あらすじ
国内250カ所を超える工場を訪ね歩いてきた製造業コンサルタントである著者らが、危機感の乏しい日本企業に警鐘を鳴らす本邦初の理系ビジネス小説。
カムシャフトやエンジン・ケーシングを大手自動車部品メーカーに納めている横浜市の中堅部品メーカー、ケイテックは、ホシダ技研の次期モデルのカムシャフト受注を逃してしまう。それに追い打ちをかけた「事件」が起きる。
次世代エンジンに使用する新しい技術をもつケイテックに目をつけたドイツの世界的な自動車部品メーカー、ボルツ社から大型商談が舞い込んだのだ。ケイテックは念願の世界進出と意気込むが、調達前資格審査で落選してしまう。生産管理システムが弱点として指摘された。
二度にわたる大きなダメージにケイテック二代目社長・藤堂敬介は、大学時代のラグビー仲間である産業用システムインテグレーター、KWエンジニアリング社長・河島健一に相談する。
そこで第4次産業革命という日本の製造業の基盤を揺るがす世界的な潮流に目を開かされる。藤堂は、世界的なメーカーの生産ラインを手がける福岡市の浦田機工・浦田理恵社長に助けを求めた。
ケイテックをデジタル化・サービス化を梃子に大改革する藤堂敬介の果敢な挑戦が始まる。――
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Posted by ブクログ
・インダストリー4.0を調べて次のことを理解すること
生産プロセスと生産プロセス管理の仕組み、具体的には、ITや組織構成、役割や権限、社内ルールを整えて、ERP、MES、PLM、プロジェクトスケジューリング、製造IoT
・第四次産業革命の本質は、CPSにより製造業のサービス化を加速するための産業政策としての、国際標準化活動
->インダストリー4.0は、事業の成長機会を失わないために、グローバルな事業展開を簡単にできる仕組みを構築すること。
例えば、外国の企業では調達先を選定するときに、「グローバルに生産技術が移転できるか。生産技術の形式知化、モデル化、システム化ができているか、海外展開ができるだけのマネジメント力があるか」等が見られる。
・日本でもERPの導入は進んできたが、大半は経理システム、会計システムとしての活用に留まっている。現場には口出しするなという考え方が根強く、製造部門ではERPが導入されていない。
一方海外では、中小企業でもERPの活用は一般的で、この製造部門のERPの導入遅れが、日本の海外展開への障壁になっている。
・QCD全体のバランスを見て、次の①〜④を可能にするのが、製造の統合管理、またCPSの発想である。これこそがスマートファクトリーである。
①製造ライン設計における、基礎的な数字や考え方が組織的に整理されているか
②ラインの設備設計や設備投資の規模を短期間で見積もることができるか
③完成した工場が、当初の目論見と異なるとき、何が設計時の思想と違い、どこを改善すればいいのかがわかるか
④品質問題が発生したとき、その対処法とそれに付随する他工程への影響を考えられるか
・なぜスマートファクトリーを実現するのか?
1.自社の製造に関わるあらゆる知識体系の整理、形式知化による組織知の形成
->海外への技術移転が容易になる。さらなる改善ができる。
2.PLMの実現
->製品の企画、設計から製造プロセス設計、生産活動までに対して、ボトルネック工程、データの蓄積方法、販売後のアフターケア等、ライフサイクル全体の事情を製品設計に反映させる。
3.ビジネスモデルの変革
->例えば工場内だけでなく、外側とネットワーク接続できれば、顧客の要望通りのカスタマイズした製品を短期間で作ることができる。
また、製造ノウハウそのものをサービスとして提供するビジネスもある。(シーメンス、ボッシュ等)
4.匠の技術の数値化
->目に見えない知的資産をデジタル空間に資産化することができる。それにより、「いかに人件費が安い国で生産できるか」というテーマから、「いかに機械を上手に使うか」というテーマに変化する。
Posted by ブクログ
小説形式であり、とても読みやすく、一気に読み終えた。まさに我々日本的垂直擦り合わせ型アーキテクチャと決別できずにいる製造業の道標になる一冊(こうもうまくはいかないと思うが)。
日本の顧客は大抵多品種少量を求めており、水平分業型すなわちPF×MDのアーキテクチャに変わっていかないと生き残れなくなってきた。もちろん量産工場並みの生産性を維持することは必須です。
まずは社内の同じ考えを持つ同志を集めて改革を進めるか。
Posted by ブクログ
第四次産業革命が起きたときに具体的に何が変わるのかイメージできてなかったので読んだ。
開発設計、調達、製造、販売の中で特に調達、販売以外の部分についてはかなり具体的なシステムも含めて描かれていて、理解が進んだ。
Posted by ブクログ
率直に思うのは「こんなに上手くいく訳ない」なのだけど、そのあたりのリアルを描くのは下町ロケットの池井戸先生作品に任せるとばかりに割り切っているのだろうコトもすぐに感じた
ほんのタイトルにもある通り「日本の製造業を救え」というコトなので、そのあたりのゴリゴリの現実を書くのではなく、世界はこうなっている、日本はどうですか?それでそうなっている世界に勝てるのですか?というか、それで世界の輪の中に入っていけるのですか?
製造業をやっているあなたの会社はどうですか?
日本が後進国と見ている国の企業は遅れたコトのメリットで欧米系の完成された仕組みを導入していますよ
クラウド技術も発展しているので安く導入できる
そういったコトから同じ仕組みを導入している欧米系企業とのやり取りで高い親和性が出ます
製造業をやっているあなたの企業は日本の仕組みから脱していないのではありませんか?それで欧米の企業から相手にされますか?大丈夫ですか?
日本企業にそういった警鐘を鳴らしたいというコトだろう
そういったコトはあとがきにも書いてありましたけどね
最後の作者の経歴を見てもそういったコトのコンサルティングをやっているというコトなので、自分の仕事の中でも日本企業の危機感の無さにイライラするようなコトが多いのでしょうね
本作は小説になっていて、下町ロケットの佃製作所よろしく、日本の製造業をやっている中小企業の社長が主人公
もともとはITの会社に勤めていたが、父親が経営していた製造業の会社を継いで結構年月が経過している
無借金で大きく当たるコトはなくとも順調に経営しているという状況
主人公としても不満は無かったのだろう
そんな時に自社の売上が半分以上ある企業が、発注を自社から別会社に切り替えるというようなハナシが
急いでその企業さんの担当と会う
その企業は自動車製造している大会社の子会社で、担当者としては主人公の会社の技術を信頼しているが、コストやら軽量化やらを考えると別会社に切り替えろというハナシが出ているという
3ヶ月の間に別会社を凌ぐ数値を出さないと親会社も納得しないので切り替えざるを得ないという
主人公たちはその3ヶ月で技術開発などを行い、コストや軽量化の部分で当初よりも大幅に魅了のある数値を出す
それと平行に海外の会社からも取り引きしたいというハナシが舞い込んでくる
主人公の会社は自動車レースで自動車部品を供給していたが、それを見た海外企業がすごいと言って自社にも供給してほしいと言ってきた
3日で見積もりや供給計画を出して欲しいと言われたのだが、主人公の会社はそういった点の多くを職人の勘でやってきていたのですぐに数値が出せず、期限に遅れつつなんとか提示
そういった2つの事案になんとか対処したものの、結果は両事案ともに良い返事はもらえず
1つ目の事案は大企業の論理に引きずられがちという点を強調したかったのか
そして2つ目は本作の肝でしょうね
第4次産業革命という本作のタイトルにもなっているコトが世界では起きているようで、その革命に乗り遅れているというコト
日本のモノづくりは世界一などと言っているけれども、その革命についていけていないから世界の企業の輪にはいっていけないというコト
1980年代とかですかね
日本の企業、製造業が世界を席巻し、そのやり方が素晴らしいと評判を呼んだ
KAIZENなどという言葉も世界標準になった
しかし、日本は一度そういったやり方を決めたらそのやり方自体をKAIZENするコトをしない
世界はそのKAIZENというのをよりブラッシュアップしていった
そして、そのやり方に合わせて企業システムも作ろうというコトでできてきたのがERP
世界の企業は同じ仕組みを実装したERPを導入しているから、例えばM&Aで企業を買収してもスムーズに進む
このレビューを書いている人はITエンジニアで、昔はERP系のプロジェクトにも参画していました
その経験も含めて言うのですが、日本でもERP導入が流行ったというのか、まぁ大企業を中心にそういう機運がかなり高かったと思うんですよね
でも、日本の企業というのは自分たちがやっているコトを変えたくない
日本人は今日も昨日も明日も同じコトをやっていたいという気風が強いようですね
そこにERPをそのまま導入すると、やっているコトを変えないといけなくなる
でどうするかというと、ERPをカスタマイズしちゃう
自分も何も考えずその片棒を担いでいたw訳ですが、それはERPを導入するメリットのいくつかを無くしてしまう行為だったのですね
→前述のM&A買収で、カスタマイズしちゃうとスムーズにコトが進まない
また、同じシステムを使っていると、基幹技術も漏れにくくなるようですね
日本だとシステム化(ERPやIOTの導入)されていないからブルーカラーの人に技術や知見を教え込まないといけない
それは現地の人たちにとってはある意味良いコトな気もしまさうが、覚えたらより良い給与を求めて会社を辞めてしまう
既に日本でも終身雇用なんて言ってない時代
日本国内ででもそういった技術漏洩は起きる時代なのでしょう
しかし、システム化されているとブルーカラーはブルーカラーとしての単純作業に注力する
最低限の知見は得られるでしょうが、そこで根幹、基幹となる技術が漏れるコトはないと
日本のKAIZENを元にそういったコトを技術面だけでなくシステム面まで含めて考慮した内容が第4次産業革命の本質のようですね
しかし、日本はITに弱いですよね、、、
特に中小企業では経営者がITの大事さを全く理解していない
理解していないから導入しようとしない
それで遅れていくのだけど、理解していないから遅れていくコトにすら気づかない
パソコンを入れて「ウチもIT化したぞ」と鼻息荒く
しかしセキュリティなんて概念はなく、海外からウイルスを送りつけられて重要データを抜かれ放題
抜く側はデータを抜いたら「失礼しました」とばかりに形跡を消して去っていく
抜かれた側は抜かれているコトにも気づかないという幸せ具合
おっと、、、チョット内容ズレましたねw
本作の主人公は特に海外の企業に相手にされなかったコトで海外企業との差に気付かされる
コンサルティングをやっている友人にも教えてもらって何をすべきかを検討し始める
スマート工場と呼ばれているようですが、おそらくIOTを中心としたIT化された工場というコトでしょうね
工場にはラインがあると思いますが、例えばラインの部品が壊れて一定期間ラインが停止してしまう
そこをIOT化してラインの各部品の細かい点を数値化してみると、部品が壊れる前にこの数値がこうなるみたいなモノが見えてくる
じゃその数値がこれくらいになったら夜間メンテでその部品を新しいモノに変えたらラインは停止しなくて済む
私のような門外漢だと「ラインが停止する」というコトのインパクトはあまり分からないのですが、そういった細かいコトを積み重ねていくコトも必要なのでしょう
あとはそういったシステム化がされていると、どの工場も同じになるという利点もあるようですね
このあたりもあまり現実問題として把握していないですが、日本のスマート工場化されていない工場だと、工場によって結構やり方が違っていて、工場間の異動などがあるとまずはその工場のやり方を覚えなくてはならないというのが少なからずあるようです
主人公は大事な取引先を買収したり、工場のスマート化を目指し、結果、スマート化を実現する
そこで例の海外企業から声がかかる
「やっぱり御社の技術を諦められない、かなりスマート化されたとのコトなので、今はウチの会社と取引するコトに障壁はないのではないか」と
結果は無事に取引できるコトに
ここで主人公の企業は第4次産業革命に追いついたようだ
その間、タイに工場を作ったり、取引先企業が抱えていた問題をシミュレータで即座に判明させたりというコトもあった
タイ工場はスマート工場化した日本での事例をそのまま反映したモノで、更にネットワークを活用して現地に行かずに工場の管理ができるといったコトも試していた
シミュレータで即座に問題解決できるというのは、会社で持っている情報と、問題を抱えている企業の数値をシミュレータにかけると即座にどこに問題があるか分かるというハナシみたいですね
まぁいずれもIT技術を使用しているハナシですかね
終盤ですが、そういった技術や知見を溜め込んだところで、そのノウハウをサービスとして他企業に提供する子会社を作るコトになります
このあたりはIT業にいる自分としては考えやすかったですかね
これまでスマート工場化を実現させていく中で一緒に取り組んできたいくつかの企業で資本金を出し合って第4次産業革命サービス会社?を作りました
すぐにマザーズ市場に上場し、その時に来ていた記者が主人公に「(子会社のITサービス業が親会社を凌ぐ規模になっていますが)親会社はまだモノづくりを続けるのですか?」という質問を投げるが、主人公が怒りを抑えて回答してるあたりは下町ロケットに通じる部分ですかね
何度か書いている通り、レビューを書いてる私はモノづくりは門外漢でありつつ、IT部分はそれなりの知見を保持しています
その目線で正直「モノづくり」という言葉は日本の呪縛のように感じていました
日本人の多くはその言葉を信じて、日本は世界でもまだ上位にいるというような感情になっているかも知れないですが、モノが売れない時にモノを作って先があるのかなと
日本のスマホって、、、SONYくらい?でも自分は買うことないと思います
日本のパソコンって、、、パナソニック、東芝、マウスコンピュータあたりがありつつ、もう自分はそれらは買うことないと思います
世界でどれくらいのシェアなんですかね
とはいえコトづくりなどとも言われるIT系でも欧米に全く太刀打ちできない
中国からも既にかなり遅れている
SNSなんかは当初はMixiとかがFacebookの先を走っていたようにも思うのですが今は、、、
面白いITサービスは日本でも出ているように思いますが、GAFAなんていう言われようを思うと流石に太刀打ちできないし、日本のITサービス企業でそこまでの規模になる企業が出てくるとは流石に想像できない
日本の新興ITサービス企業で一番はメルカリあたりですかね
彼らもGAFAまでは狙っていないでしょうが、、、まぁ遠いでしょうね
そこにこの本を読んで、日本はやっぱりモノづくりだけどこれまでの職人魂的なモノづくりから脱したモノづくりができるか
我々IT側はユーザの望むモノを言われたように作るのではなく、世界基準になれるようなシステムを、言われたモノを作るという低い位置からではなく高い位置から志高く設計していけるようにならないといけないのだろうなと
色々と考えさせられる本でしたね
池井戸先生のゴリゴリの現実が描かれる世界も良いですが、このような本も面白かったです
Posted by ブクログ
面白くて勉強になるお得な一冊。小説として読むと少し予定調和過ぎて池井戸作品のように感じてしまうが、製造業ITの現在および近未来をリアルに捉えており、実用書としてよりオススメ。
Posted by ブクログ
第4次産業革命というタイトルに惹かれて読んだが想像していた内容と違った。産業革命以降ある特定の(先進国の)暮らしが豊かになると同時にエネルギー、環境、格差の問題が深刻になってきたが、今ここで人類の選択肢は大きく3つ。①問題をフェイクだと否定し、これまでのように資本主義を突き進むか(トランピズム)、②SDGsやESG投資に代表されるような、問題解決と経済発展の両立を目指すグリーンニューディール的な立場、③両立できないとして先進国の経済発展はあきらめ、その分を発展途上国へ回す極左急進派と言われる立場、モノヅクリ企業に携わる身としては②でありたいが、そのヒントを見つけるために本書を手に取った。
しかし、本書はそういったマクロな議論を展開するのではなく、日本の製造業が抱える問題と進むべき方向性を述べたものであった。要約すると、これまで人間の経験や勘、摺り合せに頼ってきたところを第4次産業革命ではIoTやAIを活用して形式知、組織知化することで発展途上国でも容易に先進国に追いつくことができるようになること、これまでの産業革命の歴史はつねに機械が人間に勝利してきたこと、日本が優れていた巧みの技や現場の強さがそれに固執しすぎると機械に敗北し、逆に弱点になり得ることが課題であると述べており、未だ優位であるうちに早くその巧みの技を形式知化してAIにはできない次の進んだ技術を巧みが開発してそれをまたIoT、AIで自動化させて常に差別化していかなければならないことなどが記載されている。
なるほど、これは少し異なる点はあるものの、TPSと狙っていることは同じであった。ラインをセンシングしてネットを通してデータを送り、AIで解析してまたネットで指示を送り修正する、IoT技術とAIを駆使する。物と情報の流れからムダを明確にしてそれに対して手を打つ。同じではないか。
但し、誤字がいくつか散見されたのが少し残念ではあったが、勘違いから読み始めたものの新しい気づきを得た1冊であった。