あらすじ
海外の研究者が「世界初の先物取引市場」と評価する江戸時代、大坂堂島の米市場。米を証券化した「米切手」が、現在の証券市場と同じように、「米切手」の先物取引という、まったくヴァーチャルな売り買いとして、まさに生き馬の目を抜くかのごとき大坂商人たちの手で行われていた。このしばしば暴走を繰り返すマーケットに江戸幕府はいかに対処したのか? 大坂堂島を舞台にした江戸時代の「資本主義」の実体を始めて本格的に活写
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江戸時代の市場経済の実証的研究
名著。P138の立用米は立物米、P164の損毛は損耗の間違ひ。
徳川時代の経済史としておもしろかった。先物取引については井上ひさしの『黄金の騎士団』での知識しかなかったのだが、この本でどういふものかよくわかった。少くとも17世紀までには米市場があったとは知らなかったし、幕府が試行錯誤しながら市場を望ましい状態にしようと躍起になってゐた事もわかった。
市場経済について不案内な人も不信的な人も、徳川時代からあったと知ればいい入門になるのではと思ふ。
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大阪堂島にあった米市場について書かれた本。当時の資料を詳細に分析し、まとめ上げられており、学術的で論理的内容である。行われていた米取引は現物のみならず、先物も行われており、世界初の先物市場と言われていることを知った。当時の商人のみならず、監督者である幕府や、訴訟対応に当たった大阪奉行所など、その金融リテラシーの高さは、驚くべき事実だと思う。大きなお金の動く市場を安定的に運営する方法の研究は、素晴らしい着眼だと思うし、とても勉強になった。
「日本の大阪米市場は、世界初の組織的先物取引市場であるとする海外の方も少なくない。なかでも著名な人物としては、CMEグループの名誉会長であり「先物取引の父」とも呼ばれるレオ・メラメド氏が知られている」p5
「堂島米市場は日本よりも、むしろ海外において認知度が高いとすら言える状況である」p5
「大阪の米市は、ごく初期の段階から、米そのものを売買する市場ではなくなり、手形で売買する市場になっていた。それのみならず、米手形は実際に在庫されている米の量以上に発行されていた。大阪の米市は早くから単なる米の販売市場にとどまらず、将来の収入を引き当てにして諸大名が資金調達をする金融市場としても機能していたのである」p31
「商品・現金のやりとりを避け、手形での決済を好むのは、大阪をはじめとする上方商人の特質と言われている。例えば、明治政府が行った商業慣例調査においても、現金の授受による決済が支配的であった江戸とは対照的に、京・大阪では手形での決済が一般的であったことが報告されている」p31
「江戸時代の日本で大規模な凶作が発生した年には、東アジアの夏季平均気温が低位に推移していたことが確認されている。だが、享保期はその逆であったことから、米作にとって中立的か、あるいは望ましい気象条件が持続したと考えれれる」p57
「(堂島米市場)米切手を売買する正米商い(スポット取引)、先物取引である帳合う米商い、そして虎市(売買単位の小さい帳合米商い)の3つに分かれていた」p107
「取引開始時点を寄付、取引終了時点を引片と呼んだ。夕方の終わりを「大引」としている」p111
「(商家秘録)「数千の人、毎日数十万俵うりかい、一俵も違わず日々滞りなく帳面納まる事、またほかにたぐいなき商いなり」」p142
「幕末の堂島米市場では慢性的な鞘開き(現物と先物の価格差)に悩まされ、明治2年には、まさにこの鞘開きを1つの理由として、廃止の憂き目に遭っている。明治4年に再出発することになるが、そこでは、満期日における米現物の受け渡しによる決済が、例外規定としてではなく、ルールとして明記されている。つまり、堂島米市場は、明治4年以降に正真正銘の商品先物市場となったのである」p155
「(藩による品質管理の厳しさ)1870年代から80年代にかけて、廃藩置県と地租改正によって領主制は解体し、物納年貢から金納地租への切り替えが進む中、熊本県を含む全国各地で産米品質が悪化したことが知られている。砂を混ぜたり水をかけたりして目方をごまかす、良米と称しつつ粗悪米を混入する、などの行為が横行したのである」p168
「江戸幕府は市場経済に疎いなどという評価は、少なくとも18世紀以降については、全くあてはならないことがわかる」p271
「(旗振り通信)大阪からの通信時間は、和歌山が3分、京都が4分、神戸が7分、桑名が10分、岡山が15分、広島が40分弱であったとされる。通信の平均速度は720km」p291
「現代に暮らすわれわれがそうであるように、通信速度の希求は不可逆的なものである。飛脚が遅いとして米飛脚が生まれ、並便では遅いとして早便が生まれ、早便でも遅いと旗振り通信が生まれる。江戸幕府が押しとどめようとしても、この流れは決して止まらなかった」p295
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世界でも先駆的な先物取引市場とされる江戸時代の大坂堂島米市場の実態と、そこで生起した市場経済に対峙する江戸幕府の政策的格闘を描写。
優れた経済史のケーススタディ的入門書であり、ポイントとなる史料が逐一、現代語訳と原文で紹介されているのが出色。
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前著『近世米市場の形成と展開』の内容を,新書レベルでわかりやすく解説するに留まらず,その後進捗された新たな研究の内容も踏まえた力作。前半では,大坂堂島米市場の取引システムに対する説明を詳細に描き,後半では,そこを舞台として繰り広げられる「江戸幕府と市場との格闘を観察,考察」(170頁)している。
副題として「江戸幕府vs市場経済」と付されているが,けっして幕府が市場経済に反抗的・対立的であったのではない。むしろ幕府は,時の政府として,法令や制度,あるいは大坂町奉行の判例を通じて,市場の失敗を保護,是正する役割を果たしていた。徳川時代が「幕藩体制」という近代法治国家以前の政治経済システムにあるものの,市場メカニズムに対する政府の役割は,古今を通じて基本的に大きく変わることはない。それを当時の一次資料を介して微視的に分析し,実証できるところは事細かにわたって実証し,まだ実証できていない点については,確からしさの高い著者の展望が述べられている。
強いて言えば,各章に費やされた頁数のバランスは良くない。第1章が12頁で終わってしまっているにも拘わらず,次章へと進むごとに頁数が増し,第5章「堂島米市場における取引」に至っては,読破までに50頁を要する。これは,新書の1章として実に長い。そうかと思うと,第6章は12頁に終始する。そして,クライマックスを迎える第9章「米価低落問題に挑んだ江戸幕府」でも,再び50頁近くが費やされている。一般的な新書ユーザーにとって,キリの良い章末まで読もうという意識を持っていると,なかなかそのゴールテープを切れない時がある。だが,長編である第5章と第9章こそ,著者の研究の真骨頂に相当する。帳合米商いという先物市場における取引ルールの特徴が把握できると,その市場秩序を維持するために,民間である商人と政府である大坂町奉行所,ひいては江戸幕府がどのような行動を振る舞い,どの程度(近世当時のレベルとして)公正かつ合理的であったのかが,理解できよう。
本文中には,著者がこれまで利用してきた数々の一次資料が文面どおり紹介されているが,その掲載順が,「現代語訳」から始まり,続いて「史料原文」が書かれているのも,一般の読者向けに親切な対応である。それととともに,当時の文章のリズミカルな書き方も,全く失われていない。
本書の購入ターゲット層は,現代の金融資産や先物取引といったファイナンスに興味あるビジネスパーソンにあるのかもしれないが,著者の思いは,それに限定されたものではない。あとがきを読むと,「経済学と歴史学の分析手法の双方を採り入れて歴史的事実の解明を進める経済史学」(304頁)のおもしろさや魅力を,とくに学生に伝え,一人でも多くの若者に対して,この分野の研究にチャレンジしてほしいという願望が込められている。そのヒントとして,著者は,本文の諸処において,実証的には未解明であるものの,それが明らかになると非常に興味深くなるシグナルを発信している。それこそ,次世代の研究課題に採り上げられよう。そうした著者の気持ちに,評者も微力ながら応えられば幸いである。
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実証的な経済史学に基づき、市場経済と政府(江戸幕府)との対抗関係を興味深く描いている。300ページくらいの新書でありながら、これだけ高度な内容をわかりやすく堅実に著述できた名著であると思う。
Posted by ブクログ
民主党政権と一緒に日本経済を殺してきた日銀前総裁が褒めてるって恐ろしい帯にもかかわらず、とても素晴らしい。
時々「世界最古の先物市場」と紹介される(けれど総裁は解説されない)堂島米市場の実像及び、プレイヤーと監督官庁の攻防はとても興味深いものである。
失敗から学ぶ江戸幕府
遂には口先介入まで編み出した江戸幕府。
そして、米価対策。
飢饉や政情不安対策としての暴騰対策だけで無く、米で税を集め、米で給与を支払っている幕府/大名としては、米価の暴落/低迷も暴騰と同じく、避けるべき事態であり、大名が承認に宵寝をつけてもらえるように努力している様は、涙ぐましい程である。が、質の向上が農民には何らインセンティブが与えられていなかったこともまた事実であり、この経験が直接維新後に継続していない事からも確認できる。
そして、後書きにあるように、この経験値が維新後に何らかの形で繋がっているのだろうか?への答えを待つものである。更なる研究が待たれる。
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ここで表されているものは、正に証券市場であり、かつ、金融だ。米切手が有価証券もしくは現金として信用創造する様には、ある種の感銘を覚える。そして、一種のデフォルトも清々と私的に整理されている。また、米切手を用いた金融政策も行われている(アナウンスメント効果もあり)。今とあまり変わらないのが楽しい。
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江戸時代の堂島米市場の具体像を通して、米切手の先物取引、空米切手(現物米と交換不能な米切手)をめぐる幕府・藩・米商人のかかわり、幕府の米相場コントロールの取り組みなどを明らかにしつつ、江戸幕府が市場経済といかに向き合っていたのかを展望しようとする一冊。
文章はわかりやすく、史料の現代語訳と書き下しを併記してあったり、歴史的な用語を現代的に言い換えてあったり、読みやすくする工夫もしてある。
帳合米商い(米切手の先物取引)の説明のパートは勉強になったが、如何せん私自身が金融の門外漢なのでメカニズムを理解しきれなかった。要再読。
個人的には、幕府の空米切手への対応の話が面白かった。幕府は空米切手停止令を発令するが、本書ではその目的を「在庫量以上の米切手の発行禁止」でなく「交換不能な米切手の根絶」であると評価している。一見すると前者にみえる停止令だけど、本書を読んでいくと、なるほど後者かもしれん、と思える。
また、幕府が米相場のコントロールに四苦八苦していた様子も勉強になる。商人から御用金をまきあげて米を買い集めて米価格をつり上げようとする幕府と、極力御用金を逃れようとする大坂の米商人とのせめぎ合いは読み物としても面白い。相場情報伝達のための旗振り通信の話も話のネタになる。
自分の中にある江戸時代の経済・金融像を改めさせられた。
Posted by ブクログ
【商都で一勝負】世界史的に見ても,当時の水準で異常なほどの発達を見せていた大坂堂島の米市場。今でいう「自由主義」が時に行き過ぎ,暴走の感を見せるその市場に,江戸幕府はどのような哲学をもって関係を築いていったのか......。著者は,ミクロ経済と経済史を専門とする高槻泰郎。
いわゆる経済学なる考え方が発展していない中で,市場と規制の鍔迫り合いがダイナミックに展開されていたという事実にまず驚き。その上で,信用や名目,時には「腹芸」が重視されたりする当時の市場慣習が透けて見え,経済史としての面白さも詰まった作品だったように思います。
〜市場経済の原理なるものは,目的に適合する限りにおいて容認・保護されるべきものであり,それ自体として尊重されるべきものではない,というのが江戸幕府の立場であった。〜
最近のメッケもん的一冊です☆5つ
Posted by ブクログ
日本の金融市場の黎明期がどのように成り立ってきたのか、そのことを具体的に知る良書である。江戸時代の大坂でこのような洗練された金融市場が形作られた。そして、江戸幕府はこれをなんとかうまく利用しようと、お互いの駆け引きが続き、それはまた江戸幕府の統治の要のひとつであったという見方である。
本当にこの堂島米市場で行われていた帳合米取引というのは、現代の指数先物取引とほとんど同じものである。米を原資産とする証券デリバティブ取引であった。
大坂と江戸。この絶妙の距離感が江戸時代の金融市場にイノベーションをもたらしたのだろう。この市場が仮に江戸にあったならば、このような洗練された金融市場として成長できたかどうか。お金は政府とほどよい距離感にあったほうがいい。適度な緊張感と自由な発想。これが大坂の金融市場の基盤にあったと思う。
現代もまた然りである。お金と政府がべったりくっついた東京金融市場は閉塞感の中にあり、没落するばかりである。もはやアジアを代表する金融市場ではない、単なるローカル存在となってしまった。
自由闊達な金融市場を現場の力で作ってきた大坂は、大阪と名前を変えて以降、戦時・戦後の統制経済に押し込められ、日本から金融力を失わせてしまったのではないだろうか。
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江戸時代の大阪でのコメ取引の話。天下の台所である大阪では全国のコメが蔵屋敷に集まってそれを商人が売り買いして……という程度の知識はあったものの、読んでみるとそこでやっているのは債券市場というか商品先物取引というか、かなりハイレベルな取引でした。
それに対する武士の側も一方的に力と儒学で押さえつけるのでは無く、物価の安定と大名財政の安定を目標に硬軟織り交ぜて対応しているのが印象的でした。
江戸幕府も(質素倹約などという上っ面ではない)経済政策をちゃんとやっていたんだな。
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2024/3/13 読み終わった
江戸時代に指数連動先物取引があったと聞いて。
たいへん洗練された先物取引一番が、江戸期に存在したことが分かった。そして、それに対して江戸幕府がどのように関わっていたのかも。
金融のかなり複雑な内容も含んでいたので、半分くらいしか分からなかった。とりあえず幕府は、トラブル起こすなよ!米価安定しろ!の2点で堂島に介入したりしなかったり。
実際の米量を超えて手形を発行していたところまでは分かる。期間の末日に実際の米価と手形の価格の帳尻が合っていた?点がよく分からなかった。幕末期にはその帳尻が合わなくなったので、引き換え必須となり、現在の先物取引と同じ状態になったという点も。これからの自分の勉強に期待。
あとは、西洋の先物取引はリスクヘッジからスタートしたのに対して、堂島では完全に投機目的でスタートしたという対比も興味深かった。
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読んだきっかけは「江戸時代に先物取引があった」という内容に興味をもったためでした。江戸時代の米と言えば農民が年貢を納めているイメージですが、では納められた米俵はそのあとどうなった?本書にはそこが描かれています。米は各地から大坂の藩屋敷に集められ、市場で売買されます。しかも一部は米切手という証券に化体し、現代のような激しいデリバティブ取引の渦中に巻き込まれていきます。実際の米がまだないのに空切手を売ってしまう藩。市場を管理し米価を安定させようとする幕府。管理されまいとする三井家、鴻池家などの豪商…。
江戸時代の人は現代人よりも原始的だったか。とんでもない。西洋文化が流入するはるか以前から日本には高度な市場経済があったのでした。
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堂島米市場が先物市場誕生の場というのは知っていたけれど、その誕生の理由がわかった。いわゆる商品先物のニーズからかと思ったけど、意外と違った。物事は、これ作ろう、と意図的に作り出されるんじゃなくて、不便を便利にするところから生まれてくるんだなとつくづく。
それ以外にも驚いたのが、米価が市場経済の肝となっていた江戸時代、米切手をめぐって、システミックリスクを起こさないよう規制が張られたこと、そして、米価を安定させるためにまさに日銀の金融政策の発送で江戸幕府がさまざまな政策を苦慮させていたこと。ちょっと乱暴だなと思ったけど、、原理としては似てるのかなと、面白かった。
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世界最初の先物取引市場と呼ばれる(※諸説あり)堂島米市場はどのように運営されていたのか。そして、米市場で展開されていた市場経済に、当時の為政者である江戸幕府はどのように向き合っていたのか、について書かれた本。
現存する資料の数は豊富では無いらしいが、かき集められた資料からは、当時の市場や人々の様子をありありと感じることができてとても面白かった。
経済学という学問体系の確立など遥か先の話である江戸時代において、市場運営側の商人・市場管理側の幕府、両サイドがそれぞれに試行錯誤を重ね、絶妙なバランスを保ちながら市場の維持に成功していたことに感嘆する。
あとがきにもあるように、国民の生活が「宜しくなり候ため」に市場に介入していた江戸幕府の立場から学ぶべきことは多分にあるように思う。現代においても、各種サービスは、全ては我々の生活が「宜しくなり候ため」にあるべきはずだ。どうすれば宜しくなるのか、宜しい生活とは何なのかを考え続け、適切な市場原理を追求することが重要だと感じた。
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江戸時代が米本位制ともいえる経済の中で、現代の金融政策に通ずる政策をやっていたことに対して驚く。経済規模に違いはあれど、政府が相場に介入した結果の末路というものは通ずるものがあるかもしれない。
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米相場の指数先物取引といえる先進的な取引が行われていた江戸時代の米市場について、これを容認したり敵対視したりしつつも政策目的のために活用しようとした江戸幕府・大阪奉行所の動きや相場情報の迅速な伝達を目指した地方商人の視点なども織り交ぜつつ平易に解説している。あとがきによれば、著者は本書を経済史へのいざないとしても書いたようだが、その目的はある程度達成されたのではないかと思うほど面白い。
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大坂堂島の米市場は「世界初の先物取引市場」であった。大坂の米市は米取引市場の形態をとりながら金融市場としての働きをもっていたのである。しかも「帳合米」という実体のない米で指数先物取引市場の先駆的な取引市場を開設していたのである。
副題の「江戸幕府vs市場経済」こんな博打のような取引をなぜ幕府は認めたのか。本書では幕府が大坂堂島の米市場=市場経済を使い米相場の安定を図ったと結論づける。
ところで、堂島の米市場は主に西日本の米が集まってくる。中部以東東北の米はどうなっていたのか。当然ながら江戸その他の米市場に集まってきたのである。なぜ大坂取引形態が江戸に伝播しなかったのか。江戸の商人にはマネができなかったのか、幕府が許さなかったのか。気になるところである。
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大坂堂島米市市場の当時の状況が詳しく書かれている本。
江戸時代の市場経済がどのようなものだったのか、幕府の対応や各藩の状況等、現代の金融市場と比べても勝るとも劣らない状況がそこにはあり読んでいてとても面白く感じた。
帯に日本銀行前総裁白川方明氏絶賛とあるけど、それも納得の内容。
資料の原文について書かれている部分では、この手の本だと大抵現代語訳は後だったり下手するとなかったりするものだけれど、先に現代語訳から書いてあるのも読みやすくて良かった。
米市場主義とでもいうべき江戸時代の話はとても興味深く、所謂貨幣の始まりと言われるものに金細工師が預かった金の量以上の「金預かり証」を発行するなんて話があるけれど、米市場でも保有している米以上の「米切手」を発行して資金を調達していて、信用経済と言えるものが現代に勝るとも劣らない状況で成り立っていた様はもっと知られてても良い気がする。
また、価値の基本が米の市場価格であるがゆえに、不作と言った問題が起きると米価格上昇=米切手価格上昇となって資金調達が容易になり、平常時も含めて抱えてた負債が解消できたりする状況になっていたのは、江戸時代が長くほぼほぼ平穏に続いた理由なのかなと思えてとても興味深かった。
現代では問題発生→不景気→税収減→予算不足で対策できないなんてことが当たり前だと思われてたりするけど、江戸時代は制度上自然に予算が増える状況になってたと考えられるのかなと思った。
また、副題には江戸幕府vs市場経済とあるが、幕府は米価格こそどうにかしようとしていたものの、市場に対しては直接手を出すことは少なくどちらかと言うと市場そのものには距離を置いていたこと。市場側も幕府を持ち出すのは最終手段としていたところなども面白いと思ったところ。
権力としては幕府や米蔵を管理する諸藩の方が強いわけだけれど、「そんな横暴かましたらそのあとどうなるかわかってますやろな」と言った感じで商人側が交渉してる話もあり、市場と言えども、いや市場だからこそ殴りつける力がないと交渉すら起きないんだなと思うと、ただただ市場こそが正義と言ってる現代の(一部)肩書経済学者の発言が陳腐に思えて仕方ない。
当時の市場参加者は多くの人との取引を希望しながら、取引の参加者は暗黙の規則を理解できる人間に限っていた話などもあり、市場が長く続くには利便性は当然としてなによりも信用が大事なんだなと思わされる本でした。
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本書は金融先物取引が江戸時代に行われていた様子を刻々と示すだけではなく、当時の政策やその効果、幕府の金融市場への関わり方を解説している。現代では複雑になりすぎている先物取引の仕組みを江戸時代の金融(米相場と米切手)に照らし理解するという読み方で読み進めていたが、私は通信分野を生業にしているものであるから、金融と通信は切っても切れないものだなと痛感した。
基本的には幕府は市場の自由を尊重しつつも一定の規制を入れ、幕府の考える良き暮らしを実現しようとしてきたことと、早く情報を押さえたものが勝つという特性のもと、飛脚、早飛脚、手旗信号と通信が加速していった様子は読んでいてエキサイティングであった。
こういう取引からいかに現金につなぐかは現代のフィンテックにおけるひとつの課題であるが、江戸時代からこの課題は変わっておらず、アナログな決済方法ではあっただろうが大きく考え方は変わっていないのではないか、というのが一読した所感である。
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江戸時代の堂島の米市場及び江戸幕府の政策方針を概観する。諸国大名の米が大阪の蔵屋敷(大阪町人名義)に集まるが、その資産を裏付けに米切手が発行される。それがやりとりされるのが米市場でさらにはその先物をやりとりする帳合米市場も同時期に生まれた、こちらは差金決済で現物のやりとりがなく、政府の関与は名目上は全くなかった。米切手の市場自体も米価格が安定する限りにおいて制度を安定させるように幕府は見ていたように考えられる。
各国は廻船された米以上に米切手を発行していたため何度となくデフォルトの騒ぎが起こるが実際に奉行所が仲裁に入った件数はそれほどなく、中期には裏付けのない米切手は違法と明文化される。また幕府は米価格が諸国、武士階級の収入そのものであるため、その価格維持に腐心し、買い上げ対策を何度となく大阪豪商(三井、鴻池ら)に働きかけるが、最初はうまくいかず、だんだんインセンティブをあたえたりとコミュニケーションをとって改善策を打ち出す。
Posted by ブクログ
米で徴税を行う江戸時代の年貢制度が、それを貨幣に変えるための装置を必要とし、結果として金融市場が発展するというのが面白いですね。米の価格が下がれば大名は困窮するため、当時の幕府が米の価格維持を目標に金融政策を行っていたというのも、言われてみるとその必要はあるのですが、言われるまで気づきませんでした。
先物取引が情報伝達の高速化を求め、飛脚や手旗信号が発達するところまで含め、社会のダイナミズムを楽しむことができます。
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歴史学と経済学を融合した良書。
市場との対話を繰り返し試行錯誤する金融政策立案者や市場秩序の維持に臨む司法当局など、江戸時代における幕府の政策を豊富な史料をもとに生き生きと描き出している。
Posted by ブクログ
確か、日経新聞の読書欄で紹介されていた本。日本から始まった先物市場の始まり方を読みたくて買ってみた。米と交換出来るお米券的なものを、米と交換せずに売買するところから始まって、先物取引に発展するところが、なんか天才的な閃きがあった感じですごい。
歴史、とりわけ江戸時代に興味のある方なら、もう少し面白く読めるのでは。
Posted by ブクログ
江戸時代の大阪米市場には、現代の先物取引にほぼ匹敵するようなデリバティブ市場が形成されていた。江戸幕府もそれを不実の取引としながらも、米価対策の観点で利用していた。