あらすじ
「同じ男とはうち、一度しか寝えへん」そんな女と、どう付きあう?
新境地を切り開いた傑作青春小説!
釜ヶ崎のドヤ街に暮らす僕に、奇妙な依頼が舞いこんだ。
金持ちの奥さんの話を小説に書けば、三百万円もらえるというのだ。
ところが彼女は勝手気儘で、身の上話もデタラメばかり……。
彼女はなぜ、過去を語らないのか。
そもそもなぜ、こんな仕事を頼んでくるのか。
渦巻く謎に揉まれながら、僕は少しずつ彼女の真実を知っていく。
※この電子書籍は2011年5月により筑摩書房より刊行された単行本を、文春文庫より文庫化したものを底本としています。
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Posted by ブクログ
短編や映像化作品には触れたことがある中で、初めて読んだ長編の森絵都作品。
捉えどころのない前半と急転直下の後半。
「なんで家族にならなあかんのか。他人のままでええ感じにおられんのか」
「言わへんかったから、わからへん。人間、嘘でもなんでも、言わへんよりは言うたほうがええねんで」
家族になること、恋人になること、他人のままでいること、幸せになること、お金を持つこと、全て捨てること、
それぞれの幸せに説得力と責任を持たせるために、静かに地道に物語を積み重ねていくところに好感が持てた。
ラストシーン、尻切れとんぼのように終わっているようにも感じるけれど、
この2人の物語はここでおしまいということなんだろう。
そのあとにどんな悲惨が待ち受けていても、彼らの間には「幸せ」があった。
そう思うと、本当に「幸せ」というのは一瞬のささやかな出来事で、見逃さないように目を凝らしていないといけないんだろうな。
礼司が注意深く結子のことを見続けていたから、ささやかな幸せに泣けるようになったんだろう。
そういう意味で最後の場面は詩だなあと思う。
日常の詩。
面白い小説だった。
Posted by ブクログ
消化作業で読み始めたつもりがなかなか面白かった。謎解きものかと思ったら、人間の力強さを感じさせる話だった。最後まで読むと冒頭に戻らずにはいられない。戻ってきて、良かった。きっと彼は、そしてこの女は生きている。