あらすじ
妻に離婚を切り出され取り乱す夫と、その心に甦る幼い日の記憶(「月が笑う」)。人気料理研究家になったかつての親友・春花が、訪れた火災現場跡で主婦の紀美子にした意外な頼みごと(「平凡」)。飼い猫探しに親身に付き添うおばさんが、庭子に語った息子とおにぎりの話(「どこかべつのところで」)。人生のわかれ道をゆき過ぎてなお、選ばなかった「もし」に心揺れる人々を見つめる六つの物語。(解説・佐久間文子)
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Posted by ブクログ
良い。良いんだなあ。いつの間に、角田光代さんはこんなにもしなやかに強くなったんだろう?と、いつも驚く。この作品も、見事に強かった。美しかった。正しく、誰かを勇気づける作品だな、とね、思いましたね。いやあ。良い。
だがしかし、誰かを勇気づけない、惑わすだけの角田さんの作品も、間違いなく知っている。だからこそ、尚の事、この作品の角田さんが好きになる、という感じ。うーむ。この思いを、誰かに伝えたいんだけど、伝わるのかなあ?どうかなあ?わからないなあ。
「あの時、ああしなければ。あの時、ああしていれば。今の私の人生は、もっと別の(より良い)ものになっていたはずなのに」
ってね、思わない人は、いないと思うんですよ。ある程度、人生を経てきたら。人生とは後悔の積み重ねなのです。でも、それでもなお、
「この人生で良かった、とはとても言えないが、コレが今の自分なのであって、それはもう、そうなのだ。受け入れるしかないのだ。だって、そうなんだもん」
という境地に、如何に達することができるか?
今、そう思っても、また、きっと、後悔するんだろう。「なんで俺の人生、こんなんやねん、、、」と。だが、それすらも、それすらも、受け入れて行きたい。たまにはね、「あの時ああすればもっと、今より幸せだったのか?」とどこまでもどこまでも問いかけてくる、ブルーハーツのマーシーの作品「ラインを越えて」を聴きかえしながらね。あと、ハイロウズでの、ヒロト作の「No.1」で、机に向かってブツブツと「とても平凡だ」と呟く人も、思い出しちゃうな。
「平凡」という題名通り、とても平凡な人々の、基本とても平凡な日々が語られます。そう。どこをどう切り取っても平凡。だがしかし。
全ての平凡は、全ての当事者にとっては平凡ではなく特別にして唯一のものだ、という相反した真理も、ちゃんと描いている、と思いました。原田宗典さんのエッセイ「平凡なんてありえない」と、通じてるなあ、とね、思った次第です。
「全ての平凡は平凡でないという意味で平凡なんてありえないのであり、平凡なんてありえないということこそが全ての平凡に繋がるのである」
みたいな感じ?うーむ。ウロボロスの蛇。卵が先か鶏が先か。
ちなみに、単行本、文庫本、それぞれの表紙も、凄く良いんですよ。後藤美月さん、という方のイラストのようです。「牛乳石鹸」の赤箱、青箱のデザインのパロディーだと思うんですが、ああ、あのデザインこそが、日本における「平凡」の象徴なのだなあ、素晴らしいことだなあ、ってね、シミジミきちゃうんですよね。牛乳石鹸で身体を丁寧に洗いたくなっちゃうなあ。そしてあったかい布団で、ゆっくりと眠りたいなあ。ってね、思いますね。