【感想・ネタバレ】「帝国」ロシアの地政学(東京堂出版) 「勢力圏」で読むユーラシア戦略のレビュー

あらすじ

朝日新聞(読書欄)、読売新聞(「本よみうり堂」)、産経新聞(書評欄)、毎日新聞(「今週の本棚」)をはじめ、北國新聞、北日本新聞、東日本新聞、信濃毎日新聞など各紙で紹介! 第41回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)受賞作品。 【本書の内容】ロシアの対外政策を、その特殊な主権観を分析しながら読み解く。今やロシアの勢力圏は旧ソ連諸国、中東、東アジア、そして北極圏へと張り巡らされているが、その狙いはどこにあるのか。北方領土問題のゆくえは。蜜月を迎える中露関係をどう読むか。ウクライナ、グルジア(ジョージア)、バルト三国など、旧ソ連諸国との戦略的関係は。中東政策にみるロシアの野望とは。ロシアの秩序観を知り、国際社会の新たな構図を理解するのに最適の書。北方領土の軍事的価値にも言及。第41回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)受賞作品。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

2019年7月発行。コロナ禍とウクライナ侵攻前というと隔世の感が出てきた今日この頃(2023年4月)ですが、ロシアという国がどういった思想によって政治を行っているのかがよく分かる良書だと思います。

バルト三国やウクライナとの関係についてはここ最近よく取り沙汰されているので馴染みがありましたが、中東とロシア、北方領土、北極についてはまだまだ不勉強、というか北極を巡る攻防は初めて知りました。北極を中心にした地図を見ると不安が募ります。

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本書とはあまり関係がありませんが、バルト三国というとチャペック『オランダ絵図』の「小さな民族」の冒頭、ラトヴィア人の若者の「どの言語で仕事をしていくべきなのか」という苦悩を思い出します。バルト三国は、今まさにロシアから離れていこうとしていますね。

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2023年04月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書は、身勝手にみえるロシアの行動の論理を理解するための材料を提供してくれる。我々とは違う国境観・主権観について説明し、ジョージア (本書では「グルジア」) やバルト三国、2014年のウクライナ危機、中東介入、日本の北方領土の実効支配、北極政策といった事例を解説しながら、その思想の説明を補足していく構成になっている。

ロシアの「主権」観は、自由民主主義陣営に生きる我々とは異なっている。我々は、国境ははっきりと定まったものであり、各国がその範囲において不可侵な主権を持つという現代的な価値観を共有している。しかしロシアの考える国境は、本書が半透膜に例えるように、近代以前の国家像に近い曖昧なものであり、ロシア民族の広がりにより伸び縮みする。
ロシアの考える「主権」は、ロシアやアメリカ、インド、中国など、独立した大国のみが持つものである (ドイツや日本すら主権国家とはみなされていない)。ソ連崩壊直後はアメリカによる一極世界だったが、現在は、そうした「主権国家」がそれぞれ勢力圏を従えている多極世界になりつつある。そしてロシアは、自らが主権の危機にあると考えている。
まず、国家のアイデンティティが曖昧になってしまった。ソ連の持っていた共産主義というアイデンティティは失われてしまい、かつ (「ほとんど我々」であるウクライナ人などを含む) ロシア民族が分断されてしまった。
そして、ロシアの勢力圏は次々にロシアの影響から外れていっている。その主な原因は民主化革命だが、ロシアはこれをアメリカ陣営の陰謀とも捉えており、これを防ぐことはロシアの「主権」侵害への正当防衛であると考えている。

本書は、このような理解をベースに、各事例をわかりやすく説明していく。時にエッセイ風の雑談を差し込みながら容易な口調で綴っていく文体で、とても読みやすかった。また、今後の見通しや現行政策の是非などについての筆者の意見も含まれており、興味深いものであった。特に、日本国民にとって重要な (とはいえ本書のいうとおり、ロシアにとっては広大な領土の一面に過ぎないことに注意すべき) 北方領土問題については、筆者の訪問体験から政策への意見に至るまで詳しめに書かれており、面白かった。類書と比べても読みやすく、おすすめできる一冊である。

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2022年05月31日

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