あらすじ
「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、本屋大賞第3位。圧倒的な取材と着想で、昭和最大の未解決事件を描いた傑作長編小説。「これは、自分の声だ」――京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品からカセットテープとノートを見つける。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープの音声とまったく同じものだった――。
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「きょうとへむかって、いちごうせんを……にきろ、ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら」
かつて日本を震撼させたある脅迫事件。
被害企業との接触に使われた録音テープの声は、幼いころの自分の声だった……。
知らないところで犯罪に関わっていたことを知り、真相を明らかにするため動き出した曽根(そね)。一方、新聞記者の阿久津(あくつ)もこの未解決事件を追い始め……。
衝撃の事件の「真実」を生々しいまでのリアルさで書き切った本作。
「週刊文春ミステリーベスト10」では第1位、第14回本屋大賞にもノミネートされています。
話が進むにつれ徐々に明らかになっていく真相に、ページをめくる手が止まりません。
自分のあずかり知らないところで犯罪に関わっていたかもしれない、と自らも追われる立場になることへの恐怖を抱く曽根。反対に、不明瞭な事件の真相に近づき、得も言われぬ興奮を覚える阿久津。異なる立場の2人の、細やかな心理描写にも注目です。
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このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
自分の声が未解決の脅迫事件に使われていた
身内が犯罪に関わっていたのか?真相を知るために犯人の痕跡を追う
同時に特番のために未解決事件を再調査する記者も犯人の痕跡を追う
追われる恐怖を体感した俊也が真相を追うことを諦めるシーンが印象的だった
生島一家を襲った悲劇とそれを知った阿久津さんの反応、聡一朗と千代子の再会は胸にくるものがある
そして俊也さんの音声を録音した人物が意外で...
事件を起こした動機は薄っぺらいものだったし、子供の声を使った動機もなんだかね...
俊也に判断を委ねるやり方は狡いと思った
Posted by ブクログ
小栗旬さんと星野源さんが演じる映画を観て、原作も読みたいと思い購入しました。
映画より分かりにくかった部分が細かく描写されており楽しめました。結構映画では削られてたんですね…。映画同様に好きなシーンは、やはり生島家族で亡くなった姉の声を聞くシーンでした。"声"により波乱の生活を送る様になった一家。罪の象徴でもある様に扱われていた声ではありますが、最後にはその声で失われた家族の時間を補う存在となった事に深い感動を感じました。
阿久津と俊也がバディとなる部分は映画と違い最終盤。そして曽根達雄との対峙もまた中盤という展開。この部分に関しては映画も原作もどちらも良いですね。
面白かったです。
Posted by ブクログ
阿久津と曽根、2人の男性が、それぞれの立場からひとつの重大事件を追う。
裁くためではなく、知るため。そして最終的には、未来へと繋ぐため。
実際の「グリコ森永事件」をモチーフにされており、犯行経過はほぼ同じのよう。
視点が入れ替わり、複数の犯人を扱うために登場人物が非常に多く、読み進めていく中でやや混乱しました。
事件のことを知りたくて読んだので、細かに流れていく事件経過で丁寧にインプットできたのは良かった点。一方で、完全フィクションである犯行動機の部分は、フィクションだからこそもっとのめり込みたかったな、とも感じた。
Posted by ブクログ
「ギン萬事件」ー製菓会社の社長誘拐・毒入り菓子ばら撒きという社会的な大事件。
事件の関係者の可能性があるテイラーの曽根と、事件を追うことになったジャーナリストの阿久津が、真相解明のために奔走するというお話。
正直、作中の株関連の話は自分が疎すぎてあまりよく理解できなかったものの、少しずつ事件の真相に近づいていく過程が面白く、後半は一気に読んでしまった。
実際の事件が元になっているということもあってか、内容がとても濃密。
そして、「ギン萬事件」によって生島家の子ども二人の人生がぶち壊されたという切ない結末。
自分の声を使われたという同じ立場なのに、人生をぶち壊された生島家の二人と、何不自由ない人生を送ってこれた曽根の対比が哀しかった。
犯人にとっては復讐のため、自身の正義のために生まれた事件だけど、巻き込まれた周囲の人間への影響を考えると何が正義なのか、と考えてしまった。
社会批判する者の極端な論理が
主犯格の一人は、動機を「自分が社会に希望が持てなくても、誰か社会に希望を持つ者(今いる社会が、絶対的の基盤だと信じる人々)に空疎な社会を見せることができる。」と語る。インタビューをした記者は、強い憤りを感じた。「金が欲しいわけでもなく、権力や資本主義に一矢を報いるためでもなく。ただ、砂上の楼閣を建てるため青酸菓子をばらまく」。砂上の楼閣は、脅迫文の録音の主である幼い子供のその後の人生であり、その家族や犯人と関係者のその後でもある。戦後20年が過ぎたころから戦争を知らない世代が、中心的に、幸福の理想を求めた反帝国主義、反資本主義、社会民主主義、新自由主義など運動を起こした。しかし、活発になるほど世間は急進的な改革を受入れない。運動家は、不満を募らせていく。