【感想・ネタバレ】かわうそ堀怪談見習いのレビュー

あらすじ

わたしは「恋愛小説家」と肩書きにあるのを見て、今のような小説をかくのをやめようと思った。
恋愛というものにそんなに興味がなかったことに気づいたのだ。これからなにを書こうか。


環境を変えるため、三年住んだ東京を離れ、中学時代に住んでいた区の隣り、かわうそ堀に引っ越した。
そして、考えた末に怪談を書くことにした。そう決めたものの、
わたしは幽霊は見えないし、怪奇現象に遭遇したこともない。
取材が必要だ、と思い立ち、たまみに連絡をとった。

中学時代の同級生・たまみは、人魂を見たことがあるらしいし、怖い体験をよく話していた。
たまみに再会してから、わたしの日常が少しずつ、歪みはじめる。

行方不明になった読みかけの本、暗闇から見つめる蜘蛛、
こっちに向かってきているはずなのにいっこうに近くならない真っ黒な人影、留守番電話に残された声……。

そして、たまみの紹介で幽霊が出るとの噂がある、戦前から続く茶舗を訪れる。
年季の入った店内で、熊に似た四代目店主に話を聞くと、
絶対に開けてはいけないという茶筒、手形や顔が浮かぶ古い地図があるという。
そして、わたしはある記憶を徐々に思い出し……。

わたしの日常は、いつからこんなふうになっていたのだろう。
別の世界の隙間に入り込んでしまったような。

柴崎友香が、「誰かが不在の場所」を見つめつつ、怖いものを詰め込んだ怪談作品。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

幻想小説は好きだが、怪談には手を出さずにきた(たとえば平山夢明の小説は好きだが、彼の実話怪談ものには手を出していない)。
そうして読んだ本作。
筆のすさびに怪談専門誌「冥 Mei」に書いたんだろうなと少し侮っていたが、いやいや、怖い怖いマジで。
ただしおそらく実話怪談的な怖さではない。
柴崎友香がずっと書き続けてきた、記憶の不思議さ、忘却と抑圧、目の前にいない人が気になるとはどういうことか、といった事柄が、すべていちいち怪談と親和性が高いのだろう。
というか認知の曖昧さと記憶の不確かさはそのまま怪談。
語り手の体験を細切れに書くが、その感覚した事柄ひとつひとつが、認知や記憶のフィルターを通すと、もう怪談にしか見えない。ここが実話怪談との違い。
そのわかりやすい例が、入眠時幻覚すれすれの恐怖体験だ。
もはやこの作品が書かれてしまった以上、柴崎友香の過去の作品未来の作品すべてが怪談に転じ得る。
語り手≒視点人物の世界認識と文体は関連しているが、やはり柴崎友香文体が怖いのであって(奇想の藤野可織や松田青子とは路線がちょい違う。記憶や人称という点では似ているのは滝口悠生や奥泉光か)、きっとこの流れで実話怪談に手を出しても怖がれるわけではなかろう。
そういう意味では筆のすさびでは全然ない、極めて構築的な小説を読んだわけだ。
終盤に明かされるのは、柴崎友香なりのミステリでもあるし、文体の伽藍こそが怖さを生み出すのだ、とも言える。
柴崎友香の「語り手のやばさ」はなかなか言語化しづらいのだけれど、この作品はその極北。

連想。黒沢清「回路」。というか全作品。曖昧さという点で、世界の見方や感じ方が似ているのではないだろうか。
また、テレビとマンションの一室という点では、村上春樹「アフターダーク」、その流れでデヴィッド・リンチも、具体的に言えないが「テレビ的」。

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2020年05月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

注:内容にちょっとだけ触れています。

自分は、ホラーや怪談が大好きなバカな人だ(^^ゞ
だから、ホラーや怪談の出来にはやたらうるさいw

ホラーや怪談が好きな人って、世間的には「バカな人」として一緒くたにされがちだけど、実はホラーや怪談が好きな人が好むそれらというのは個々の人で大きく違う。
ホラー好きと怪談好きでは、“怖さ”のテイスト好みが全然違うことが多いし。
ホラー好きの人、あるいは怪談好きの人が「コレいいよ」とススメてくれた小説や映画が、他人には全然ダメということも普通だ。
個々のホラー好き・怪談好き、それぞれが好むテイストというのはもの凄く狭い範囲で、かつそれぞれの人で全然違うのだ。

何を言いたいかと言うと、この小説にはタイトルに「怪談」とついているが、竹書房から出ているような「実話怪談」本が好きな人は読まない方がいいということ(^^ゞ
『かわうそ堀怪談見習い』は間違いなく怪談の本だけど、いわゆる「実話怪談」のような怪談オタクのツボ押しまくりな、すんごぉ〜く怖い話はないw
そもそも、タイトルに「呪」、「忌」、「禍」、「凶」、「憑」…みたいな、おどろおどろしい文字がない(爆)
それどころか、『かわうそ堀』みたいに、どこか素っ惚けた文字が並んでいたり。
そもそも、『見習い』だw
その『見習い』も、独り語りの主人公(著者?)が、自分の肩書に「恋愛小説家」とあったのを見て違和感を覚え、“わたしは、怪談を書くことにした。”って言うんだから、その辺は察するべきだろう(^^)/


じゃぁ、この本を読んで怖さを感じないかと言うと、そんなこともない。
いや、一つ一つのお話に怖さはない。
それこそ、竹書房の「実話怪談」本が好きな人なら、怪異の部分に気づかないで読み終えちゃう話ばかりなんじゃないか?wってくらいだ。

ただ、ずーっと読んでいると、何かの拍子に、ふと、その情景が浮かぶ。
その、“そこはかとない怖さ”が悪くないのだ。
「あぁー、怖いかも…」みたいな怖さっていったらいいのかな?
本を読んでいて、そこに描かれた情景がふわぁーっと頭に思い浮かぶことで、怖さがじんわり滲んでくる。
つまり、「怪談」というよりは「小説」だし。
そもそも、著者もそういうのを目指したような気がする。
実は、「二十.地図」にある、“折ってある地図の隙間から……”のところは、見たそれが浮かんじゃって、ミョーにゾクリときた(^_^;)

★を一つ減らしたのは、「十九.影踏み」がそういうテイストからビミョーに外れちゃっているように感じたから。
自分は、怪異というのはあくまで現象であって、それには意思はないと思う方だ。
だから、「十九.影踏み」の怪異は、この本の中で違和感がある。
「二十三.幽霊マンション」もテイストが微妙にズレているお話なんだけど、ただ、これはあくまで「小説」なので。
一種の「小説」としてのお決まりとしてのお話という風に見るなら、これはキレイに収まっているような気がした。


自分の肩書に「恋愛小説家」とあったのを見て違和感を覚え怪談を書くことにしたという著者だが、その後は怪談を書いていないようだ。
惜しいなぁー。
どれこれも金太郎飴な実話怪談を書く人なら掃いて捨てるほどいるけどw、こういうテイストの怪談を書ける人はなかなかいないのに。

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2025年06月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

恋愛小説家という肩書きをやめたくて
怪談話を書こうとする主人公

自分は幽霊を見たことがないから
わりと霊感のある友人や知人などに話を聞いて
怪談話を書こうという内容なのに

1番主人公が幽霊というかこの世じゃないものと近い。それがなんてことないような話の終わりに
ポロッと書いたりするからすごく怖い

最初から怖い話という雰囲気で始まるのではなく
一見日常を書いてそうなのに
その日常や出てくる人たち街がおかしい。

つぎの話の移り変わりにはでもその話は
主人公にとってなんでもない風になってるのも怖い。


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2023年03月17日

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