あらすじ
ラヴクラフトは不遇のままその生涯を閉じた。だが、彼の創造したクトゥルー神話は没後高く評価され、時代を越えて世界の読者を虜にしている――。頽廃した港町インスマスを訪れた私は、魚類を思わせる人々の容貌の恐るべき秘密を知る(表題作)。漂流船で唯一生き残った男が握りしめていた奇怪な石像とは(「クトゥルーの呼び声」)。英文学者にして小説家、南條竹則が選び抜いた、七篇の傑作小説。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
ずっと読みたいと思いつつも、読んでいなかったラヴクラフト作品。
面白かった。
訳文も良かった。
幽霊やお化けが出て来るようなホラーは苦手だけれども、怪奇小説は面白い。
これが映像や漫画だったら、きっと見ないし読まないだろう。
小説だからこそ、存分に楽しめるのだ。
『異次元の色彩』
クトゥルー神話の始まりとも呼べるような作品(だと個人的には思っている)。
太陽系よりもっと遠い宇宙からやって来た神々。
それは人間の文化や文明とはまったく違う感覚を有していて、何より人間がちっぽけでもろくて何の役にも立たないような存在であることを知らしめる。
神々を前にした時、人間には太刀打ちなど出来ないのだ。
出来るのは、ただおびえて、神々が眠り続けることを願うのみだ。
『ダンウィッチの怪』
え、双子だったの?
ほのめかされるだけで、ウィルバーの片割れの姿は分からない。
見えない恐怖と、あまりにも大きな力がすべてを飲みこむ。
『クトゥルーの呼び声』
「ル・リエーなる館にて、死せるクトゥルーは夢見て待つ」
同時多発的な夢? 幻覚? あるいは何かの予兆。
時が満ちつつあるような怖さがある。
『ニャルラトホテプ』
ニャルラトホテプは、どこにでも現れる。
『闇にささやくもの』
結局のところ、ウィルマースは何も見ていないとも言える。
すべてはエイクリーの妄想かもしれない。
恐怖の中で、周りのすべてに疑いを持っていただけかもしれない。
人々の語る神話は幻想にすぎないと考えていた現実的なウィルマースが、どんどんエイクリーに感化されていく。
そしてエイクリーの恐怖が、ウィルマースにも移っていく。
本当のことは何なのか。
もうウィルマース自身にも分からない。
『暗闇の出没者』
いかにも怪しげな、朽ちた教会に入っていくブレイク。
やめておいた方が良いのではないか、と思うのだけれども、ブレイクは貴重な本があることにも心惹かれて、どんどん中へ入っていく。
そして触れてはいけないものに触れてしまうのだ。
それも結局は、ブレイクの妄想だったのかもしれない。
『インスマスの影』
なぜこの手記が書かれたのか。
それこそが、このインスマスへの旅と、そこから持った疑念に対する答えであり、決意表明だった。
なんだか気味の悪い町を訪れただけでは終わらなかった。
Posted by ブクログ
初クトゥルー神話。独特の雰囲気で、唯一無二の気味悪い世界観を丁寧に構築している。
個人的にベストは「闇にささやくもの」と「インスマスの影」。
○異次元の色彩
隕石の落下によって変質していく郊外の土地と、そこで暮らす一家の悲劇を描いた物語。主人公である測量士の語りによって、農家の井戸の近くに落下した隕石から放たれる「異次元の色彩」が、土地と生物、そして人間をも侵食し、徐々に正気を奪い、破滅へと導く様子が描かれる。
○ダンウィッチの怪
マサチューセッツ州のダンウィッチ村で、妖術を操る一家の血を引くウィルバーという少年が、人間離れした成長と行動を見せる怪奇譚。ウィルバーは人智を越えた怪物を呼び出すための鍵となる≪ネクロノミコン≫を閲覧しようとし、最終的に、父である異次元の魔神の力によって生み出された巨大な怪物が出現し、村は壊滅の危機に瀕するが、アーミテッジ博士らの活躍により退けられるという物語。
○クトゥルーの呼び声
主人公が亡き大叔父の遺品から発見した粘土板やメモから、かつて宇宙から飛来した邪神クトゥルーとその教団の存在を知り、深淵なる「宇宙的恐怖」に触れていく物語。世界中で同時多発的に夢を見る人々や、海底都市の浮上、謎の怪物の出現といった不穏な現象と連動し、最終的に主人公は人類の存在が取るに足りないものであるという真実を悟る。
○ニャルラトホテプ
エジプトから来た高貴な姿の人物が、人々を奇妙な現象の渦中に引きずり込み、最終的に宇宙的な恐怖へと導く物語。主人公は友人とともに講義を見学し、そこでニャルラトホテプを侮辱したことで追い出され、その後、人々は次々と不可解な現象に見舞われ、最終的に主人公だけが宇宙の彼方の恐怖を目にする結末を迎える。
○闇にささやくもの
民俗学者のウィルマートが、洪水の後に河原で発見された蟹に似た奇妙な死体の調査を始める。調査を進めるうちに、彼は「ミ=ゴ」と呼ばれる異星生物の存在と、その生物が人間から脳を摘出し、宇宙旅行を可能にする手術を行っていることを知る。最終的に、ウィルマートはエイクリーという人物がミ=ゴと和解したことを信じ、彼の家を訪れるが、そこで恐ろしい真実を目の当たりにして逃亡する。
文通でストーリーが進んでいく過程がとても楽しめた。
○暗闇の出没者
若い怪奇作家ロバート・ブレイクが、プロビデンスの廃教会堂で宗教団体「星の知恵」の秘密に触れ、古代の存在を知る中で、やがて自身も「闇」に囚われ怪死を遂げるという物語。
○インスマスの影
語り手が旅の途中で立ち寄った、住民の奇妙な容貌と町全体に漂う不穏な雰囲気で知られる港町インスマスを舞台にした物語。語り手がインスマスを調査するうちに、この町に隠された、人間ではないものとの血縁に由来する忌まわしい過去と秘密に触れることになり、最終的には自分自身もその影に蝕まれていく恐怖を描いている。
ホテルから脱出後、町全体で執拗に追いかけられる描写が怖すぎた。
Posted by ブクログ
クトゥルー神話傑作選。
TRPGやゲーム、漫画などでよく見るけど原作は未読だったので読んでみた。
表題のインスマスの影がなんだかんだ一番好きだったかも。
名状し難い冒涜的なものに近づいてしまう人間の描写がじわじわくる恐ろしさ。
ニャルラトホテプ、めちゃくちゃ短い!
ショゴスとかミ=ゴとかうっすら覚えてるのが出てくるとテンション上がる。
他の話も気になる。どこまで設定とかあるのか色々調べてみようかな〜。
Posted by ブクログ
クトゥルー神話は作家が創造した架空の神話ということを初めて知ったので相当驚いた。それだけ広くさまざまな創作の元になっている存在。
SFホラーといった内容だった。
この中では表題作が1番読みやすかった。旅行で訪れた先で恐ろしい体験をして逃走劇が繰り広げられるシーンも良かったが、更に自分との血の繋がりに話が発展していくのが良かった。伏線の回収もあり、面白く読んだ。
「あの深きものらの棲処で奇蹟と栄光に囲まれ、とこしえに暮らすであろう」こんなラスト想像していなかった。あれほど忌み嫌った存在そのものになることをもう受け入れていてゾクゾクする。