【感想・ネタバレ】ヒト夜の永い夢のレビュー

あらすじ

紀伊の生みし知の巨人、南方熊楠。彼と昭和考幽学会の出会いが、粘菌の宿った美しき自動人形を誕生させる。一大昭和伝奇ロマン!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

――

 へー南方熊楠ってこんなひとだったのか。
 ……とはならんからな?


 一大エンタメであることは間違いなく、冒険小説であり伝奇小説であり、怪奇小説でもあり探偵小説でもありSF小説でもある。その上で哲学書でも思想書でもあり、そして或いは史書であるのかもしれない(最後のは嘘です)。
 まさになんでもござれ。それこそ、南方熊楠のような小説である。いやむしろこんな小説の主人公が務まるのは確かに、柳田國男をして「日本人の可能性の極限」と云わしめた熊楠しか居るまい。
 ある意味、小説の可能性の極限とも云える。
 南方熊楠、福来友吉、江戸川乱歩に孫文と、登場人物リストを読んでいくだけで解るいわゆる大法螺モノなのだけれど、盛りも盛ったり。昭和のスーパーロボット大戦とでも云おうか、それぞれのシナリオが交錯してなんとも壮大な冒険譚になっている不思議。その絡み合う縁が、作中の言葉を借りるならば因縁が、物語の軸でありまた、最大の敵であり味方でもある。

 作用に、研究とは物事に因縁をつけるようなもので。そして乱歩が味方についていることからも、創作もまた研究と似ているところは大いにあって。学問も小説もまったく孤独でありながら、その孤独はひとを繋ぐのだと思い知る。先に亡くなられた谷川俊太郎も、「孤独は前提としてある」というような言葉を残していたけれどまさにそうで、ではその孤独からにょんと生える、誰かに伸ばす腕は何なのか。
 まったく安直な台詞ではあるのだけれど、そしてそこに至るまで巫山戯倒しているのだけれどそれでも、熊楠がその腕の名を――「この世界にある、最も煩雑な糸」の名を口にしたとき。
 ほろりと、涙が溢れていたのでした。

 ☆4.4

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2024年11月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

え、戦国武将の名前のSF作家!? と著者の「映え」には数年前より惹かれていたが、要はオタクを突き詰めた結果なんだろうと、飛びつくことはなかった。
が、南方熊楠の歴史改変SFと来れば手を伸ばさざるを得ない。
真っ先に連想したのは荒俣宏「帝都物語」だが、実は小説も映画も未見で、藤原カムイや高橋葉介の漫画で読んだ・見た気になっていたのだ、と自分にびっくり。
また連想したのは、円城塔/伊藤計劃「屍者の帝国」、山田風太郎「魔界転生」映画化は深作欣二。

まずは南方熊楠が視点人物というのはほぼ一貫しているが、地の文に「私は」とか「俺は」とか書かれず、最低限「こちらは」とか。
敢えて語りのカメラ位置が少し浮いている、というか。
これにより、一人称なのに三人称に近づける、という独特の文体。
こんな手法もあったのだなと、まずは文体礼讃。

そして全体を通して(ネットで拾った文言だが、他に表現のしようがない)「昭和やべえやつらアベンジャーズ」。
稚気と研究心が駄々洩れの親父達(主に関西の。中央から締め出された)の祭り。
湯浅正明や今敏のカーニバル感覚・ドタバタ感覚に似ているので、「文豪ストレイドッグス」の余波を受けてアニメ化してくれないかなーと夢想。
個人的には、宮沢賢治が深層、江戸川乱歩が表層、というあたり、作者わかっているなーと鼻息を荒くしてしまう。
だいたい、登場する人物は皆、それぞれに研究者がついたり、それぞれで一冊どころか数冊研究書が成り立つくらいの、人物たち。贅沢な小説だ。

全体が3部に分かれており、1部における黒頭巾で顔を隠した匿名性が、徐々にほどかれていくという構成も、巧み。

結局はエヴァ的な人類補完計画っぽい話に落ち着くのだが、決して物足りないという感じはない。
乱歩の「夜の夢こそまこと」も例に漏れず、時間・空間・古今・東西を問わず、想像力の限界なのだろう、現実と夢というのは。

ちなみにタカハシヒロユキミツメのカバーイラストは、かなりよい。

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2020年03月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

南方熊楠、昭和2年―
粘菌コンピュータ搭載の自動人形「天皇機関」を発明。

上は帯の文句であるが、もうこの時点で最高である。

中身はというと戦前の名士オールスターが、ある陰謀と闘うドタバタSFと言う感じ。
あらゆる夢が入り交じる東京決戦のシーンは映画『パプリカ』を思い出すような凄まじいもの。

の中のあらゆる要素が一致したなら...なんて誰もが考えたことありそうな発想から夢・千里眼、粘菌コンピュータまで飛び出てくるいいSFでもあったし、
なんやかんやで最後キレイに締まって読後感もスッキリ。

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2019年08月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昭和初期。千里眼研究で世を追われた福来友吉に誘われ、「昭和考幽学会」なる怪しい研究者の集まりに参加することになった博物学者・南方熊楠。かつて英国留学中に出会った親友の孫文が遺した「人の動きを計算する機械の〈設計図〉」と粘菌が結晶化した人工宝石の力によって、悲願である少女型アンドロイド〈天皇機関〉を完成させた熊楠たちは今上天皇にその姿をお披露目しようと画策するも、実は学会内部に別の目的を持った裏切り者が紛れ込んでいて……。粘菌AIを中心に据え、熊楠をはじめとして宮沢賢治や江戸川乱歩、北一輝に石原莞爾らの運命が絡まり合うSF伝奇小説。


破天荒な熊楠おじさんを主人公に、粘菌でできた人工知能というハッタリと天皇機関説を接続させるという設定はめちゃくちゃで面白いのだが、第一部の終わりまでなかなかノレず。福来や西村ら考幽学会のメンツがキャラとして非常にデフォルメされていて、これ自体は伝奇エンタメらしさを盛り上げる狙いがあるとわかるけど会話が冗長に感じた。でも賢治は他で見たことのないちょっと気味が悪いがセクシーな人物造形で、賢治の石=賢者の石というダジャレも含めてこのパートは面白かった。
第一部の後半で北一輝が姿を現し、第二部に入って乱歩も参戦してくるとデフォルメ化が面白味に転じて一気にノレるように。悪役とはいえ、北一輝をこんなにかっこよく書いていいのかなぁ(笑)。
でも一番笑ったのは平岡なっちゃんの大活躍。乱歩と熊楠のバディが追う黒蜥蜴役に平岡公威のおばあちゃんを抜擢する発想、何? 後半で開陳される夢と並行世界の関係性が『豊饒の海』での阿頼耶識論に近づいていくので平岡家を登場させた意図はわかったけども、平岡なつ、この世で最もオートジャイロに乗るわけない人間(笑)。だが、熊楠が本当に阿頼耶識に興味を持っていたことは志村真幸『熊楠と幽霊』で読んだばかりだったので、この接続は唸った。
二・二六事件当日の帝都東京へ雪崩れ込むクライマックスは、古今の〈東京幻想[ファンタジー]〉の系譜に連なるカオスさで楽しかった。それにしてもみんなゴジラが好きだねえ。
エンタメ小説に説明を求めるのは筋違いかもしれないけど、天皇に進言する人型アンドロイドを作るのが中心軸なのに、天皇の定義が作中で語られないので何をもって〈天皇機関〉を天皇と並ぶ存在とすることができるのかが曖昧なのは気になった。また、女性天皇をめぐる議論が現実としてあるなかで、〈天皇機関〉という機械になった途端に永遠の少女姿を押し付けられ、インセスト願望と重ね合わされる構造もグロテスク。まぁ考幽学会の会員たちはアウトサイダーとして描かれているので、多少気持ち悪く感じられるのは織り込み済みなのだろう。そもそも死体をロボのガワに使うなって話だしな…(これが腐らない理屈もあんまり説明されてなかったな)。
個人的に好みの素材がこれでもかと揃っているだけに、ハッタリに乗り切れない惜しさを感じる小説だった。『アメリカン・ブッダ』収録の前日譚のほうが負の引っ掛かりは少なかったけど、粘菌成分が少ない。スチームパンクならぬ〈粘菌パンク〉の世界を動き回る熊楠自体はめちゃ良かった。2冊読んでみていつか完成度の高いドンピシャの作品を書いてくれそうな作家だという確信は持ったので、柴田勝家のことは追っていきたい。

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2021年11月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

主人公が南方熊楠の帝都物語という印象。機関の出てくるシーンや幻想現実入り乱れる辺りは動画や映像で見たいなと思ったけれど、嘔吐脱糞シーンも多いのでやっぱり嫌だな。

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2019年07月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

柴田先生の魅力はわちゃわちゃ感にあるのではないかと感じた。それは今作で言えば天皇機関の見せる夢のわちゃわちゃ感、二・二六事件のお祭り騒ぎにおけるわちゃわちゃ感、『ニルヤの島』終盤のわちゃわちゃ感。彼の仕掛けるSF的なギミックによりあらゆるキャラクターや世界が翻弄されていく、その様に「生」を感じる。SF的ギミックそれ自体よりも、それを人々がどう受け入れていくのかに真髄がある。

本作に関しては惜しいかな、と感じた。非常に魅力的でドッタンバッタンなエンターテイメントとして楽しくは読めたが、1本のSFとしてはまとまりきっていない印象を受ける。天皇機関、という踏み込んだものを作成したはいいが、そこまで深くこの国の天皇制というものの在り方に切り込めたわけではなかった。あるべきは夢の世界と現実の対立ではなく、全能の機械人形を天皇に据えるべきなのか、そのときこの国の在り方はどう変わるのか、という議論だったのではなかろうか。もっとも、ただの粘菌でしかなかったはずの「少女」は果たして何を望んだのか、という命題も、それはそれで面白かったのは確かだが。

昭和伝奇ものとしても、比べるものではないとはわかってはいるが、似た構成を取る『屍者の帝国』がアフガンでワトソンとカラマーゾフを絡めるような納得感のある面白さがあったのに対し、本作はなぜその人物がその時期にそこにいたのか、という点がおざなりに感じることがあった。

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2019年05月27日

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