【感想・ネタバレ】科学オタがマイナスイオンの部署に異動しましたのレビュー

あらすじ

「マイナスイオンドライヤーなどの美容家電製品は、廃止すべきです」
自分の主義に反するものを、あなたは売れますか?

大手電器メーカーに勤める科学マニア、羽嶋賢児は、
自社の非科学的な商品にダメ出しをしたばかりに、
最も行きたくなかった商品企画部に島流しに…。

空気を読まずに正論を言う。そんな賢児はやがて部の
鼻つまみ者扱いになってしまう。
賢児のまっすぐすぎる科学愛は、美容家電を変えることができるのか!?

自分の信念を曲げられずに日々会社で戦っている、
すべての働く人に贈ります。
『わたし、定時で帰ります。』で話題の著者が描く、お仕事小説。

解説・塩田春香

※この電子書籍は2016年11月に文藝春秋より刊行の『賢者の石、売ります』を改題した文庫版を底本としています。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

科学を動かしているのは金だ。途方もない金額を誰が稼ぐんだろう。科学者は研究で忙しい。天から降ってくるわけじゃないことはたしかだ。あの作文から消し去った科学者という職業のかわりに、なにを書き入れたらいいか、賢児はもうずっと前から思いあたっていた。商人。ドラゴンクエストにも出てくる職業。たいした呪文も使えないし、力も弱い。子供たちからは役に立たないし、かっこわすいとさえ思われている職業。でも実社会ではそうではない。金の力が科学を支えている。金を稼ぐことができれば、科学の光をつくる道筋に参加することができる。

目先の損失を恐れて、現場は都合の悪いことを隠蔽し、上層部は問題を過小評価する。それが事故対応の際に恐れるべき心理状態です。

「誠実?商売人にとって誠実な道はひとつしかないだろ。金を稼ぐことだよ」

野口英世が遺した業績への評価が綴られていた。彼は、梅毒、ポリオ、狂犬病、黄熱病などの研究において数多くの論文を発表し、ノーベル賞を獲るのではと期待されるほどだったが、その主張のほとんどは現在では間違いだとされているという。でも、子供のころに読んだ伝記では国民的ヒーローだったはずだ。

父は気づいていただろうか。入院が延びるたび、息子の頭でレジの音が鳴っていたことを。あといくら金が要る?預金残高を心配してばかりいた。でも、ほんとは、たったひとりの父が死ぬ時くらい、金のことを考えずにいたかった。バイトなんかしないで、少しでも長く一緒に過ごしたかった。進路のことや将来のことを相談したかった。だからこそ似非化学が嫌いだ。件名に稼いだ金や取り返しのつかない時間を、根こそぎ奪われたことを絶対に許したくない。

「うちの部長もね、すごい宇宙好きなんですよ。いつもは廃ブランドの服着てるのにね、ロケットの打ち上げ見に行くときは手作りの防止にピンバッジいっぱい留めて、実況までしてるって噂で」

「死ぬほどやり直しさせられるだおうけどね。桜川さん、舌なめずりしてると思うよ。手駒が足りないってよく言ってたから。宇宙に興味のある部下が欲しかったんじゃないのかな。それもただのオタクじゃなくて、金をガンガン稼ぐタイプの」

お仕事小説の名手・朱野帰子さんの作品には、他人事的な「がんばれ!」ではなく、読み手に「一緒にもう少しだけ、がんばってみようよ」と、そっと背中を押してくれるあたたかさがあります。きっとご自身も社会で苦しんだ経験があり、それが作品に生きているのでしょう。

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2021年11月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

*大手電器メーカーに勤める科学マニアの賢児は、非科学的な商品を「廃止すべきです」と言ったばかりに、商品企画部に島流しになる。「マイナスイオンなんて存在しません」。正論を主張する彼は、やがて部の鼻つまみ者扱いに!?自分の信念を曲げられずに日々会社で戦っている、すべての働く人に贈るお仕事小説*

「わたし、定時で帰ります」の時も思いましたが、表紙のイラスト&書名と内容が一致していない所が意表を突くと言うか、残念と言うか。意外性はありますが、個人的には「賢者の石、売ります」のままで良かったな。

内容的には、かなりずっしり来ます。似非科学を頑なに拒む主人公と、そんなにも頑なにならざる得なかった過去の回想が悲しい。
「似非科学を撲滅して君は何がしたいの?」もわかるし、「幸せな感覚でしかないものに寄り添う」もわかるし、「正しいことを正しいと突き詰める」もわかる。何が正解なのか、答えはないと思うけど…なかなかに考えさせられるお話でした。

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2022年06月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昨年話題になった「わたし定時で帰ります」の著者による本ということで手に取った一冊。科学をとことん信じ、似非科学を嫌う主人公が電器メーカーで働くお仕事小説。
主人公の賢児はどうしようもないくらい不器用な人間で、読んでておいおい、とツッコミたくなる箇所がありましたが、物語の設定としてはそのほうが感情移入しやすかったです。
STAP細胞にまつわるエピソードも盛り込まれており、単行本として刊行された当時からみればタイムリーなネタです。また「博士」に関する国の施策とその問題点もそれとなく登場していて、主人公の幼なじみの譲みたいなケースは現実にも多くあるのだろうなと思うと、科学者になって科学を極めるのも楽じゃないだろうねと思わずにはいられません。
賢児はというと科学を信じるがゆえのその言動や性格により、プライベートでは彼女と別れ、家族とのコミュニケーションもうまくいかない、職場でもいまひとつといった境遇。物語の終盤では科学者である譲でさえ現実的な方向を見据え自分のなかで折り合いをつける姿を見せつけられ、仕事でも自分が信じていた科学が他人から見れば怪しいものと認識されていたことを知るなど、これまでの人生で拠りどころとしていたものの儚さを感じる展開、読みながら「この人、相当ショックだろうな…」などと感じ入ってしまいました。
でも最後は姉のちょっとした変化に救われ、仕事では自らの企画、それもやっぱり科学を軸に据えたものがなんとか上司に認められ、自分を取り戻す結果が待っており、明るい希望が見える状態で物語は完結となります。紆余曲折あったけれども賢児としてはちょっぴり成長したのかな、と思われてくれる内容でした。

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2020年01月09日

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