あらすじ
妻か、妻の友人か。
よりよい人生をつかみ取るため、
過去へ跳び、人生を選べ。
何度も。
鬼才が描く永遠なる10年――
平凡な暮らしとはいえ、幸せな家庭を築いた男。
しかし、妻子とのやり取りに行き詰まりを感じて出奔してしまう。
たどり着いたドヤ街で小さな白い錠剤を見つけた男は、遺書を書き、それを飲む。
ネタになるならよし。よしんば死んでも構わないと考えて。
目覚めるとそこは10年前、結婚前の世界だった。
人生を選べる幸せを、男は噛み締めていたのだが……。
芥川賞、島清恋愛文学賞作家が描く大人の偏愛。
(自作解説収録)
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Posted by ブクログ
前半、自嘲的でユーモラスな私小説かと思いきや、途中で転調し、結末は悲劇的。この腸捻転を起こしそうな展開が様々な伏線によりまとめられている。
Posted by ブクログ
書けない作家がタイムリープを繰り返すというお話なのだが、この作家女好きのクズな感じで文芸っぽい雰囲気もあって面白かった。タイムリープによる10年のスパンを何度もやりなおすことで老成していくのだ、最初に妻だった淑子も記憶を保ったままタイムリープさせられているとかやや無茶な設定なのだが、そういったことが気にならないくらい良かった。
Posted by ブクログ
これは和製バタフライエフェクトや!
「タイムリープ物を吉村萬壱が書いたらこうなる」っていうのが面白くて、吉村萬壱作品を初めて読む人でも楽しめるのかはわからん。
宙ぅ吉ファンにも嬉しい一冊。
序盤、主人公の息子への冷たさにヘイトが募っていて、「主人公不幸になれ」って思いながら読んでたけども他の人も巻き添えで不幸になるのは辛い。
ただ、そこで日和ってハッピーエンドなんかになっていたらもう吉村萬壱作品じゃないわな。
自分としては
臣女<回遊人<ボラード病
という位置付けになるくらい面白かった。
寝る前に読んじゃいけない類の本なのに夜中に目覚めて読み進めてしまって寝付けなくなってしまった。明日の生活に支障が出たらどうしてくれる。
Posted by ブクログ
純文学畑の人がタイムリープもの…?と思いながら読んだけど、主人公がぐじぐじとしてて、なんべんやり直してもやり直したいことはなにもやり直せないのは期待通り。
こんなに自分を省みる時間があったのに、結局オリジナル人生でないときちんと反省も思いやることもできないし、浩はそこにしかおらんしね…
いやほんとに10年前は子どもが存在してないからね。自分ならそこでまず絶望してしまってどうしようもなくなると思うし、読みよっても浩がおらんのがつらくてもーーーそればっかり気がかりやった。
同じ人と結婚したとしても同じ子どもが産まれる確証は全くないからねこの主人公の回遊人生…
あ!あと関係ないけど、このお話は坂下宙ぅ吉がいる世界線やったのにちょっとわろた。スターシステムというほどのものではないけど、こーゆーのがあるとちょっと楽しいよね。
Posted by ブクログ
アニオタにとってループものは特別な意味合いを持つ。
さらにまた、ボクとキミの関係が世界全体へというセカイ系も。
そのふたつに、そのナイーブさや作法を(おそらく)あまり知らない吉村氏が蛮勇を振るって参入してきた、というものだ。
岩井俊二が「打ち上げ花火、上から見るか? 下から見るか?」でアニメに関わってきたときには、結構複雑に感じたが、さすがに吉村氏の参入に対して目くじら立てるほど餓鬼ではない。
中華料理屋の床に落ちていた錠剤7粒という、それありきの設定を、本気参入なら、根拠不明瞭と批判するだろう。
が、本作はあくまで思考実験なのだろうて。
たぶん作者も、たとえば「シュタインズ・ゲート」を勉強することなく、ご自身のオブセッションに忠実に書き切った作品なのだろう。
この解離をあげつらうことは簡単だが、どちらも好きな身としては、吉村氏の蛮勇=気軽さを買いたい。
この人の作品で輝くのは、設定ではなく細部のモノやコトだ。
たとえば、醤油のミニボトルとか、尿瓶とか、ミニカとか、が独特な底辺感→(金子光晴の所謂)「むさい」感じ→切なさ、につながっていく。
いいんだなー。悪くないなー。まあ結構好きだなー。
あのときああしていたら、とか、いまはこうだけど別の人生もありえた、というモチベーションを想像の糧にしている作家は少なくないはず、というか多いはず。
村上春樹なんかは、その欲望をいったん抑圧した上で自分をもだます作法をスタイルにして、自己神話化の繰り言を続けているともいえる。
そこにエロゲだかアニメだかから突っ込んだのがkeyとか「AIR」とかだと思うが、そういった構図そのものを、自分の生活に近づけて考え直したのが本作、と……。
まあ、そこまで作者自身は考えていなさそうだけれど。