あらすじ
暴君に支配された「平成JR秘史」。
2018年春、JR東労組から3万3000人の組合員が一挙に脱退した。同労組の組合員はあっという間に3分の1に激減し、崩壊の危機に追い込まれてしまった。いったい、何が起こったのか――。
かつての動労、JR東労組委員長にして革マル派の実質的な指導者と見られる労働運動家・松崎明の死から8年。JR東日本が、「JRの妖怪」と呼ばれたこの男の“呪縛”から、ようやく「解放される日」を迎えたのか。
この作品は国鉄民営化に「コペルニクス的転換」といわれる方針転換により全面的に協力し、JR発足後は組合にシンパを浸透させて巨大な影響力を持った男・松崎明の評伝であり、複雑怪奇な平成裏面史の封印を解く画期的ノンフィクションである。
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Posted by ブクログ
暴君
新左翼・松崎明に支配されたJR秘史
著者:牧 久
発行:2019年4月28日
小学館
松崎明という人物は、その世界では有名人というかかなりの“大物”だそうだ。僕は名前ぐらいしか知らなかった。
国鉄の労働組合と言えば、最大組織の国労(社会党)、鉄労(民社党)、動労(革マル派)、千葉動労(中核派)に大別され、JRへの分割民営化に際し、「闘う動労」を標榜していた動労が、もともと労使協調路線だった鉄労とともに賛成に回ったという知識ぐらいはあった。なぜ急にマスメディアが「過激派」と紹介し、警察が「極左暴力集団」と呼ぶ革マル系の動労が賛成に回ったのか、僕には理解できていなかった。その裏事情が450ページ以上にわたって詳しく紹介されている。著者は日経新聞出身のフリージャーナリスト。松崎明が死ぬまで、彼に関する報道はタブーとされ、あの週刊文春でさえもキオスクで販売拒否されるなど容易に手が出せなかったという。
動労の大転換は、松崎の方針によりなされた。労働争議で国鉄を解雇された彼は、動労の専従となり、委員長にまでのし上がっていたが、国鉄民営化前年に敵対してきた鉄労の全国大会に招かれ、解体を叫んでいた鉄労とともに民営化に際して「労使共同」を訴えた “コペルニクス転換”の演説を行った。彼は哲学者・黒田寛一とともに革マル派を創設したメンバーで、いうまでもなく共産主義革命を掲げる。それなのに、この頃には自民党機関誌「自由新報」や反共団体統一教会の「世界日報」などにもしばしば登場して、共産党や国労の批判を繰り広げた。
なぜコペ転をしたのか?
それは黒田寛一が説く「形勢不利な時には敵の組織に潜り込む」という戦略を踏襲したのだと著者は分析している。
国鉄改革において、改革3人組と呼ばれた者がいた。後のJR東海社長となる葛西、JR西日本社長となる井出(福知山線脱線事故で全国的な有名人となった)、そして、JR東日本社長となる松田。葛西と井出は松崎とは袂を分かったが、松田は以後もべったり。上司の住田とともに、住田―松田体制(JR東日本)と松崎との癒着が始まる。松崎は気に入らない幹部社員がいると、住田―松田ルートで平気で左遷させる、あるいは辞めざるを得なくしてしまう、そんな経営者をもあやつるドンとなった。
車はボルボやベンツ。ボディーガードをつかせ、ハワイに別荘2軒、国内にもマンション、別荘、別宅を持つ。しかし、体が弱まるとともに、徐々にその勢いは衰え、JR東日本側も彼を切りにかかる。そして、その死とともに彼の力は影も形も消え失せる。
北朝鮮の金正恩はちょっと別として、シリアのアサドや以前のスペインのフランコなど、やればできるのにどうしてずっと独裁させたままにするのか?やってみれば意外と簡単なのに、という気もするが、どうなんだろう。ましてや松崎明という軍事力を持たない独裁者。なぜ彼の死を待たなければ終わりにならなかったのか。ちょっと不思議でもある。