【感想・ネタバレ】この女のレビュー

あらすじ

「同じ男とはうち、一度しか寝えへん」そんな女と、どう付きあう?
新境地を切り開いた傑作青春小説!

釜ヶ崎のドヤ街に暮らす僕に、奇妙な依頼が舞いこんだ。
金持ちの奥さんの話を小説に書けば、三百万円もらえるというのだ。
ところが彼女は勝手気儘で、身の上話もデタラメばかり……。
彼女はなぜ、過去を語らないのか。
そもそもなぜ、こんな仕事を頼んでくるのか。
渦巻く謎に揉まれながら、僕は少しずつ彼女の真実を知っていく。


※この電子書籍は2011年5月により筑摩書房より刊行された単行本を、文春文庫より文庫化したものを底本としています。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

とても面白かった。叙述的でおもしろく構成されていて読み応えありました。今までの森さんの作品とかなり違う印象を受けましたが、読後の余韻もよくとてもよかったです。

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2020年06月20日

Posted by ブクログ

再読。

結子の一代記という記憶でしたが、全然違った。
貧困とハンディキャップの問題を絡めた、二人の男女の切ないストーリー。

掴みどころのない結子という女。
富豪の妻の彼女の出自が明らかになるにつれ、彼女を見る目が変わります。
ストーリーテラーの礼司にも何かあると思いながら、そこに行き着くまでの間が絶妙でした。

プロローグの手紙を読み直し、自分の前回のレビューを読んで、また同じ気持ちに。
2人は何食わぬ顔をして、東京で暮らしてて欲しい。そう願います。

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2019年09月16日

Posted by ブクログ

自分が生まれた歳におきた、阪神淡路大震災。それが気になって手にとった本でした。

働くということ、生活を営むということ、家族とはなにか、幸せとはなにか。

人生のどん底から這い上がる人々の強さと弱さに触れ、明日を信じたくなる一冊。

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2019年04月24日

Posted by ブクログ

90年代中盤の関西を舞台にした、骨太な人間物語。全部読んでからもう一度見返すと、冒頭の木之下教授の手紙がこの本の全てを語っているような気がします。「この女」だけでなく「この男」、いや、登場人物すべての人生に波乱万丈と哀愁と激情がが入り混じり、その全てを恐らくは"時代"が押し流していきます。

不穏としか言いようがなかった1995年。世の中も自分もどうなるのかまるで見えなかった、そんな年。大輔と同年代の自分にとって、あの頃の空気感をまざまざと思い起こさせてくれる、そんな作品でもありました。

物語は「この先」でどうなっていくのか。そこが知りたくもありますが、このもやっとした、色々な事を読者に夢想させる終わり方もまた90年代らしいのかもしれません。

本書を手に取った頃にオウム事件は区切りを迎え、カジノ構想は再び目を覚まそうとしている。時代って巡るものですね。

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2018年09月16日

Posted by ブクログ

久しぶりに一生懸命読む本に出会いました。森絵都さんは前に一度何かを読んだ記憶がありますが、その時こんな感じはありませんでした。ブラリぶらりとあっちこっち揺れながらどこかに向かうこの二人はとても魅力的です。
映画にするなら結子は誰なんかな?不良っぽさがあって色気があって…上野樹里さん、完璧じゃないですか?

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2017年06月27日

Posted by ブクログ

森絵都のこの女を読みました。

大学を出ていながら、釜ヶ崎のドヤ街で暮らす主人公礼司に奇妙なバイトの依頼が来ます。
ホテルの経営者二谷からの妻結子の自伝を小説として書いてほしいという依頼なのでした。

早速その依頼を受けて、その結子という女性へのインタビューを始める礼司なのでしたが、結子は自分の生い立ちについてデタラメの作り話をするだけなのでした。
しかし、しつこくインタビューを重ねるうちに少しずつ結子は自分のことを話すようになってきます。
なぜ、結子の自伝が必要なのか、二谷と結子のなれそめ、といった謎を解いていくうちに、礼司の持つハンデについても明らかになって、礼司の小説はその様相を変えていきます。

結子という女性の印象が物語の前半と後半で大きく変わってくるのもこの小説の魅力だと思いました。

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2016年07月22日

Posted by ブクログ

中学以来に読む森絵都。
懐かしくってうまく引き込まれていって序盤からわくわくしながら読んだ。
すごい。

この時代の背景と、主人公、結子、大ちゃん、松ちゃん、敦、ビリケン男たちの葛藤と強さが交差して面白かった。
強くてかっこよくて憧れる。

最後まで読んだあとにエピローグを読んでもう一回12章まで戻ってまた読んだ。
エピローグにもあるし、作中にも言われてるけど、この本はこの女ではなくこの男という題名がぴんとくる。
でも、この女っていう題名でよかった。

気がついたら私も泣きながら読んでいた。

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2016年06月18日

Posted by ブクログ

小説とは経験ではなく想像力から成るものだ。僕は自分の貧困な発想を呪った。語彙の乏しさを、構成力の欠落を、「あほんだら」を「亜本田ら」と変換するワープロの知的レベルを呪った。
価値のない過去なんかない。どんな人生かて、世界にひとつの物語を持っとる。物語にする価値を持っとるわ。
そう考えると、人の生涯を完全に掌握するなど不可能にしても、朧気ながら過去の道筋が仄見えてくる。自ら立てた荒波の力をもって強引に突き進むその航路が。見えないのは未来だ。

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2015年10月10日

Posted by ブクログ

阪神淡路の震災の頃、こんな人生があったのでしょう。熱く暑く熱く、せつなく、ほろり、ニヤリ、その上あの宗教まで。
濃い濃い濃い青春それを取り巻く濃い濃い人々
扇風機を出した暑く息苦しい今日に相応しいお話しでした。

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2024年07月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

短編や映像化作品には触れたことがある中で、初めて読んだ長編の森絵都作品。

捉えどころのない前半と急転直下の後半。

「なんで家族にならなあかんのか。他人のままでええ感じにおられんのか」
「言わへんかったから、わからへん。人間、嘘でもなんでも、言わへんよりは言うたほうがええねんで」

家族になること、恋人になること、他人のままでいること、幸せになること、お金を持つこと、全て捨てること、
それぞれの幸せに説得力と責任を持たせるために、静かに地道に物語を積み重ねていくところに好感が持てた。

ラストシーン、尻切れとんぼのように終わっているようにも感じるけれど、
この2人の物語はここでおしまいということなんだろう。
そのあとにどんな悲惨が待ち受けていても、彼らの間には「幸せ」があった。
そう思うと、本当に「幸せ」というのは一瞬のささやかな出来事で、見逃さないように目を凝らしていないといけないんだろうな。
礼司が注意深く結子のことを見続けていたから、ささやかな幸せに泣けるようになったんだろう。
そういう意味で最後の場面は詩だなあと思う。
日常の詩。

面白い小説だった。

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2022年07月18日

Posted by ブクログ

生きづらさ、貧困、周囲の無理解...。誰しもがセーフティーネットから零れ落ちる可能性がある。そこからの劇的な逆転も...。読み始めは同姓同名の作者が書いたのかと思っていたが、ラストは著者らしさで満たされた。じっくり向き合いたい一冊。

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2021年12月18日

Posted by ブクログ

卒業式がなくなって、入学式もなくなって、ゴールデンウィークの予定もすっかり白紙、それどころか、世界的イベントであるはずのオリンピックまで延期されてしまった2020年。予定はあくまで予定であって未来というものは過去になってみないと確定しないものだとつくづく思います。でもそんなことが繰り返されてきたのも人間の歴史です。東日本大震災が、熊本地震が、そして90年代には阪神・淡路大震災もありました。不可抗力により全く意図せず変化する未来。公に予定されていたものがキャンセルになると、逆にそのこと自体が大きな出来事として歴史に刻まれます。でも、一方で皆をあっと言わせるために秘密裏に進められていた予定が不可抗力により頓挫してしまうと後には何も残りません。でもはっきり言えるのは、いずれであってもその結果によって人生を、未来を左右された人々がいるであろうということです。それが運命、それも含めて運命ということなのでしょうか。

『前略。いつも年賀状を有難う。君が探していた原稿が見つかりました』という手紙の書き出しから始まるこの作品。ただし、この作品の体裁を見てわかる通り、この手紙の位置づけはあくまで序章にすぎません。ただし、この作品を最後まで読み終えた読者は、必ずこの手紙を読み返します。無性に読み返したくなります。中には、読書中でさえもこの手紙のことが気になって仕方がなくなる人もいるかもしれません。そして作品を読み終えてこの手紙を再び読み返す時、いたたまれない切なさと、ぽっかり穴が開いたような寂しさに包まれることになります。そして、感じます。同じ文章を読んでいるのに、一度目と二度目でそこに見えるものがこうも違うのか、と。

『実在する女の人生を小説にする場合、果たしてどのような書き出しが最も望ましいのだろう』、序章に続いて始まる第一章もとても不思議な書き出しです。そして、『ここに来れば仕事があるって聞いたんですけど、なんやようわからへんで。ぶっちゃけ、仕事ってどうやって探せばええんですか』という青年が現れます。神戸大学文学部の三回生・藤谷大輔。『俺、この釜ヶ崎を題材に小説を書いたるつもりやねん』と語る大輔。そうです。ここは、『行政からは 「あいりん地区」なる名称を押しつけられ、世間一般からは無法地帯なみの劣悪なイメージを植えつけられている』大阪・釜ヶ崎。『職探し以外の目的でやってくる人間は限られている』という街。そして、ここにやってくる人間は『ここへ来れば自分よりも不幸な人間に会えると信じている』と言われる街でもあります。

そんな大輔からひょんなことで彼の大学の夏休みの課題小説の代筆を引き受けた甲坂礼司。出来上がった小説を受け取って釜ヶ崎を去った大輔。『しかし、大輔は一年の時を経て再びここへ戻ってきたのだ。僕への新たな小説の課題を携えて』と再び礼司の前に姿を表します。小説の依頼者は『ウエストホテル社長 二谷啓太』、『初めて足を踏みいれた芦屋は釜ヶ崎の対極にある街だった』と彼の自宅に赴く礼司と大輔。そこで『女房の人生を小説にしてほしい。私の希望はそれだけです』という二谷。『小説の枚数は原稿用紙にして二百枚前後。締め切りは三ヶ月以内。前金として百万、小説が完成してから二百万』という、その日暮らしの礼司には破格の謝礼の元、礼司は二谷の妻・結子を主人公とした小説を書き始めるのでした。

実は『釜ヶ崎』についての知識をほとんど持ち合わせていなかったこともあって、読書を一旦中断して調べました。『ドヤ街』『日雇い労働者』『路上生活』『貧困』などの言葉が並ぶ、その検索結果に、重い感情が私を包むのを感じました。森さんの表現も『ファンタのおっちゃんを送ったばかりの部屋には既に次なる病人の影があり、薬品臭とアンモニア臭以外の珍しい刺激が鼻を掠めると思えば、吐瀉物の臭いだった』と、付け焼き刃の知識の頭に具体的な場面がリアルに描画されていく、なんとも言えない重苦しさを感じました。

そして、主人公として最初から最後まで登場する礼司ですが、小説のモデルの結子以上に謎を秘めた存在でもあります。自転車の後部のネームプレートを見た結子は『萩ノ茶屋、のノの字が逆向いとる』と礼司に指摘します。その礼司の自転車には『片側にだけ巻きつけられた目印の赤いテープ』が付けられています。さりげなく描写される細かな記述が全て伏線となって、えっ?という予想外の展開・結末に向かって物語は進んでいきます。この作品は1994年から翌95年初頭までの大阪、神戸を舞台にしています。そしてこの95年とは序章の手紙で語られる通り『関西を襲った激震の猛威は今更ここで述べるまでもありません』と数多くの人々の日常、そして未来が突如寸断させられてしまった阪神・淡路大震災が発生した激動の年です。その事実を突きつけられることになる読後には、表紙の女性のイラストからは想像できない極めて沈鬱で重苦しい感情が残ってしまいすっかり気が滅入ってしまいました。こんなにも重い作品だとは思わなかった、これが正直な感想です。

ところで、この作品に一点難があるとすると、この作品で語られる関西弁の独特なクドサでしょうか。少し強すぎる、もしくは人によっては逆に引っかかりを感じるであろう、この『関西弁』だけは好き嫌いがハッキリ分かれるだろうなとは感じました。

ということで、この作品、構成がとても巧みで最後の最後まで結末が見通せません。そして、その結末に感じる「カラフル」のあの結末のえっ?と同じような意外感。途中までの、これは本当に森さんの作品なの?という疑問が、最後には、やはり森さんの作品だった!と変わって得られる安堵感。〈風に舞いあがるビニールシート〉同様、森さんの描くとても大人な世界の描写に存分に浸れる、そんな作品でした。

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2020年04月21日

Posted by ブクログ

冒頭で主人公の結末が分かっているだけに、最後の終わり方がどうなるのか期待しながら読み進みました。
オムライスを食する時はこの物語を思い出すかも。読後オムライスが食べたくなりました。

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2020年03月23日

Posted by ブクログ

4.0 居場所を求めて彷徨う生の物語。ただの恋愛ものになっていないのがすごい。人生の幸せって金か結婚か、はたまた子どもか?なんかわからなくなる。結末が見えずおもしろかった。小説内小説。

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2019年07月23日

Posted by ブクログ

この物語はある女についてある男が書いた小説である。

主人公は大阪の釜ヶ先で日雇い労働をしている男、礼司。
彼は友人の紹介で、ホテル富豪の妻である結子の人生を小説に書いてくれという依頼を受ける。
調査のために結子と会話を重ねる礼司だが、自分の過去を知られたくないのかホラ話を繰り返す結子。
礼司と結子との関係、釜ヶ先の状況にも色々な変化が現れ始め、それは礼司の書く小説そして礼司自身にも影響を及ぼし始める。

幼少期からの生い立ち、家族との関係、自らのハンデ。
ヒロイン結子を知り、魅かれ、小説を書き進めることは礼司が自らを見つめなおすことにも直結する。

二人の物語が徐々に渾然一体となって描かれていく勢いと「同じ男とは二度寝ない。一度寝れば家族になるから欲情しないから」など独自の価値観を持つ結子の力強さに、読者である私は魅かれていった。

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2019年03月25日

Posted by ブクログ

釜ヶ崎のドヤ街(あいりん地区)で生活をする青年、礼司がある一人の女性について小説を書いて欲しいと依頼される。
ドヤ街とは??と余り知識のない私には衝撃的な一冊となりました。
どんな生活をしていようとも、生きるというのはやはり大変だ。
食べなくてはいけないし、何よりお金がいる。
初めは礼司がドヤ街で暮らしている事に違和感を感じていたのですが、その答えはしっかりと終盤で語られています。
礼司と結子に幸あれ。

他の方のレビューを見ると、関西弁がおかしい!と多く書かれていますが、東京育ちの私には全く分からず。
『言葉の違和感』とはどんな感覚のものなんだろう、と想像してみても今一理解できず。
外国の方がヘンな日本語使ってる感じかしら?
方言憧れるなー。縄張りみたいで何か格好良し。

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2018年02月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

消化作業で読み始めたつもりがなかなか面白かった。謎解きものかと思ったら、人間の力強さを感じさせる話だった。最後まで読むと冒頭に戻らずにはいられない。戻ってきて、良かった。きっと彼は、そしてこの女は生きている。

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2017年02月16日

Posted by ブクログ

金持ちの奥さんの話を小説にすれば三百万円という奇妙な依頼。でもその奥さんには不幸な過去が・・・。薄幸な奥さんを助けるハードボイルドと思いきや、むしろ彼女の勇ましさに、たくましさに救われる再生の物語。

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2016年10月10日

Posted by ブクログ

阪神大震災の前、釜ヶ崎を舞台にした小説。
ただ、差別的に感じていた大阪の治安を少し垣間見て、同じ日本でもここまで生き方が違ってしまう人達がいるんだと初めて知った。
生活保護費を不正受給したと問題になっているが、
この世界はやっぱり弱肉強食というか、経済力のある人の元で育ち、まともな教育を受けさせてもらえることが当たり前じゃないことを理解する必要があると思わされた。
と同時に、やっぱり差別してしまう心の弱さがある矛盾にかなり考えさせられる一冊でした。

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2015年07月21日

Posted by ブクログ

釜ヶ崎、とは、どこか。日本最大の日雇い労働者の街だ。おそらく日本に住む大多数にとって、その実態を知る必要がなく、けれどもたしかに存在している街。そこに住む人々、そこを出た人々、釜ヶ崎を舞台に繰り広げられる物語は、決してお涙頂戴の安っぽい人情物語ではない。
声をあげて彼は不幸だ、と叫ぶのでも、人権がどう、と主張するのでもない。自分の足で立ち、自分の目で未来を見据え、自分の手で自分の決めた幸せを掴もうとする。
作中出てくる、カルト教団に傾倒してしまう大学生 大輔の、自分の空っぽさへの恐怖には、残念ながら共感してしまった。芯というものがない、そう気付いたときの自分への失望。ただし、それが同時に甘えであることも、わたしは知っている。この女のように生きていきたいわけでも、この男のように生きたいのとも少し違うけれど、世の中は広く、人間は弱く、そして自分はいかようにも強く変わっていけるはずだ、と感じた。

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2015年05月05日

Posted by ブクログ

小説のキーワードとしては奇妙ですが「変化球投手」そんな言葉が浮かびました。
登場人物たちも、ストーリーも、物語のつくり方も一筋縄では行かない。そんな小説でした。
登場人物も十分に個性的です。嘘しか言わないヒロインと、キレまくるくせに甘い物好きのその弟、そして共産党幹部->右翼幹部->やくざ幹部をという経歴を持つ松ちゃん。
ストーリーも先の展開が読めません。特に最後に次々と繰り出されるエンディングは見事に期待を裏返されて、しかも心地良い。直球と言えるのは、釜ヶ崎の住人、松ちゃんの想い位のものか。
一気読みの楽しい読書でした。

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2016年05月29日

Posted by ブクログ

阪神淡路大震災と、地下鉄オウムサリン事件が通奏低音のように響いていて、「その先の時間」しか記憶にないわたしはすこし、途方に暮れるけれども、「この女」を書かねばならない、という切迫感が実感を持って迫り来る。

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2021年08月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「主人公はあんたや。あんたが釜を出て新しい人生へ踏み出す。それが小説の結末やないの」

「親も親で、ぎりぎりで生きとったんやろな。元気でおったらええって、居間はそれだけや」

「言わへんかったら、わからへん。人間、嘘でもなんでも、言わへんよりは言うたほうがええねんで」
「うちが保証する。言わへんよりは言うたほうがええし、止まっとるよりは動いとったほうがええ。方向なんぞええ加減でも、動いとったらあとからついてくるわ」

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2020年12月16日

Posted by ブクログ

大阪のドヤ街に住む男と金持ちの奥さんの話。
最初はいろんな伏線ばらまいてるのかなぁ?
どう展開していくんだろうと思いながら読んでたけどなんかいろいろ中途半端だった印象。
読み方が間違ってたのかなぁ。
ヒューマンドラマ的な感じで読んでったらよかったのかなぁと思った。
でも全体的には楽しめました。

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2020年02月22日

Posted by ブクログ

1995年前後のお話で、背景としてオウム真理教や阪神淡路大震災などが匂わされる頃のお話。
釜ヶ崎の日雇い労働者の礼司は、ひょんなことで成金のホテル経営者から、その妻の自伝を書くことを依頼される。
金に目が眩み引き受けたは良いが、その妻・結子は自分のことを語りたがらず、口を開けば出鱈目ばかり、という出だし。
それでもポツポツと彼女がどういった生い立ちを経てきたかが明らかになるに連れ、物語は一筋縄では行かない方向へ。
礼司が初めて会った時に結子のことを”猥雑”と評したが、全体的になんとも大阪らしい猥雑、ハチャメチャ、逞しいといった印象を受けるお話。
ただ、結子の本当の生い立ちが明らかになってからは何となしに面白味が消えた感じは否めず。
冒頭の振りで『小説の題は「この女」ですが、寧ろ「この男」とでもしたいところです』とあり、主題はそうかもしれないのだけど、私には結子と違って礼司のほうの人生は小説的には取ってつけたようであまり面白みがなかったというところ。

釜ヶ崎には、地域企業の集まりで、人権啓発研修の一環として、一度だけ行ったことがある。
この本にもあるように『目に見える境界線があるわけでもないのに、一歩その地へ踏み込んだとたん、如実に空気の質感が変わる』というところが、確かにあった。
本の中では、町の未来を『どのみち、もう寄せ場の時代やない』と喝破され、確かに携帯電話の普及や労働者派遣法の変化など、世間はここに書かれた通りの方向に変わってしまった(本が書かれた2011年が既にそういう時代だもんね)。
後に出てきた「西成特区構想」で匂わされたカジノ構想は既に夢洲に取って代わられ、構想自体は何らか続いているようだが、実際の町の様子はどのようになっているのだろうねぇ。

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2019年06月02日

Posted by ブクログ

釜ヶ崎で暮らす礼司.頼まれて二谷結子の小説を書くことになるが,この女の嘘つきで天真爛漫でいい加減な魅力が,じわじわじわじわ浸透して礼司のみならず読者にも伝わってくる.阪神大震災やオウム事件が背景にあり,平成最後の読み物としては良かったと思う.

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2019年04月28日

Posted by ブクログ

ずっと探していた小説の原稿が、阪神大震災のさいに他のものに紛れてしまっていたのを発見した。作者は行方不明だが、先ずは読んでほしい。
誰から誰に宛てたかもわからない手紙から始まり、よくわからないまま小説が始まる。
舞台は1990年頃の大阪釜ヶ崎、日雇い労働者として働く男が、ある女の小説を書いてほしいとの依頼を受ける。その小説が本編な訳だが、まさにこの女の物語であり、この男の物語でもある。最後、彼らがどうなったのか、今どうしているのかもわからないままだが、読み終わってはじめを見ると、誰が誰に宛てた手紙かがわかるし、その意味するところの重要さに胸を打たれる。軽い話ではないし、大事件が起こるわけでもないが、染み渡る。

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2018年12月12日

Posted by ブクログ

わぁおもしろいどうなるんだ、続きが気になる!
…というタイプの本ではなく。
じっくり読まさせられる本。

弱さと力強さ
どんな人にも相反するものが存在して、
それをとても感じる話だった。

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2018年07月30日

Posted by ブクログ

デビュー当初の児童文学作家から社会派?に転身しつつある著者の、バブル崩壊、釜ヶ崎のどや街、阪神淡路大震災、オウム真理教、カジノ特区…と多くの時事ネタを盛り込んだ、ちょっと疲れ気味の青春ストーリー。
社会派に転身しつつあるとはいうものの、夜の街を自転車で駆け、夜空を見上げて、寄り添う姿は、「宇宙のみなしご」や「つきのふね」と通じるものがあるように感じる。
以前の作品からは艶めかしくなったが愛でも恋でもない人と人としての寄り添い方と、憎むに憎めない登場人物たちの織り成すストーリは、なんとなく温かく、明日への仄かな期待を抱感じた。

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2015年09月11日

Posted by ブクログ

震災後15年して見つかった小説
そこに書かれていたのは震災前日までの一人の青年と
彼を変えた女性の話が綴られていた。


大阪の釜ヶ崎で日雇い労働者として暮らす礼司は
ホテルチェーンのオーナーの二谷啓太から妻である
二谷結子を主人公にした小説を書いて欲しいと頼まれる
手付金は100万円、小説が出来上がったら200万円
破格のバイト代に訝しながらも受ける事となる。


礼司はバイトを紹介してくれた大学生の大輔の部屋へ
居候し結子の取材を始めます


しかし彼女はかなりエキセントリックな女性で
過去を偽ることへの躊躇を見せず、すらすらと嘘を吐く
礼司は聞き役に徹し積もった嘘の中からそれなりの
真実を導く、そのひとつが彼女が語る少女時代は
例外なしに皆、寂しいという事。


そして、結子は壊れているけど空っぽではなく
乱れているけど汚れてはいない
同じ女性として理解できない部分もありますが
惹きつけられる女性です。


結子に振り回され小説は一行もかけないまま
3か月が過ぎる頃、見るからにカタギではない
風貌の結子の弟の敦が登場し、結子が元夫の所に
置いてきた子供の太郎にも会い少しずつ小説は
進み始めたが、二谷啓太は妻結子の波乱万丈な
人生の小説を欲していたのではなく
ある計画の為だった、それは礼司が日雇い労働者として
働いていた釜ヶ崎地区をめぐる陰謀の取引材料として
結子の人生の一部が必要だったのだ。


礼司が釜ヶ崎で働いていた理由に
結子は「人生いろいろやな」と一言でまとめてしまった
礼司はその言葉の足りなさに不満なようだったが
彼女は過去に興味がない、意味があるのは
「今だけ」で、生きるために必要なことは
忘れ去ること、結子はそうやってたくましく
生きてきたのだろうと思う。


礼司にも結子にも何かしらの救いはあったと
思えるような最後でしたが読後感は何とも複雑でした
結子の変わった恋愛観に礼司も包み込まれ
とても脆く儚げだけどこんな愛のかたちもありなのかな。
小説内小説という手法で描かれた作品でしたが違和感なく読めました。

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2017年09月20日

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