あらすじ
なぜ大学改革は失敗し続けるのか――? オックスフォード大学の苅谷剛彦と東大の吉見俊哉が徹底討論! 大学入試改革が混乱を極めているが、大学の真の問題はそこにあるのではない。日本の大学が抜け出せずにいる問題の本質に迫る刺激的な対論! 今、大学は歴史的に見ても大きな変革期にある。世界の多くの大学が、いわば瀕死の状態に陥っており、とりわけ日本の大学が抱える問題は根が深い。幾度となく改革が試みられるものの、ほとんど成果が上がらないのはなぜなのか。本書では、オックスフォード大学教授の苅谷剛彦と、ハーバード大学でも教えた経験のある東京大学大学院教授の吉見俊哉が、それぞれの大学を比較し、日本のトップレベルの大学が抜け出せずにいる問題の根幹を、対論を通じて浮かび上がらせる。
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Posted by ブクログ
2020/1/22 喜久屋書店北神戸店で購入。
2020/1/27〜1/30
読む順リストを大幅に飛ばして読む。
東大とオクスフォード大の教授お二人による対談形式で日本の大学と欧米の大学についての分析と批評が繰り広げられる。欧米がすべて良いわけではないが、文科省主導の日本の大学改革が良い方向に向かっていないのは明らかで、そのあたりの現状分析は鋭い。また、分析するだけでなく、対策なども議論されており、非常に優れた内容。順番を飛ばして読んだ価値があった。
Posted by ブクログ
「○○はもう死んでいる」。北斗の拳で聞いたような台詞だが、本書で主に取り上げられているのは、オックスフォード、ハーバード、そして東大。決して死んでるような大学ではない。
「(昨今の)日本の大学改革論の不幸なところは、コンセンサスを得ようとしたときに座標軸(大学は何を目指すのか、何がクリティカルかという軸)を設定する人がいなくなってしまい、どこで自分たちが対立していて、どこで折り合いがつかないのか見えなくなってしまっている」(p.37)。その背景には「経済ナショナリズム」(p.40)と国家予算の削減。これが現場の混乱をもたらしているのではないか。
アメリカやイギリスの大学組織で見習うべき点は、教員・学生ともに複数の組織に所属しているということ。例えば、オックスフォードの苅谷剛彦先生の所属は3つ、「ニッサン現代研究所(地域研究)研究員」、「(ユニバーシティの)社会学科教授」、「セント・アントニーズ・カレッジ(学寮)フェロー」だ。一方学生は、メジャーとマイナー(あるいはダブルメジャー)そしてカレッジ(学寮)に所属する。つまり「多様性と流動性」が大学組織の中に組み込まれているのだ。
日本の場合は、学部の上に大学院があることが多く、教員も学生も単一の組織の中で生活を送る。特に大学教員は、(グローバルな)横社会というより(多様性と流動性が乏しい)縦社会である。教員が求めるのは「安定したポスト」。実質的に教員が実権を握る日本の大学では、組織は一元的で、閉じてしまう。
一方、学生にとって大切なのは「多様性と流動性」。この状況を補っていたのがクラブ活動や寮生活であろうが、その(実質的な)加入率、入寮率は極めて低い。だから日本では、単一の閉じた組織になる。これに拍車をかけるのが国際性の欠如と世代的同質性というわけだ。
学問が、理系・文系に分かれたのは、産業革命(18世紀半ばから19世紀)以降。しかし、もともと大学のカリキュラムであった「リベラルアーツ」は、言語系の3学と数学系の4科。これらを同時に学ぶことで、当たり前だと思っていることを疑う「Critical Thinking」が可能になる。だから、少ない科目であっても(履修科目を絞ってでも)、文理複眼思考で「客観的な知識を分析的に獲得し、論理的に組立て、説得力ある意見をわかりやすく述べる」力の養成が必要となるはずだ。これが大学の学びの根幹(オックスフォードがチュートリアルの目的そのもの)ということだろう。
最後に、「大学のキャンパスは(自由の根幹という意味で)遊び場でなければならない」(p.279)という理想。その一方でアカデミックキャピタリズムの担い手と位置づけられた大学の厳しい現実。イギリスとは異なり「大学とは何かということが社会の中で定義(共有)されていない日本」。そもそも「大学」って何なんだろう?