あらすじ
私の瞳は、なにも映さない。お母さんのタルトは美味しいし、家の裏にある森はいい匂い。ひだまりは暖かい。でもいつか、皆が夢見るように語る、美しいものを見てみたかった……。草原で出会った魔法使い・ヒトが私にくれたのは、「綺麗なものだけが見える」不思議な目だった。これは、あなたが見失ってしまった綺麗なものをもう一度見つけられる、やさしさと友情のお話――。
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Posted by ブクログ
これまでに刊行された友井羊氏のミステリ作品を大変気に入っていたので、まさかファンタジーで来るとはと驚き(買う前に何度も著者名を確認してしまったほど)。実は私、最近ファンタジーや寓意的な話が苦手でして、楽しめるかどうか不安でした。
結果から言えば、本作は比較的興味深く、また楽しく(ときに切ない気分にはなりますが)読み終えることができました。
美しいものしか見えないヒカリを前に、彼女の瞳に映らなくて自分たちの外見的な醜さを露呈することを恐れる周囲の人たち。ヒトの外見はそのような人間の醜い部分を象徴しているのかな?
ヒカリが再び視力を失ってしまったのは、玲一郎の本性を知って人間どころか世界に不信感(外見が美しいものでも、その実は醜いものではないかという疑心)を抱いてしまったから?
ストーリー自体も楽しめるのですが、上記のような作中の要素が何かを象徴しているような気がして、それをいろいろ推定するのも楽しく思いました(実はそんな意味ないのかもしれませんが……)。
話として印象的だったのはヒカリがずっと目にしたかった雪の花を見る場面で、その描写はたった三行。それに続くヒトの外見や彼とのやりとりはその何倍も多く、密度も段違い。ヒカリがどれほどヒトのことを想っているかが伝わってくるようでした。
その場面は、あるいはそれまで見たいものだけを見てきたヒカリが、そうでないものも溢れている世界を受け入れていくという、ある種人としての「成長」を意味しているのでしょうか。
また、最も美しいものが透明の花というのも意味深。透明な花びらの向こう側には何かしら世界の一部が映っているわけで、そこに何が映っていようが美しいものである、とも受け取れるわけで。
正直、作中の要素全てを理解できている自信はないし、解釈が正しいのか不安だったりしますが、良い作品だなぁという印象は残っています。