あらすじ
ママ、ママはどうしてパパと暮らしていたの?
夢に亡くなったママが現れたのは、都が陵と暮らしはじめてからだった。きょうだいが辿りついた愛のかたちとは。読売文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
家族についての、物語。
家族とは、何だろうか。
たとえば、結婚している男女、血のつながり…。
でも、そうではなくて、呼び名はどうであれ、一緒に暮らしているなら、それは家族なんだと思う。
誰と一緒に暮らしたいか、誰と家族になりたいかは、それぞれの選択だ。
ママは、武治さんではなくパパを選び、ママ曰く、パパとはそれ以上の関係ではないらしいけれど、兄妹としてではなく、パパママとして家族になった。
ママはとても魅力的で、この家族の物語の中心に、ママがいる。
解説で江國香織は、1986年の章は音楽のようだ、と言うけれど、まさにその通りで、この小説全体も、現在と過去を行き来し、まるでフーガのようなのだ。
同じ主題が、何度も変奏されて繰り返される。
ママとパパ、都と陵。愛人のいたおじいちゃま、ママと武治さんの関係。奈穂子は誰の子どもなのか。
そしてふと振り返って、題名について考えてみた。
水声。水が流れる音。
なぜこの題名なのか。最初は分からなかった。多分、今でも分からない。
でも、すべてがママに向かって流れているような気がしたのだ。海へ向かって水が流れていくように。
むかし陵が使っていた部屋を南京錠で閉めたって、止めることはできない。
止める必要さえ感じないような、何か圧倒的なもの。
でもそれは、強く狂おしいものではなくて、もっと緩やかで穏やかな気持ちだ。
何かを決めつけたり、非常識だと非難したり、そういうものから解放されたところに、とてもシンプルな「好き」という気持ちがあるような気がする。
Posted by ブクログ
川上弘美ではもちろん「センセイの鞄」が一番好きだけど、これはそれと同レベルくらい切なかった。ありそうでなかった恋愛の設定だ。
お互いを強く求め続けた二人の気持ちは、普通の恋愛とは言えない。今、性同一性障害とか認知され始めているけど、こういう人たちももしかしたら世の中には…?ちょっと考えにくいし、存在するとしても多分、社会の中で「自分たちを認めてください」と声をあげることはまずしないだろうと思われる。ひっそりと生きるというか…。
そういうこともアタマをかすめつつ、でもあくまでも「物語」として、感情移入しながら読める。
「ママ」のキャラクターも素晴らしい。
多くの人が、彼女のように生きたいと思うのではないかな。明るく、日々の些事に振り回されることはなく、どちらかと言うと自分が周りを振り回す方。でも決して不快感を与えるわけではなく、人を惹きつける。そして楽しかった、と言って死んでいける。
主人公はそんな「ママ」の思い出に耽りつつ、ゆっくりと年をとっていく。人の死も、年をとることも、生きていく限り心から追いだすことができない誰かに対する「想い」も、決して抗うことはできない、というその事実に、じんわりと感じるものがある。
Posted by ブクログ
水、と、鳥。崩壊と変化を、モチーフにのせて描いている。崩壊は「死」も含む、ただ変化しているようで、根本は変化していないのかも。
肌を重ねる様子を、太刀魚に譬えて描くだろうか…言葉がきれいで驚いた。
Posted by ブクログ
両親(兄妹、でも肉体関係なし)のもとに生まれた近親相姦姉弟(肉体関係あり)の生まれてから約50年間の話。戦後から昭和の終わり、バブル崩壊、松本サリン、阪神淡路大震災など当時の大きなニュースが挟まれるのが特徴的。登場人物が皆どこか不思議だけれど、純文学。
やはり文章が美しい。
Posted by ブクログ
人間は70%が水でできてるっていうけど、相手と一つになることを水が混じり合う様に例えていた。境目がなくなる感じとか、一つになることが当然のような感じとか。周りがどう、とかではなくて、馴染むか馴染まないか、なんだなと。まさに、水の様に流れていく文章。複雑な登場人物関係のはずなのにそれを感じさせないのがすごい
Posted by ブクログ
いつだって家族の中心にいたママが
病気になって死んでいくまでと、
都が本当に愛していた人は、弟の陵だったこと。
時々尋ねてきてくれる武治さんのこと。
パパは本当のパパではなくて、
ママの兄だったこと。
互いを思い合う姉と弟。
その思いは恋を超えている何か。
p39ママが
都たちが子供の頃の話をしているとき
当時は理解できなかったけれど、なんとなくママがわざとふざけているようにわたしは感じられた。
後年、ママは、子供を育てるなんてこと、不真面目にでもやらなきゃ、たまらない苦行だわよって打ち明けて
じゃあ、わたしや陵を育てるのも苦行だったのかと都が聞けば
いいえ、苦行じゃなかったわ。だって、不真面目に育てたからね。
って言うところが印象的で
粋なママだなあって、面白かったなあ。
自分とはあまりにもかけ離れている状況で
なんだかあんまり共感はできないのだけど
彼らの心情や文章の作り方書き方が絶妙で
うまいなあ、って。本当にすごい。