あらすじ
忘れても忘れても、ふたりの世界は失われない。
映画化決定(主演・太賀、衛藤美彩)、本屋大賞受賞作家の瑞々しいデビュー作。
行助は美味しいたいやき屋を一人で経営するこよみと出会い、親しくなる。
ある朝、こよみは交通事故の巻き添えとなり、三ヵ月後、意識を取り戻すと新しい記憶を留めておけなくなっていた。
忘れても忘れても、二人の世界は少しずつ重なりゆく。
文學界新人賞佳作に選ばれた瑞々しデビュー作。
*文庫版には「日をつなぐ」(角川文庫『コイノカオリ』収録)も併録しました。
解説・辻原登
※この電子書籍は2016年12月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
詩的でありながら読みやすいと感じた。どちらも主人公の心情の描写が鮮やかで、のめり込むように読んでしまった。
「静かな雨」はドラマ「アンメット」を見ていたのでイメージしやすかった。彼氏でも、深い事情を知るわけでもない、ただ彼女に惹かれた男が、女性を支える、その根底にある生々しい心情が鮮やかに表現されていた。
もう一方の話は世代的に胸にぐっとくるものがあった。自分が主役になれないもどかしさを感じる主人公に共感した。
他の話も読んでみたい。
Posted by ブクログ
2編が収められている。
文学的な作品。
「静かな雨」
記憶が思い出せない彼女との日々に、悲壮感はない。ただ、日常の些細なことの積み重ねができない半紙のようなさみしさが積み重なって行く。忘れてしまう自分を突きつけられたときの悲しみが美しく表現されてある。静かな雨は、静かな涙だ。
「日をつなぐ」
縁故のない土地での出産育児。手に取るようにわかる。その後のふたりがどうなるか。
夫が「引っ越そう」というか、「転職することにした」というか。妻が寝不足で自分が自分でないような状態にありながら、夫のために夕食を準備する場面からの、「別れよう」は悲劇すぎるからなしにしてほしい...など、その後のストーリーを考えてしまう面白さもある作品だった。
宮下奈都さんの文体は、静かだ。
Posted by ブクログ
『静かな雨』
やたらと美味しい鯛焼き屋のこよみさんと出会った主人公。
そのこよみさんは突然の事故で事故前の記憶しか留めておけない。
毎日事故前までリセットされる記憶。
たまたま『博士の愛した数式』を読んだばかりだったのでこの設定に驚いた。
しかも作品中にも登場する。
「人間は何でできているか」と問う主人公に「記憶=意識にのぼらない経験したことも含めて全部。生まれるまで辿ってきた祖先の記憶」と答える姉。
主人公は「毎日の生活の中での“思い”」だと考える。
記憶は更新されないが、リセットされている間に何度も聴いたレッチリの新曲を『なんか聴いたことある』と言うこよみさん。
忘れてしまうこと、忘れないこと、意識では忘れていても体が体感で覚えていること、2人の違う人間の少し重なっている部分で日々はできている。
体に刻まれた記憶と思いの重なりで。
短い作品だったが、心に残る作品だった。
『日をつなぐ』
不穏な雰囲気から始まり、初々しい出会い・恋愛から結婚・妊娠・出産を経て2人の生活はどんどんすれ違って行く。
あんなにわかり合って満たされていたのに……
最後の修ちゃんの話がなんなのか不穏過ぎて恐ろしかった(笑)
Posted by ブクログ
『スコーレNo.4』を読んだときにも感じた、この作家への闇雲な信頼感は、デビュー作とされる本作を読んで確信に変わった。
言葉のセンスも、それが表す情景も、ささやかだけれども抗しがたい無慈悲な現実を内包した世界観も、ただただ美しく儚く、僕を魅了せずにはいられない。
出会えて良かったと、心から感じます。
次の作品も楽しみです。
Posted by ブクログ
とても感覚的な本だった。読んでいて何か言葉に表すことのできないアーティスティックな、美学なるものをそれとなく感じ取れて良かった。感動した。解説を読むまでこの本の真の魅力について気づくことができていなかった。その言い表せない感覚をどこから感じ取っているか。その不正確だが、かろうじて捉えることのできる細部をもう一度体験したいと思った。
Posted by ブクログ
作中で、何故勉強をするのか、という学生から問われる場面が好きだった。
あなたが見ている(認識している)世界と、私が見ている(認識している)世界は違う。
例えば「黄砂」。あなたにとってはただの黄色い砂というイメージしかないかもしれないけど、私はこの言葉を聞くと、空気の霞んだ情景だったり、洗濯物が外に干せないもどかしさだったり、シャワーを浴びると排水溝に溜まる砂のことを思い出す。
自分の生きる世界はそういう風に広がっていくと思うと、まだ沢山知らないことがあって、もっと勉強しなきゃという気持ちにならない?
(うろ覚えですが。。)
Posted by ブクログ
やっぱり作家はデビュー作に作風が詰まってる。
何を読んでもスっと心に入ってくる宮下作品。デビューもすごいな、、
「静かな雨」も「日をつなぐ」も一見ありきたりな設定ではあるけど、私たちの生活からそう遠く離れていないところに登場人物たちの暮らしがある、暮らしを感じられるのがいい。
行助はこよみさんのことをとても大切にしている。でもそれはこよみさんの弱みを理解した上で、自分のために利用したり、傷つけたりしているとも捉えられる。だからって一概に行助を責めたりできない。
「日をつなぐ」は、人によって捉え方がかなり違うみたいだけど、私はバットエンドを想像したなぁ。バットエンドになっても立ち直るところまでが宮下作品だと思う。
大好きな作家さんのデビュー作。どちらの話も続いていく感じがいい。私たちの日常と同じで、淡々と毎日は流れていくから。物語にも完全な終止符は必要ないなと思わせてくれる作品だった。
Posted by ブクログ
短編二編からなる。
一編目
小川洋子の『博士の愛した数式』っぽい話。記憶障害だが、懸命に生きている。高校生との対話は絶品。
二編目
中学時代から知り合いだった二人。青春してるなと思いつつ、結婚生活は大変だと思わさせる。
両編通じて、食べ物がキーワード。匂いや味を表現できていると思う。
Posted by ブクログ
読みやすく、短いのでサラッと読み終えました。綺麗な文章が印象的でした。
「静かな雨」も「日をつなぐ」も、敢えてなのでしょうが、これから…!というところで終わった感じがしました。
あるあるな設定でしたが、主人公が変に感情的ではなくニュートラルだったので、感情移入しやすかったです。
こよみちゃんの家族や過去が、もう少しだけ知りたかったなと思いました。
Posted by ブクログ
宮下奈都なぜかここにきて宮下奈都デビュー作を読む。
さすがに若々しい宮下小説、こなれていないが今の宮下小説に進化する下地は十分に感じられるし、何も情報なしで読んだら「有望な新人が出てきた」と追いかけるつもりになっていたと思う。
表題作、たい焼き屋のこのみさんと主人公の行助の、あるどうしようもない事情でしっくりこない二人の生活が、それでも日々を積み重ねて積み重なっていく様がとても良い。
「高嶺の花がぽろっと落ちてきた」って表現もスゲーなと思ったし、「博士の愛した数式」パクリやんと思ったら、きっちりそこにも触れているあたりもよい。
併録の「日をつなぐ」。優しくて平和に暮らしていた若い夫婦だが、出産を機に育児の負担とストレスから生活に亀裂が入っていく描写が、静かに抑揚を抑えているのに怖い。
重松清の「ツバメ記念日」を読んですぐにこの作品を読めるって、これもまためぐり合わせ。
修一郎は帰宅して何を話すのだろう…、早まるなよ修一郎。
Posted by ブクログ
「静かな雨」
明け方の雨のシーンが特に印象的でした。
行助がこよみさんの中に、これ以上の澱を積もらさないようにと思います。
「日をつなぐ」
読んでいて、ずっとしんどかった。
人によってハッピーエンドかバッドエンドかは分かれると思います。
私は・・・後者かな。
Posted by ブクログ
宮下奈都さんのデビュー作。
行助と、たいやき屋のこよみのお話。
2人の距離が縮まっている時に、こよみが交通事故に遭い、高次脳機能障害により記憶が1日しか保てなくなる。
何か大きな出来事が起こるわけではない。
ただ日々が淡々と綴られる。
2人の普通の暮らしや、日々の葛藤などが
ごく自然に、静かに流れる時間と共に描かれる、
この本のそんな空気感がなんだか心地よかった。
読み終わり、この2人が
どうか幸せであってほしいと願った。
一方で、幸せは
他人が人に対して願うことではなくて
自分自身で感じるものというか、
溢れ出てくるものなのだろうと感じました。
Posted by ブクログ
初読み作家さん。
何かがおきていても、全体的に静かな淡々とした雰囲気で読みやすかった。
さらっとな読めば良い話。だけどちょっと深読みすると主人公が独りよがりなとこが目について、バッドエンドにもなりそうな気がする。でも、こよみさんが芯が強そうだから大丈夫かな。それで均衡を保ってて、これからも生活が続いていくんだなぁと思わせてくれる。
「諦め方」「自分の世界」「何のために勉強するのか」とてもしっくりくる内容だった。
『日をつなぐ』うーん。不穏な終わり方。土星の話が伏線ならバッドエンドなのかと思うけど、『静かな雨』を読んだ後だと、何が起ころうとも同じように日々は繋がっていくんだなと納得できそうだ。
あとがき、読み応えあったな…
Posted by ブクログ
仕事の合間の息抜きに、と思って本棚から未読の薄い本を手にとったら、余韻で仕事に戻れなくなった。
なんていうことのない物語なのにな。
読み終わって、本を閉じて、あらためて表紙を見ながら嘆息する物語だった。たい焼き食べたいな。
Posted by ブクログ
これは、、
美しい文章と感傷的な二篇だった。静かな雨というタイトルに相応しい、心に染み入る本。だけど恐ろしい。
静かな雨
こよみさんという人がとても好き。自分がしっかりしてて、この人しか持ってないなと感じさせる魅力があって、賢くて面白くてとても強い。
そして何より打ち込んで極めるものがある。
p.48
「迷っているうちは進まない方がいいよ」
「ほんとうに迷っているときは、進もうと思ってもどっちが前だか後ろだか、わかんなくなっちゃってるの。」
p.57
「ーーーあたしたちは自分の知っているものでしか世界をつくれないの。あたしが実際に体験したこと、自分で見たり聴いたりさわったりしたこと、考えたり感じたりしたこと、そこに少しばかりの想像力が加わったものでしかないんだから」
p.58
「新しいものやめずらしいものにたくさん会うことだけが世界を広げるわけじゃない。ひとつのことにどれだけ深く関われるかがその人の世界の深さにつながるんだとあたしは思う。」
だけどこの一篇を読んでいて感じた、違和感と気味の悪さが解説を読んではっきりした。
行助にとって高嶺の花で、手の届かない存在だったこよみさん。彼女が事故にあったことを“思いがけずもその花がぽとりと落ちてきたのだった。”と表現する行助。
どこか期待していた様な、喜んでいるんじゃないかと思った。
こよみさんからはすり抜けていく記憶を行助だけは手にとって保管できる。日が経つごとにこよみさんにとって行助はなくてはならない存在になる。身寄りのないこよみさんを一人で独占できる。そのことを喜んでいる。
確かに今のこよみさんには行助しかいないのかもしれないけど、こよみさんがハンデを負ったことで、ようやくこよみさんを手に入れたって思ってるんじゃないかと感じて、強い不快感を覚えた。
こよみさんには拒否ができない。行助以外の可能性を奪っている。
記憶をなくした数学者の本を愛読してたこよみさんに、怒りを感じて強く叱責した。記憶がもたないことを分かっていて、「覚えてないの?」と責め立てる。
本当に暴力だと思う、、行助もそれを分かっていて酷く後悔してるけど、どうせ明日には忘れてるんだと思ってる。
この後二人はどうなるんだろう。行助のこよみさんへの想いは募るばかりだけど、肝心のこよみさんは?
“僕たちは恋人だよ”と言ってしまえばそう信じてしまいそう。いつか行助はそれをしてしまいそう。
美しいんだけど、実は人間の生々しさを描いていてそれがとてつもなくグロテスクだった。
日をつなぐ
修ちゃんに、真名と俺はアフリカとブラジルでずっと昔はひとつづきの大陸だったんだって言われたとき
ひとつづきの大陸“だった”ということは、今は離れていて二人自体も離れているっていう意味かと思った。
だからその後も恋人でいて、結婚するとは思わず。意外だった。
真名の産後の生活が辛すぎる。自分を失っていく絶望と孤独。あれじゃあ出産したいなんて思えない、、
産後の妻を支えてくれない、子育てを二人ですることだと思ってない父親は父親じゃない。
修ちゃん絶対悪いこと言うじゃん、、下手したら真名はネグレクトしてるとか思ってそうじゃん、、最悪やん。
宮下奈都さんは肉を食べなくて、豆が好きなんだろうか。
私も肉は食べたくない主義なので、豆は苦手だけどチャレンジしてみようかな。
今度母の誕生日に、豆のスープ作ろうと思ってて、なんか凄くいい。
Posted by ブクログ
松葉杖の青年と、交通事故で記憶障害を患ったたい焼き屋の女性の物語。
共に生きているのに、想い出を共有出来ない虚しさ。
どうせ明日になれば、忘れてしまうのだからと、八つ当たりしてしまう青年。
ブロッコリーのキッチンメモのくだりは、ちょっと苦しかった。
Posted by ブクログ
松葉杖の主人公(男性)と、高次脳機能障害で「今日を記憶できなくなった」女性の物語。
今日がずっと続く気持ちってどんなものなんだろう。
周りは進んでいるのに、自分だけがずっと止まっている。
認知症の人がどんな気持ちなのかも分からないけれど、何となく理解できる分苦しいような気がした。
キッチンでのメモの下りが本当に悲しくなった。
一緒にいたいのに、一緒にいると苦しいという感覚が伝わってきて、どうにか救いを・・と思ってしまった。
変にハッピーエンドという感じじゃないところがリアルな感じがしたけど、気持ちが沈んだ。
Posted by ブクログ
作者の近影を見た先入観からかもしれないが、「静かな雨」は男性が主人公でありながら大人の女性から語られているような丁寧で優しい文章がよかった。
「日をつなぐ」はスコーレNo.4と同様に、女性からの目線や心理を鮮烈に描写していて、男性として主人公と相対してるような怖さがあった。
Posted by ブクログ
宮下奈都のデビュー作。上質な難解さがある。調味料を付けずに素材の良さだけを活かした料理と言ったら良いのだろうか。記憶ができない女性と男性との二人の生活。そこに新しい世界が築けられるのか?でも、タイトルの「静かな雨」のごとく、じわりじわりと地面にしみていくように二人の世界が築けられていく。この作品は読んだだけでも価値があると思った。それは『羊と鋼の森』を始めとする感動小説を世に出していく作家の原点だから。
Posted by ブクログ
忘れても忘れても ふたりの世界は失われない_
優しい雨に打たれたような読後感…
傷ついて
失って
抱えて
心を手当てして
抱えているものは
自分で乗り越えていくしかないけれど
僕の世界に 大好きな彼女がいて…
彼女の世界にも ちゃんと僕も存在していて…
たとえ
彼女が1日経てば
その日の出来事を忘れてしまっても
日々が何も残していかないわけではない…
生きていれば 誰にでも直面する厳しい現実_
静かに
繊細に
柔らかく
丁寧に
美しく
ふたりの適度な距離感と
人を想う温かさを感じられる素敵な物語でした
Posted by ブクログ
いい話だったけどちょっと恋愛要素の描写が少なくて怖く感じた(何も知らないのに一緒にいるのが)
それがいいのかもしれないけど。
もう一つの日をつなぐはただただ心がきつくてラストもめちゃくちゃ微妙なとこで終わるやん!モヤモヤだった
Posted by ブクログ
一見静かできれいなんだけど、よく考えたらなかなかの地獄。
特に2話目は危うすぎる状況で読んでいてしんどかった。
感想を読むと、人によって受け取り方がだいぶ違う作品だと気づく。
Posted by ブクログ
「博士の愛した数式」が作中に出てくるあたり、作者も、この設定が決して珍しいものではないと思っていると思います。問題なのは、それによってなにを言いたかったのか。
思い出、ではなく「毎日の生活の中での思い」で人はできているのではないか。だから、記憶が刻まれなくとも、主人公との仲が深まり、たい焼きは一層味に深みを増す。
だから、大丈夫。
宮下奈都さんのデビュー作ということですが、今に通じる源泉みたいなものが節々に感じられますね。
「思い」の繋がりみたいのを大切にしているような気がします。特に食事、たい焼きの描写が、ウミガメのスープを読んだ時とリンクしました。
Posted by ブクログ
優しい話。
読後感も、ふんわり。
内容
たい焼き屋さんの女の子。
を好きになる男の子。
彼は、足に障害が。
2人は会話するようになる。
女の子、事故で意識不明。
お見舞いに通う男の子。
目が覚めたら時には
記憶を1日しか保てない病気に。
同じCDを何度も買ってしまったり
嫌いな食材を毎日出されたり
切ないね。
Posted by ブクログ
宮下奈都さんの文章表現がやっぱりいちばん好みですね^_^と思いながらも、正直こちらの作品自体にはあまり引き込まれないまま読み終わってしまった、という感じがあった かも しれない
2作品とも、わたしの大好きな安穏で細やかな表現とじんわりとした進み方に、ウンウンそれで、、?♪(^ー^)と思ってたら急にコンっと終わって、(??あれこれもしやこれで終わりなの!?)となった感じ 読者に委ねる余韻が良い……とも思えず?
話の作り的には最近読んだ中でもアレかもって思っちゃったんだけど、差し引いてもやっぱり宮下奈都さんの書く文章は絶対好き♪また読む♪となってはいます!