【感想・ネタバレ】病魔という悪の物語 ──チフスのメアリーのレビュー

あらすじ

料理人として働いていた彼女は、腸チフスの無症候性キャリアとして、本人に自覚のないまま雇い主の家族ら50人近くに病を伝染させた。「毒婦」「無垢の殺人者」として恐れられた一人の女性の数奇な生涯に迫る。

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Posted by ブクログ

コロナ禍の時に発売された理由がわかった。
付箋をしながら読んだ本。
これはかなりの勉強になりました。
知らずに人に病気をうつしている……無症状のコロナ患者さんもいたよね。

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2024年02月25日

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公衆衛生と個人の自由の問題は難しい.この本はチフスのメアリーとして世界中に固有名詞のように知れ渡った女性個人に光を当て,健康ではあるが保菌者であったために35年間も隔離されて生きたことについて問題提議し.読者に問いかけている.新型コロナウィルスの脅威にさらされている今,切実な問題だ.文章もわかりやすく簡潔でしかも奥深い.たくさんの人に読んで欲しいと思った.

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2021年02月12日

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「チフスのメアリー」症例がステレオタイプ化されてゆく過程をていねいに追ったモノグラフ。今回のコロナウイルス禍をうけて再版されたようだが、たしかに、いま読む意義は大きい。内容はポイントを押さえ、深いが、プリマ—新書のフォームで平易かつ簡潔、コンパクトにまとめられている。

二〇世紀初頭、アメリカ。移民のお手伝い女性メアリーが、チフスキャリアである可能性が判明し、自由を制限されて隔離される。当時の公衆衛生的状況もあいまって、キャリアであることがスティグマ化され、患者がひとりの個人であるという事実が消えてゆく。


これをみてなんとなく思い出すのは、最近のラノベなどで見かける著名作家などを用いた歴史改変的なフィクションのアイデアである。ラノベに限らず、政治家などを戯画化・物語化する演出も同じだろう。実在の人物をキャラクター化して面白がる、エンタテインメントとして消費するというメカニズム。

実在の人物が存在しているということが分かっていればよいが、通常、大衆はメディア上に現れたイメージをホンモノだと思い、好き勝手に消費してゆく。現実のその人物の生き方と、メディア上のイメージの乖離がおそらくは本書の一つのテーマになっている。

物語化・ステレオタイプ化の誘惑は大きいし、特に大衆・マスメディア社会にとっては強力なルアー(疑似餌)であることが再認識される。

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2020年05月31日

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本書が初出版されたのは2006年とのこと。某新型ウイルスが猛威を奮っている2021年現在にこの本を知った。まるで予言書のように感じた。しかし読み進めると予言書などではなく、いつだってこの地球には感染症が身近になる可能性はあるということが書かれている。歴史は繰り返すのだ。現代の「チフスのメアリー」に自分がなるかもしれない(あるいはなっている)ということを理解していれば感染者の人権を無視して社会から隔離することしか頭にないような頭の固い人間にはならないはずなのに…。

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2021年06月22日

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「チフスのメアリー」と呼ばれた女性をご存知だろうか。
メアリー・マローン。1869年生まれ、アイルランド系移民。少女の頃にアメリカに移住し、大人になってからは賄い婦として働いた。料理はうまく、子供の面倒見もよかった。勤め先は何度か変わったが、雇い主からは総じて、よい評価を得ていた。
だが、37歳の時、彼女の人生は急転する。1900年初頭、腸チフスが流行しており、死者もかなり出ていた。公衆衛生の専門家が腸チフス患者を複数出したある一家を調べていたところ、1人の賄い婦の関与が疑われた。その足取りをたどると、彼女が務めた先々でチフスの発生があったことが判明した。その賄い婦こそ、メアリー・マローンだった。
メアリー自身はチフスの症状を示していなかった。健康状態は良好でありながら菌を身体に持ち続ける健康保菌者=無症候性キャリアだったのだ。
ある日突然見知らぬ男が訪ねてきて、あなたは病気をばらまいているかもしれないから、糞尿のサンプルを渡せと言う。チフスに罹った覚えもなかった彼女は仰天した。専門家は何度も訪れたが、彼女は激しく抵抗し、格闘の果てに病院に収容されてしまう。排泄物を検査するとかなりの濃度の菌が検出され、メアリーは川に浮かぶ島の病院に隔離されてしまう。
それから死を迎えるまで、実に30年もの間、数年を除き、彼女は隔離状態に置かれることになる。

一度は解放されたものの、「今後は料理人として働かないこと」という条件付きだった。だが、数年後、彼女はやはり賄い婦として働いていて、感染源となってしまう。偽名を使っていたが、メアリーであることが露見し、彼女は再び収監される。その後は、自由の身になることはなかった。
再び賄い婦となった経緯ははっきりしないが、長年生業としてきたもの以外の職で生計を立てることは難しかったのかもしれない。

「チフスのメアリー」という呼称が使われたのは比較的早い段階からだったが、当初は彼女に同情的な見方も多かった。何せ、健康保菌者という概念がそれほど浸透していなかった時代である。彼女は病気を広めたかもしれないが、そこに悪意があったわけではない。
だが、後年、彼女の存在は徐々に象徴化していく。周囲に病気や害悪を垂れ流すものとして。
その死の直後よりも時が経つにつれ、50年代、60年代以降、その存在は創作に取り込まれ、都市伝説のようなものを生んでいく。はた目にはそれとわからず、社会に禍をもたらすもの、その1つの象徴となっていくのだ。

当時、チフスを撒き散らしたのはもちろん、メアリー1人ではない。多くの症候性、無症候性患者がいたわけだが、実は、彼女ほど長く収監されたものは他にない。そこにはおそらく、いくつかの偶然があった。彼女が独身であったこと。移民であったこと。貧しい賄い婦であったこと。弁護士や恋人などの支援者が亡くなってしまったこと。弱い立場の彼女はいわば「歴史のふきだまり」にはまりこんでしまったのかもしれない。
本書では、彼女の人生を丁寧に追っており、社会的背景も興味深い。

ちくまプリマー新書は、ヤングアダルト層をターゲットにしたレーベルで、本書も非常にわかりやすく読みやすく書かれている。
本書の発刊は2006年で、コロナ禍よりもずっと前のことだが、書かれている内容は現在の状況にも通じる部分があり、さまざま考えさせられる。

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2021年05月18日

Posted by ブクログ

近所の本屋さんの特集の中の一冊。
ちくまプリマーだし気軽に読めそうと購入。

「病気になった人も一人の人間なんだから、必要以上に責めちゃいけないよ」ということだけど、今のコロナ禍にずいぶん合致していて驚いた。14年前の本なのに。
驚いたということは、少なくともメアリーがいた19世紀から、人の感情は大した変わっていないんだなぁ。国内外関わらず。

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2020年10月04日

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新型コロナウイルスの感染が拡大し続けている昨今、無症状での保菌者(キャリア)がどこにいるかはわからず、不安に駆られることも多いと思います。
特に、感染しながらも外出したり会食したりして(故意に)感染を拡大させていると考えられ、批判される人々も少なくありません。

そういった、多数の感染者を生むキャリアとして初めて歴史に名を残したのが、腸チフスを広めたメアリ、「チフスのメアリー」でした。

彼女は、社会の感染拡大を防ぐためとして、その半生を隔離されて過ごします。彼女以外にもキャリアと断定された患者もいましたが、彼女だけが「病原菌を垂れ流す悪魔」として非難され、隔離され続けたのです。
そこには、自分よりも弱いものを見つけて安心しようとする人間や社会の心理が働いていた部分もありますし、センセーショナルな報道をつづけたメディアの責任もあると思います。

「チフスのメアリー」として、もはや一般名詞のように使われている彼女ですが、彼女は悪意をもって感染を広めていたわけではないということも、その生涯をたどると見えてきます。
邪悪な象徴とされた人であったとしても、感情や悲しみ、夢を抱えた一人の人間であった/あるということを忘れず、「一人の人間を大事にする」ことが、特に今のこの社会では必要なのだと感じます。

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2020年07月26日

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「チフスのメアリー」が気になって読みました。

1人の女性がある日、腸チフスのキャリアの可能性を告げられる。
自覚症状はないので、女性は戸惑い、混乱する。
検査への協力を拒否したことで、捕らえられ、長い時間を監禁された環境の中で暮らすことになり、そこで人生を終えることになる。

公衆衛生の観点と、個人の自由という観点と。

腸チフスのキャリアは彼女1人ではなかったのに、なぜ彼女だけが長期間監禁されることになったのか。

そこにある社会的な背景。当時の、世間の眼差し。

新型コロナの感染予防対策が求められる今、1人の人を「人」としてみることの大切さを改めて考えさせられました。


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2020年06月19日

Posted by ブクログ

チフスのメアリーは無自覚の感染者。今回の新型コロナウイルスのことをあてはめて読んでしまう。この本では無自覚の感染者が決して悪ではないって言っている。ゼロ号患者についても色々かんがえさせられた。個人の自由をしばって隔離するなら補償が必要だってことも納得する。メアリーは普通の女の人だったと思うから。

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2020年06月05日

Posted by ブクログ

言ってることは正しいと思う
しかし腸チフスという病魔の変遷にしても、メアリーという個人の物語としてももう一歩踏み込みが欲しかった

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2024年05月25日

Posted by ブクログ

あえて淡々と語られる歴史の中から、可哀想な女性像を想像してほしい、はわたしには難しかった。
また、社会構造による世間の恐怖と一個人の弱さの対立は分かるが、いざ身近に危機感が迫る社会構造側の人間描写もほしかった。
コロナの時代になっても、人間はそうそう変わらない。

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2023年01月14日

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19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカに生きたメアリー・マローンという女性の話。37歳の時に健康保菌者ながら腸チフスのキャリアであることが発覚し、以後死ぬまで2度に渡る隔離島での生活を余儀なくされた。

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2020年10月23日

pon

購入済み

やっと読めました

ずっとここ何年か、中古の本屋で探していましたが出会えず。入荷情報が入ったらメールで連絡を受け取るのにも登録していましたが、いつもすぐに売れてしまっており、なかなか購入できず。昨今のコロナ感染症問題もあり、さらに人気が上がったでしょうか。
中古なら多少安く購入できるであろうと思っていたものの、実際の本ではなかなか手に入らないなと思い、電子書籍で購入しました。
無症状キャリアという概念がまだはっきりわかっていなかった頃の公衆衛生の対策の難しさ、住民への理解の得方など、とても興味深く読めました。

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2020年09月06日

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アイルランド系移民、カトリック、貧しい賄い婦、女性、独身…これらすべてが重なり合い、メアリーに不利に働いた。という描写が印象的。

単にキャリアの話としてではなく、実際にこの「メアリー・マローン」という女性が生きていたことに思いを馳せる。

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2020年08月07日

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20世紀初頭でも、もし無症状の保菌者に感染リスクの多い仕事につかないように強制するならそれなりの補償をすべきだ、といった論調もあったことや、メアリーの隔離に対し人権の立場から抗議の声をあげる弁護士がいたことに少なからず驚いた。翻って今のコロナの現状を見てみると、この100年人の意識はあまり変わっていないのではないかという気がする。国の対策も過去から何も学んでいないのではないか。今この本が再販された意味は大きい。

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2020年07月23日

ネタバレ 購入済み

病魔という悪の物語

チフス菌がずっと体内に潜伏していて、それが威力を持っていて人に感染するというのに驚いた。
陽性だったり陰性だったりするのはなぜなのだろう?
現在の医学なら究明できるのか?
保菌者であるだけで責められることへの恐怖も感じた。
メアリーがもっと治療を素直に受ければ、自覚を持って注意して行動すれば彼女の人生は豊かになれたのだろうか?
後味は良くないのは、事実なのだからだろうか。

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2020年06月09日

Posted by ブクログ

住み込み家政婦として働くメアリーは料理が上手く信頼される女性だった。ところが彼女が住み込み先を変えるたびにその家からチフス感染者が出て・・・。19世紀の後半に生きた「チフスのメアリー」と呼ばれる女性の物語が、コロナの時代を生きる私たちにたくさんのことを問いかけてきます。今読んでおきたい一冊。

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2020年05月26日

Posted by ブクログ

 公衆衛生関係ではよく出てくる、症状はないが病気にかかっており菌を持っている、「健康保菌者」の料理人であったために雇い主やその家族を次々にチフスに感染させていった、「チフスのメアリー」についての本。
 チフスという病気についての説明や、彼女がいた当時の時代背景の説明などに多少の専門用語が使われているが、この本のメインはメアリーの人生であり、全体的に読みやすく平易な言葉遣いだと思う。
 「迷惑なキャリア」「無知なキャリア」の代名詞ともなっている「チフスのメアリー」がどう生き、どう死んだのかを(多少は著者の解釈も混じっているが)「一人の女性」として書いている。どんな人にも一人ひとりの人生があり、ニュースで「連続殺人犯」と紹介された人物をそのまま冷酷な殺人鬼だと思って誹謗中傷を投げかけて良いのだろうか、という疑問も抱かせる。
 「放っておくと多数の人間を感染させ、病気にする人間」の自由を、「多数の人間の健康」のために拘束するのは正しいのか。私は仕事上、正しいと思う。
 しかし、どの程度拘束するのか。拘束される彼、彼女たちはそれぞれ別々の人生を歩み別々の考えを持つ一人の人間であるのに、一律に取り扱っていいものか。
 そういったことを考えさせる。

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2018年12月27日

Posted by ブクログ

チフスのキャリアであったことから自由を奪われる生活を余儀なくされた「チフスのメアリー」ことメアリー・マローンという一人のアメリカ人女性の生涯をたどり、科学と社会の間で引き起こされる問題に読者の思索を導こうとしている本です。

おそらく著者がめざしているのは、ソンタグのエイズ論などと同じく、「病」という表象が私たちの社会においてどのように機能するのか、という問題を若い読者に考えさせることだったのではないかと想像するのですが、本書を読んだ限りでは、読者は個人の自由と社会全体の安全との相克いう制度的なレヴェルの問題で理解してしまうのではないかという印象を拭えません。

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2015年11月04日

Posted by ブクログ

今から100年ほど前のアメリカで、腸チフスの健康保菌者(キャリア)という理由で30年近くもの間、隔離生活を強いられた女性がいた。市民への感染を防ぐために保菌者を隔離するということは、一見ごくまっとうな政策に思えるけれど、私がここから連想したのは、日本で行われていたハンセン病患者の隔離と、やはり日本の薬害エイズ訴訟で顔も名前も伏せていた(公表できなかった)エイズキャリアの人たち。悪いのは病魔であって、その「人」ではないはずなのに、その人の自由が奪われ、人生が狂わされていく社会って…。あまりにも難しい問題ですが、やさしく静かに問いかけてくれる一冊でした。

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2011年08月06日

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