【感想・ネタバレ】献灯使のレビュー

あらすじ

大災厄に見舞われ、外来語も自動車もインターネットもなくなり鎖国状態の日本。老人は百歳を過ぎても健康だが子どもは学校に通う体力もない。義郎は身体が弱い曾孫の無名が心配でならない。無名は「献灯使」として日本から旅立つ運命に。大きな反響を呼んだ表題作のほか、震災後文学の頂点とも言える全5編を収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

これまでに読んだ多和田葉子の本は
『犬婿入り』
『ゴットハルト鉄道』
『ヒナギクのお茶の場合/ 海に落とした名前』
ファンタジー成分が多いけれど、わりと女性である作者に近い感覚の作品群だと思っていた。

本書『献灯使』は5つの作品を含む短編集。
視野が広がったためなのか、女の子っぽいところはなくなっている。
フクシマ以後の核汚染の怖れを濃厚に映し、現代社会への風刺に満ち満ちている。

『韋駄天どこまでも』が唯一ひとりの女性が主人公でその内面を書いているのだけれど、その視点はものすごく遠く高くにあるように感じられる。この作品は漢字をゴシック体で読者の目につくようにしかけ、漢字のダジャレのような遊びが入っている。
『献灯使』は地球が核物質?で汚染され、日本が鎖国していて、子供の生命力はお粗末なものというディストピア。世界のありようが面白いけれど、ダジャレめいた言葉遊びが少々くどい。世界観の構成が少し弱い気がした。少年が何を考えどう生きたかもっと見たかった。
『不死の島』これは日本だけが核で汚染されている話。
『彼岸』巨大原発に飛行機が墜落し、日本民族が避難のため移民を余儀なくされる。
『動物たちのバベル』三幕の戯曲仕立て。動物たちが人間のような姿で役者を務める。人間の悪口を言いながら人間の悪いところに似てしまった動物たち。

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2022年11月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

現代SFというのかな? 大災厄に見舞われ鎖国に舵を切った日本。老人は死ねない、若者は病弱で長生きできない、東京は汚染されているという世界での老人と曾孫の話が『遣唐使』。現実と虚構の狭間にある分、どうしても説明的に感じるけれど嫌味はない。『韋駄天どこまでも』のように漢字を分解して語るのは翻訳するとどうなるの?と考えると日本人だから楽しめる特別感もあった。世界観は他にないんだけれど、私の場合把握するのに気を取られ置いて行かれる感じがあって、そこまで素敵!好き!とはならなかった。

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2024年12月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ


自分に教えられるのは言葉の農業だけだ。子供たちが言葉を耕し、言葉を拾い、言葉を刈り取り、言葉を食べて、肥ってくれることを願っている。

献灯使 より


普通なら「暗殺」のニュースが流れるはずなのに、マスコミはなぜか「拉致」という言葉を使った。


若返ったのではなく、どうやら死ぬ能力を放射性物質によって奪われてしまったようなのである。

不死の島 より


初めて読む作家さんでした。
ハシビロコウの表紙に興味を持ち、前情報なしに読みました。震災後の壊れた世界、同一線上にある世界を舞台にした中短編集。
一般的に小説は、ひとつふたつの矛盾やおかしみを無視して構築されているものが多いかと思いますが、壊れた未来の日本は、言葉も生活様式も身体もおかしなところばかり。今、日本が鎖国したら、という現象には科学的とは言いがたい変化の数々。最後の話まで行くと、キャロルのナンセンス風なストーリーテリング。かと言ってそこまで寓話的でもなく、淡々と文学的なアプローチがなされた作品だと感じました。
刊行から数年経って、現実の日本と世界といえば、はたしてどちらが残酷で生きづらいのかと考えさせられます。小説に反して、世界は原発を中心に活動していくという方針も出ていて(当然、温暖化反対の活動家も原発は肯定的です)、事実は小説よりも奇なりじゃないけれど、そんなことになるはずがない、という認識もいつか現実を侵食してくるかも、と悲観的な想像をしたりもします。短編では不死の島がお気に入り。人民大移動もうっすら描かれていて、帰る場所をなくした人々が難民になるというのをどこか他人事のように感じながら生きている人は是非。

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2022年10月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

死ねない老人、反対に子どもたちの生きづらさ、本当にかわいそうになってくる。
表題作を補完する形の短編は、災害のリアリティと空想が混じり合ってこの世の終わり感が強い。とりとめなく続くディストピアな日本の話に絶望がひたひたと押し寄せてくる。随所にある言葉遊びも、時にゾクっとする不気味さを連れてくる。
末期はかえって穏やかで、地に還ってゆくような静けさを感じるが、そこに至るまでの壮絶さは言葉も出ない。
全体的に難解だった。政治的な皮肉、風刺が効いていて、ぐうの音も出ない。人間というのは愚かな生き物だ。

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2022年01月06日

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