな適量が私も欲しいと思う。
Posted by ブクログ
カロリーの高い小説。
キリのいいところで寝ようと思っていたのに
突如ぶっ飛んだ怜子の行動でそのまま読み進めた。
海外でも多く出版されているみたいだけど
奇妙な日本の固定観念みたいな部分で
読まれているんだろうか。
リカが父親とのことを、
自分のせいとは限らないと
切り離していくさまはよかった。
あのときああしていればと思うことは
たしかにあるけど、
どれもこれも結局そうしていた未来は
いまここにないのだから
切り離していくことも大事なんだよな
特に残された側は。
怜子失踪のくだり、犬がいなくなったことで
実家から亮ちゃんに連絡行ってもいいものだが
その辺の記載なかったのはあれ?って思ったな。
自己認識と他者認識にずれがあるのは
大いにあることだし無意識な記憶の改ざんも
日々起きているんだろうなあ。
過去を掘り起こしていく作業ってむずかしいね。
それにしても小説に出てくる住宅価格、
時代を反映していておもしろい。