あらすじ
日本経済はなぜ長期停滞しているのか。起業の活力もイノベーションの条件も不足しているからなのか。通説を覆し本当の可能性を探る。
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英語の言語としての大味さとか考えると、英語化は愚民化ってワードほんとそうだと思う。日本人に一番必要な能力は第一に国語力。その次に歴史とか数学とか幅広い知識教養が来て最後に英語だと思う。日本語を蔑ろにして、幼少期から英会話スクールとか通わせる親って残念ながら馬鹿しかいない。
中野 剛志(なかの たけし)
1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。
真説・企業論 ビジネススクールが教えない経営学 (講談社現代新書)
by 中野剛志
このように、一九八〇年代のアメリカの国家戦略がベンチャー企業とイノベーションの隆盛をもたらしたと論じます。その国家戦略のポイントは、教育政策と規制緩和であり、さらに外国から優秀な人材を取り込んだことにあると言うのです。ですから、彼が提案する「日本の挽回策」もまた、おのずとアメリカの国家戦略にならったものとなります。
つまり、言語教育、より広く教育一般というものは、起業しやすい国にすることなんかよりも、もっと多くの、かつ優先順位の高い目的があるはずです。英語教育ももちろん大事なのでしょうが、時間に限りがある中で、子供たちは、英語以外にも、国語なり数学なり歴史なり、幅広い知識や教養を身につけなければなりません。特に、国語教育は英語教育よりも大切なのではないでしょうか。 それをビジネスに役に立つからなどという下品な理由で教育制度を改革しようなどというのは、おかしい。そういう常識的な判断が働いてしかるべきだと私は思います。
英語教育ももちろん大事なのでしょうが、時間に限りがある中で、子供たちは、英語以外にも、国語なり数学なり歴史なり、幅広い知識や教養を身につけなければなりません。特に、国語教育は英語教育よりも大切なのではないでしょうか。 それをビジネスに役に立つからなどという下品な理由で教育制度を改革しようなどというのは、おかしい。そういう常識的な判断が働いてしかるべきだと私は思います。
英語教育の問題については、九州大学の 施 光 恒 准教授の『英語化は愚民化』(集英社新書) を参照してみましょう。施氏は、経営学者の野中郁次郎氏の理論を参考にしつつ、次のように述べています。 新しく何か(理論でも、製品でも、あるいはセールスのやり方でも)を作り出す時は、必ず、新しい「ひらめき」や「カン」「違和感」のような漠然とした感覚(暗黙知)を試行錯誤的に言語化していくプロセスが求められる。このプロセスを母語以外の言語でやることはほぼ不可能だ。日本には、母語である日本語で新製品の開発という高度に知的な作業を行う環境が整っていたからこそ、日本の製造業は発展し得たのだと言えよう( 2)。
これは、製造業の話だけではありません。施氏はさらに、中国や韓国よりも日本の方が自然科学分野のノーベル賞受賞者が圧倒的に多い理由について、中国や韓国の高等教育においては、自然科学の教材が英語であり、専門書も母語に翻訳されていないものが多いからではないかと指摘しています。というのも、母語で考えた方が、深い思考が得られるからです。また、大学教育がおおかた英語で行われるインドでは、近年、英語での教育が若者の創造性を奪っていることから、インドの言葉で教育を行うべきだという議論が高まっているそうです( 3)。
赤羽氏は、日本の「製造大企業・中堅企業には膨大な技術シーズと人材が埋もれており、活用次第で大変な力を発揮できる」と述べていますが、彼が提唱する「(企業の) 英語公用語化」は、その膨大な技術シーズと人材を破壊するものとなるのです。
というのも、中国やインドの自然科学の教育が英語に依存し、そのせいで若者の創造性が奪われていると言っても、それはあくまで一般論としての話です。何も中国やインドの学生全員の創造性が失われているというわけではないでしょう。英語が達者で、かつ高い創造性をもった優秀な人材も、中にはいるでしょう。中国やインドの英語での高等教育「のおかげで」ではなく、「にもかかわらず」、創造性を獲得することができた例外的に優秀な人材がいるというわけです。そうした少数の人材が、シリコンバレーに向かっているだけに過ぎない。そう考えれば、何も不思議なことはありません。
アメリカの若者が高校を卒業する比率は、一九〇〇年には一〇パーセント以下でしたが、一九八〇年までに八〇パーセントに増加しました。ところが、それが二〇〇〇年までに七四パーセントに下がっています。アメリカの高卒以上の比率は先進国中一一位であり、しかも二五~三四歳までの高卒以上の比率が五五~六四歳までよりも低い唯一の国になってしまいました。また OECD(経済協力開発機構) が一五歳を対象に実施する国際学力テスト PISA でみると、二〇一二年のアメリカの順位は、読解力が二四位、科学が二八位、数学が三六位でした( 9)。ちなみに、日本は読解力が四位、科学が四位、数学が七位となっています。
アメリカのベンチャー企業の実態について、もっと詳しく知るために、『〈起業〉という幻想』という本を参照しておきましょう。著者はスコット・シェーン、ケース・ウエスタン・リザーブ大学教授で、ベンチャー企業研究の第一人者です。 先ほど、開業率の統計データによって、一九八〇年代以降のアメリカは、ベンチャー企業が生まれにくい国になってしまったことを明らかにしました。シェーンもまた、統計データを駆使して、ベンチャー大国アメリカという神話を打ち砕いていきます。
さらにシェーンは、アメリカの典型的なベンチャー企業の実態について、次のように述べています。いずれも、世間一般で抱かれているベンチャー企業のイメージからはほど遠いものです。 ・起業家たちの起業の理由で最も一般的なのは、「他人の下で働きたくない」というものだった。 ・仕事をしばしば変える人、解雇された人、お金があまりない人の方が、起業をする傾向にある。 ・典型的なスタートアップ企業というものは、全然イノベーティブではなく、成長の計画もなく、雇っているのは一人ぐらいで、年収は一〇万ドル以下である。 ・ベンチャー企業の平均寿命は五年以下である。起業してから七年以内に新規ビジネスが軌道に乗るのは、全体の三分の一程度に過ぎない。 ・新規ビジネスのパフォーマンスは、既存ビジネスより良いわけではない。むしろ、企業の寿命が長くなるほど、パフォーマンスは改善していく。 ・典型的なスタートアップ企業は、創業者の貯蓄から資本を捻出している。また、新規企業に対するファイナンスは、平均すると、商業銀行からの融資と出資が半々である。ベンチャー・キャピタルからの資金は、全スタートアップ企業の約〇・〇三パーセント以下であり、全中小企業金融の二パーセント以下を占めるに過ぎない。 ・起業を決断するのは、若者よりも、中年男性の方が多い。 ・典型的な起業家は、サラリーマンよりも長時間働くが、稼ぎはより少ない。それでも起業する人は、チャンスに対して過度に楽観的であるとか、あるいは人の下で働くのを心底嫌がっているといった理由による。 ・スタートアップ企業は雇用をあまり創出しない。創業から一〇年以上の企業で働く労働者は全体の六〇パーセントになるのに対し、創業から二年以内の企業で働く労働者は全体の一パーセントに過ぎない。 以上のような…
しかも、アメリカ政府が開発したのは、インターネットだけではありませんでした。 例えば、アイフォーンは、スティーブ・ジョブズが生み出したとされます。しかし、アイフォーンに内蔵された GPS やタッチ・スクリーン・ディスプレイに至るまで、その機能を支える新しい技術は、どれもこれも、元をたどれば、国家による開発に由来しているのです。 あるいは、グーグルの開発者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが初めて起業した際、彼らは国防総省の支援を受けていたし、二〇〇五年のロボット自動車競争の際には、やはり国防総省から賞を得ていました( 17)。
人を見るということについては、江戸時代の儒学者・荻生徂徠 が、実に興味深いことを述べています。二五〇年以上も前の言葉ですが、人材の目利きに関して、これにまさるものはないと私は思います。 徂徠によれば、人をただ見ただけでその器量を見抜くなどということは、誰にもできはしません。 されば人を知るというは、いかようにして知るぞというに、その人を一日まぶりおりたればとて、その人の器量は知れぬ事也。然るに愚なる人は、大将の目がねといいて、名将は一目みても器量ある人を知るなどいうように覚ゆる也。それを愚なる人は誠と心得、己が眼力にて器量ある人を見出さんとす。占か神通に非んば知れぬ事也( 33)。
人間の能力というものは、「潜在能力」と言われるように、潜在していて、外からは見えない面がかなりあるという特徴があります。潜在能力は、顕在化しないと評価できません。しかし、人の潜在能力が顕在化するためには、少なくとも、その人を長い年月をかけて評価する必要があります。また、その人が置かれた状況によって、どのように行動したのかを観察する必要もあります。
例えば、技術開発の現場では、あまりぱっとしなかった技術者に、試しに技術開発部門の管理業務を任せたところ、優れた才能を発揮したなどということがあるでしょう。あるいは逆に、部下としては優秀だった社員が、出世して管理職になったとたんに、マネジメント能力のなさを露呈するといったことは、よくあることでしょう。
高学歴である上に明るい性格で、情熱もあるように見えるので、大いに期待して採用した社員が、仕事をまかせてみたら、からきし駄目だったなどということもあるでしょう。会社の業績がうなぎ上りである間は輝いて見えた出世頭の幹部が、会社が危機に陥ったとたんに、責任逃れを繰り返し、かつ本人も鬱になって、何の役にも立たなかったなどということもあるのではないでしょうか。
人と人との相性の問題もあります。うだつの上がらなかった社員が、ある部署での優れた上司との出会いによって、その才能を開花させるということがあります。無能な上司の下で才能を発揮できずにくすぶっている隠れた人材というものは、どこの会社にもいるものです。
「東洋経済オンライン」に「大企業からイノベーションが生まれない理由」と題したインタビュー記事があります。インタビューを受けているのは、第三章でご登場いただいたベンチャー・キャピタリストの伊佐山元氏。インタビュアーは東洋経済オンライン編集長の山田俊浩氏です。
実際、アメリカは、軍事関連の技術開発や宇宙開発といった非営利目的のために、膨大な予算を投入し、営利企業ではとうてい不可能な画期的な技術を生み出してきました。国家は膨大な予算と人的資源をもっているので、民間企業では経済性の限界から挑戦することができないような技術開発であっても、着手することができます。もちろん、国家予算の限界はありますが、安全保障というミッションは、資源動員の「理由」としてはきわめて強力なものです。予算を出すのが惜しいから、敵国に侵略されてもよいとは、普通は考えないからです。
共同体とは、家族や故郷に典型を見るように、それに属する個人の愛着の対象であり、アイデンティティの一部です。その集団に属することに愛着を覚えないようであれば、その集団は共同体あるいは共同体的とは言えません。例えば、夫が妻子に暴力を振るうようでは、家庭は崩壊して、共同体ではなくなってしまうのです。 さて、自分の個性を排除し、圧殺するような企業の社員は、その企業に愛着をもつでしょうか。もちろん、もちません。愛着や帰属意識をもてないような企業は、共同体的とは言えないのです。 共同体的な企業とは、社員が勤務することで愛着や一体感を覚えるような企業のことです。なぜ、愛着を覚えるのかと言えば、それは、その企業の上司や同僚や部下が、自分の個性を認知してくれるからです。社員を「個」として認めるような深い人間関係のある企業こそが、「共同体的な集団」なのです。
このことを理解するために、企業という共同体的な集団に属しない「個」がどう評価されるのかを想像してみてください。人の個性は、外形から短期間で理解できるものではありません。長い付き合いなしに人を判断するには、その人の資格や学歴、あるいは稼ぎといった外形標準で決めつけるしかありません。しかし、人間を、学歴、資格、稼ぎなどという形式だけで判断するのでは、「個」を尊重することにはならないでしょう。 学歴や資格といった外形標準で人間を分類し、振り分けるということは、言うならば、人間を「標準化」し、「モジュール化」するということです。つまり、「君でなくてもいいよ。他に取り換えがきくから」というように扱われるということです。
ベンチャー企業とイノベーションについて、これまでの議論によって明らかになった事実を、五つのポイントに絞ってまとめるならば、次のようになります。 ①アメリカはベンチャー企業の天国ではない。 ・アメリカの開業率は下落し続けており、この三〇年間で半減している。 ・一九九〇年代は、 IT 革命にもかかわらず、三〇歳以下の起業家の比率は低下ないしは停滞しており、特に二〇一〇年以降は激減している。 ・一般的に、先進国よりも開発途上国の方が起業家の比率が高い傾向にある。例えば、生産年齢人口に占める起業家の比率は、ペルー、ウガンダ、エクアドル、ヴェネズエラはアメリカの二倍以上である。日本の開業率も、高度成長期には現在よりもはるかに高かった。 ・アメリカの典型的なベンチャー企業は、イノベーティブなハイテク企業ではなく、パフォーマンスも良くない。起業家に多いのは若者よりも中年男性である。 ・ベンチャー企業の平均寿命は五年以下である。うまく軌道にのるベンチャー企業は全体の三分の一程度である。
②アメリカのハイテク・ベンチャー企業を育てたのは、もっぱら政府の強力な軍事産業育成政策である。 ・シリコンバレーは軍事産業の集積地である。 ・アメリカ政府は、軍事産業の育成の一環として、ハイテク・ベンチャー企業に対して公的な資金の供給を行ってきた。 ・IT はハイテク・ベンチャー企業の隆盛をもたらしたが、その IT は、インターネットをはじめとして、軍事産業から生まれたものである。 ・ベンチャー・キャピタルというビジネス・モデルは、軍に由来する。
③イノベーションは、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係から生まれる。 ・イノベーションを起こすには、そのための資源動員を正当化する理由が必要になるが、そうした理由を共有できるのは、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係である。 ・個人を活かすのは、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係である。 ・イノベーションの推進力となるのは、営利目的を…
④アメリカは一九八〇年代以降の新自由主義的な改革により金融化やグローバル化が進んだ結果、この四〇年間、生産性は鈍化し、画期的なイノベーションが起きなくなる「大停滞」に陥っている。 ・金融化は、企業の短期主義を助長し、長期的な研究開発投資を忌避する傾向を強めた。 ・金融化により、ベンチャー・キャピタルは投機により短期的な利益を狙うようになり、もはやリスク・マネーを供給する主体ではなくなった。 ・グローバリゼーションは、人材や技術のアウトソーシング(オフショアリング) に拍車をかけ、アメリカのイノベーションを生み出す力は空洞化した。 ・オープン・イノベーションは、企業の短期主義の結果であり、イノベーションを…
⑤日本は一九九〇年代以降、アメリカを模範とした「コーポレート・ガバナンス改革」を続けた結果、アメリカ経済と同様に、長期の停滞に陥っている。 ・日本の「コーポレート・ガバナンス改革」は、アメリカのビジネススクールで洗脳された官僚たちが主導している。 ・日本の「コーポレート・ガバナンス改革」は金融化やグローバル化を推進し、日本企業を短期主義的にする結果を招いている。 ・「コーポレート・ガバナンス改革」によって、日本はイノベーションが起きない国へと転落する。 ・一般に流布している…
以上が、ベンチャー企業とイノベーションについての「恐るべき実態」なのです。 ところで、私は、読者の方に起業をあきらめて欲しくて、このような「恐るべき実態」を暴露したわけではありません。 冒頭で述べたとおり、起業するのだとしても、少なくともベンチャー企業やイノベーションの実態については知っておくべきだと思うから、本書を書いたのです。この「恐るべき実態」を知った上で、それでもなお、やむにやまれぬ…
そこで、どうしても起業したいという方のために、お役に立つかもしれない助言をして、本書を締めくくりたいと思います。 もしあなたが、ベンチャー企業の創業者になったら、「会社を大きくする」「利益率を高める」「業界ナンバーワンになる」あるいは「株式市場に上場する」とかではなく、「会社の寿命をできるだけ長くする」というのを会社の目標に掲げてはいかがでしょうか。 あるいは、もっと大胆に「会社…
本書で強調したように、イノベーションを殺す病の元凶は、短期主義にあります。だから、短期主義とは逆に、「長期主義」を企業目標に掲げるのが良いと思うのです。もっとも、会社をできるだけ長く存続させるというのは、決して守りに徹するということではありません。その反対に、常に先を読み、…
実際、百年あるいは二百年以上も続く老舗企業を調べると、硬直的で守旧的であるどころか、環境の変化に柔軟に対応し、イノベーションを起こし続けることで、生き延びてきたことが分かります(102)。柔軟性と…
したがって、老舗を目標に会社を経営すれば、目先の利益に安易にとらわれることなく、長期的な視点に立って、従業員を大切にし、顧客との信頼関係を大事にするようになり、ひいてはイノベーションを起こすことにも成功するのではないか。そう思うわけです。 ちなみに、日本には創業二百年以上の企業がおよそ三五〇〇社もあるそうで、これは世界でも突出して多いのだそうです(103)。日本は、世界に冠たる老舗大国なのです。 ですから、日本で起業し、イノベーションを起こそうと考えている方には、「ではの守」のようにアメリカのベンチャー企業の幻を追いかけるのではなく、日本らしく「老舗の創業者になってみせる」という大きな夢を抱いてほしいと思います。
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得たもの:
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日本的な人事慣習として評判の良くない「長期雇用志向」「年功序列型賃金制度」について、「イノベーションを産むために必要な人事制度」という方向性の目線を得ることができた。
企業人事を考える上でいたずらに社内での昇格降格を激しくすれば良いと言うわけでもないと言うバランスの良い感覚を持つ一助になったように思う。
内容:
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感想
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読んでいる時は「ふむふむ」と納得しながら読めた。
(1) アメリカがイノベーションを生み出し繁栄したのは軍事産業のおかげ
(2)日本の「終身雇用」的な人事制度はイノベーションに必要な
「長期の濃密な人間関係」
を築く上では有効であり、必ずしも時代遅れで廃止しないといけないというようなものではない。
(3)アメリカは株主利益を偏重するがゆえに四半期(超短期)業績主義によってイノベーションの力はむしろ落ちている。
(4)日本の停滞の原因は金融政策の失敗と、(3)のアメリカ型ガバナンスを導入したことによってイノベーションが生まれなくなってしまったからだ
(5)日本は長期目線でイノベーションを生み出す「老舗企業」を増やすことを目指すべきだ
このような感じかと。
確かに、
「アメリカ型の超短期業績主義のガバナンス=イノベーションを生んでいる」
と短絡的に結びつけていたのでそれについては目線を変えることができた。
ただ残念なのは、そうは言っても現状、アメリカや中国の企業がどんどん売り上げを伸ばしていて、日本企業が売り上げを伸ばせていないのは事実なので、それに対して日本がどうしていくのかと言うアイデアがあまりなかったのは残念。
なんでもアメリカの経営を真似したら日本も良くなると言うことじゃないと言う目線を与えてくれた本であると思う。
日本の米国流崇拝を疑い解明す
日本が米国へ過剰な劣等感を抱くのは、幻想、思い込みであり、米国流を疑ってみて、詳細に分析すれば、世間で流布する通説(日本人は親方日の丸に頼り過ぎ、シリコンバレーを筆頭とした米国ベンチャー企業の精神を見習うべき、など)は誤りで、本質は違う(日本流は世界的に正しいとか、シリコンバレーの成功企業は国家の手厚い支援で生まれたなど)と分かる。日本の現代病を解剖し、治療策を提示する、日本人必読の一冊だ。
Posted by ブクログ
自分は大企業側の人間なのだが、確かに入社した90年代から少しづつ研究開発が近視眼的になってきて、成功確率だとかリスク評価だとか訳の分からない算数を駆使して不確実なことを避けるようになってきた。こんなことでイノベーションなんか起こるわけがないのだが、その変化と経営陣がコーポレートガバナンスを叫び始めたり、業績評価にROAを取り入れたりしだした時期が重なる。著者の分析は概ね正しいと思われる。
でも日本人は何か手本がないと何もできないのですよ。太古の昔から。「発展途上国メンタリティ」、まさにその通り。であるからして、バブル崩壊後に自信を失ったリーダー層がアメリカを手本にするのは必然だし、それに味をしめた特権階級層が益々その路線を突き進んだのも必然のように思われる。当時進むべき道が他にあったのか。仮にあったとしても日本人には見つけられなかっただろう。残念だけど。
Posted by ブクログ
富山氏、赤羽氏を一刀両断していて痛快
オープンイノベーションは個人的にお遊びだと思っていましたけど、やはりそうなのですね
データ、ロジックで完膚なきまでに通説をひっくり返すロジックに舌を巻きます
ただし、じゃあどうすれば?
という提言がないのが残念なところ
言いたいことはわかるけどもう昔には戻れないじゃん
将来について考えようぜ、と
Posted by ブクログ
★7つくらいつけたいくらいに面白かった!
現在のオープンイノベーションが短期的な成果を上げるのには効果的でも長期的にはイノベーションを失っていくこと、アメリカのハイテクベンチャーは国家が育てたこと等、新しい学びが多い。
また文中に参考文献も多く紹介されるため、次の学びもしやすくなっている。
オープンな関係性とクローズドな関係性の良し悪しを把握することが大事だと気付かされた。
Posted by ブクログ
経営に関する本で久しぶりに良い!と思った本
通説に対する事実からの示唆、イノベーションの本質、組織論な視点等々
目から鱗(自分がコレって本当?って目で物事を見られていない証左汗)でした
Posted by ブクログ
早速、内容ですが
第1章 日本でベンチャー企業を増やすには
あるコンサルタントの提言
アメリカの国家戦略?
自分の頭で考える
①ベンチャー企業を増やしたいのか、イノベーションを
促進したいのか
②なぜ、シリコンバレーだけなのか
③なぜ、外国人の企業を優遇するのか
④なぜ、「英語実践力の抜本的強化」(企業の)英語
公用語化」が必要なのか
第2章 起業大国アメリカの真実
第3章 ベンチャー・キャピタルの目利き術
第4章 最強の起業家は誰か
第5章 オープン・イノベーションの本質
第6章 なぜイノベーティブな企業の方が負けるのか
第7章 なぜ日本経済は、いつまでも停滞から抜け出せない
のか
というないようです。
この本の筋立ては、第1章であるコンサルタントの御説が、日本経済、アメリカの実態の上っ面だけみた論説であるあをひとつひとつ丁寧に化けの皮をはがしていくということになっている。
著者の、いままでからの考え方は一貫していて、日本人社会が培ってきた経済運営のあり方のすばらしさ、重要性をもういちど原点から紐解き、如何にコンサルタントが言っている内容が、今のアメリカ、日本の実体経済からかけ離れたものでるかを立証しながら、各章が進んでいく。
日本社会の閉鎖性が米国のスタイルから遅れをとっているという戦後の丸山節の同根の考え方で、そういう思考の延長線に現在の日本経済もあるという認識で、まるっきり進歩がないと断罪する。
最後に真のイノベーションとは、安定的な長期雇用、安定的な社内風土、外部企業との信頼の中でしか生まれない、ましてやオープン・イノベーションなんぞやは、真逆の結果しか生まないだろう。
日本の所謂停滞は、いつに金融政策の失敗が原因であり、企業活動が原因ではないのである。
久々に中野剛志さんの本を読んだが、言っていることに首尾一貫性があり、すっと読めました(笑)。
また、引用された本をこれからまたボツボツ読んでいきます。
Posted by ブクログ
漠然と「なんで世の中こんな状況になってしまったんだろう?」と疑問に思っていたことが、クリアになった気がする。
①なぜイノベーションが起こらなくなったのか?
②なぜ短期で成長し続けることが求められるようになったのか?
③なぜM&Aが盛んに行われるのか?
④なぜシリコンバレーだけ最先端を行く企業が生まれるのか?
たくさんの文献から数値や背景を明確にして、鋭く分析されている。
本当の部分も多いと思うけど、これが最先端の実態だとするとやってられない。
Posted by ブクログ
総評: 「アメリカ式経営」偏重に一石は投じるが、「じゃあ、日本はどうする?」は物足りないかと。
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読んでいる時は「ふむふむ」と納得しながら読めた。
(1) アメリカがイノベーションを生み出し繁栄したのは軍事産業のおかげ
(2)日本の「終身雇用」的な人事制度はイノベーションに必要な
「長期の濃密な人間関係」
を築く上では有効であり、必ずしも時代遅れで廃止しないといけないというようなものではない。
(3)アメリカは株主利益を偏重するがゆえに四半期(超短期)業績主義によってイノベーションの力はむしろ落ちている。
(4)日本の停滞の原因は金融政策の失敗と、(3)のアメリカ型ガバナンスを導入したことによってイノベーションが生まれなくなってしまったからだ
(5)日本は長期目線でイノベーションを生み出す「老舗企業」を増やすことを目指すべきだ
このような感じかと。
確かに、
「アメリカ型の超短期業績主義のガバナンス=イノベーションを生んでいる」
と短絡的に結びつけていたのでそれについては目線を変えることができた。
ただ残念なのは、そうは言っても現状、アメリカや中国の企業がどんどん売り上げを伸ばしていて、日本企業が売り上げを伸ばせていないのは事実なので、それに対して日本がどうしていくのかと言うアイデアがあまりなかったのは残念。
あくまでも
「なんでもアメリカの経営を真似したら日本も良くなるよ」
と言うことじゃないと言う目線を与えてくれた本であると思う。
Posted by ブクログ
経産省で長らく勤務してきた作者が、日本経済にまつわる、ふわっとした著名人の提言を、バッサバッサと切り倒していく本作。
元マッキンゼーの赤羽氏、元BCGの冨山氏などのコメントに対し切り込んでいく。
近年の日本経済は、アメリカ(特にシリコンバレー)礼賛主義を強め、とにかく起業、テクノロジー、オープンイノベーションなどの推進を強く主張している。
しかし、実はアメリカの起業率はそれほど高くなく、軍事技術と密接に絡んだ一部IT企業は成功しているものの、経済の短期利益獲得競争により、経済としては疲弊、つまり成功とはいえない状態である。
そうしたものを盲信するのではなく、改めて日本型の経済を考える必要があるというのが筆者の主張。惜しむらくは、ではその日本型のあるべきは?というところに、もう少し意見が欲しかった。
Posted by ブクログ
失われた平成の30年が、どれだけ間違った方向へ進められていたのか・・・中野先生の視点は「鋭い!」と感じさせられます。
失われた30年を取り戻す「令和」に時代を作れるのか?
早々に世代交代を望みたいと思います。
Posted by ブクログ
■メインテーマ
アメリカのベンチャー企業やいのへに関する恐るべき実態と根の深い問題とは?
■著者の主張
共同体的な組織や長期的な人間関係からイノベーションが生まれるのだが、ベンチャー企業などの短期的で流動化した市場環境を推奨する動きが日本にはある。
■学び
何百年も生き残っている老舗企業のサバイバル力に目を向けるべきだが、日本企業は地味で保守的な印象を生む。だから多くの人は、突然現れた勢いがあるベンチャー企業に目がいってしまいそのイメージにより、イノベーションは日本では生まれにくいとなったのだろう。
Posted by ブクログ
■ひとことで言うと
日本的大企業の価値観こそ、イノベーションの源泉
■キーワード
・アメリカ経済は40年以上停滞
→アメリカはもはや企業大国ではない
・イノベーション=不確実=計算不可能
→イノベーションへの投資=不確実性への資源動員
→矛盾の正当化が必要
・イノベーションへの投資には強い権限、営利目的の超越、価値観の共有が必要
→日本的大企業で育まれやすい価値観
・オープン・イノベーション=標準化⇔差別化
→競争力の低下
→クローズド・オープン・イノベーション(限定された関係の中でのオープン・イノベーション)を目指せ
Posted by ブクログ
シリコンバレーは軍事政策の産物、米国のベンチャーキャピタルは金融業、オープンイノベーションは短期利益の追求など日本で蔓延する米国礼賛を否定しドナルド・ドーアが絶賛した日本的経営の復活を啓蒙する書。米国は四半期資本主義だと糾弾し、それに追従する日本政府の経済政策である構造改革こそが現在の低迷を招いている元凶と批判する。締めは例によって新自由主義とグローバリズムの否定になります。レーガン、サッチャーで新自由主義の先駆者であった、アングロサクソン国家が、トランプ大統領を誕生させ、ブレグジットに向かったのは決して一般大衆が愚かだった訳ではないのだな。
Posted by ブクログ
「真説・企業論」中野剛志
1980年代以降の米国はベンチャー開業率が下がり続け、2009年以降では1997年の半分しかない。
アメリカの若者が起業する比率は下がり続け、2013年には1989年の三分の一に。
2015年の「Top100グローバルイノベーター」は日本企業は世界最多の40社。2年連続で米国を上回った。
米国の高卒以上比率は先進国中11位。25-34歳までの高卒以上率が55-64歳までのそれより低い唯一の国。
15歳を対象にした国際学力テストPISAでは、2012年の米国の順位は、読解力が24位、科学が28位、数学が36位。日本は、読解力が4位、科学が4位、数学が7位。
アメリカは過去40年、低い生産性を記録し続けている。
社会で全体ではベンチャー企業こそが非効率部門。
政府が支援すべきでない企業
・ライバル企業から市場を奪って成長しただけで、市場全体を大きくしたわけではない企業。
・海外ばかり工場を建て、国内に雇用を生み出さないで成長した企業。
・市場シェアや利益は世界トップクラスではあるが、一握りの経営層と高度な専門技術者だけで構成されており、雇用をたくさん創出しない企業。
1980年代のシリコンバレーはミサイル、衛星、軍事関連及び宇宙関連の電子技術に関わる企業が多数立地していた。彼らは収入の多くを防衛関連の政府契約に依存していた。
アメリカ初のVCは、その創設の目的は軍事的なものであった。
アメリカがITベンチャー大国でシリコンバレーにハイテクベンチャーが集積している理由は米国が世界最大の軍事大国だから。
ハイテクベンチャー企業の7割が最後に資金供給を受けてから2年以内に倒産している。
ハイテクベンチャー企業の半分以上が100万ドル以下の資金調達で倒産している。倒産したハイテクベンチャー企業が調達した資金額の中間値は130万ドル。
ベンチャーキャピタルはイノベーション全体ではなく、その後半であるハイテクの事業化に対して投資している。
技術が革新的なものである場合は、2年で結果を出すのは難しい。
イノベーションとは、事前にはその結果を知る事ができないような活動を言う。結果の見えない不確実な将来に向かって投資や開発といった行動を起こさなければイノベーションは実現しない。
イノベーションが直面する不確実性とは、本質的に「事前には結果を計算できないような将来」を意味する。
全ての成功は直観にかかっている。直観とはその時は分かっていなくても、事後的に正しいと判明することを見通す事のできる能力であり、原理を説明できないにも関わらず、本質的事実を掴み取り、本質的ではないものは捨て去る事のできる能力。
ベンチャーキャピタルのトップ5社が2011年〜2013年前半に出資したシリコンバレー88社のうち、70社の創業者は、「大手IT企業での幹部職経験者や、影響力を持つ人物と関係のある会社に勤めていた人か、すでに起業の経験がある人か、スタンフォード大、ハーバード大、MITのいずれかで学んだ人」であった。
荻生徂徠は、人をただ見ただけでその器量を見抜く事は誰にもできない、名将は一目で人材を見抜くなどと言うのは愚か者が信じている事であると言い、人材を評価するには実際に使ってみる事であり、あれこれ指示せずに好きになようにやらせてみるのがよいと言う。
イノベーションの推進者が、所属する組織内で共有された価値観を理由とする事ができれば、期待される利益の計算において多少劣っていたとしても社内を説得する事ができる。
「イノベーションの理由」が調査対象にしたイノベーションの事例は23件。商品、技術シーズの開発に着想してから事業化に成功するまでに要した期間は平均9.2年。5年以上かかった事例は17件、その中で10年以上かかった事例は9件、さらに15年以上かかった事例が5件であった。2年以内に成功したのは2件のみ。すぐに始めて3ヶ月で潰す意思決定をしていては事業化に成功するものは一つも出ない。
大企業では人的ネットワークをさらに広く、深く、長期間に渡るものにする事。
世界を一変させるような画期的なイノベーションのリスクを担う事ができる最大最強の組織は国家である。
同じ人員、同じ戦略上でビジネスを進めている限り、連続的な改良改善はできてもイノベーションは生まれない。
イノベーションは、単にばらばらのデータや情報をつなぎ合わせるだけではない。それは人間一人ひとりに深く関わる個人と組織の自己変革である。社員の会社とその目的への一体化とコミットメントが必要不可欠。この意味で、イノベーションとしての新たな知識の創造はアイデアと同じくらいアイデアル(理想)を創る事。
イノベーションの本質とは、ある理想やビジョンに従って世界を創り変える事。
新しい知を創る事は、社員一人一人と会社を絶え間ない個人的・組織的自己革新によって創り変える事。
日本に限らず、長期の競争力のある企業は長期雇用を重視する。
長期の競争力とは、持続的に改良改善あるいは革新を生み出し続ける能力の高さの事。
共同体的な企業とは、限定的で長期的な雇用関係や取引関係を持つ企業のこと。
イノベーションを生み出したければ、企業を本当の意味で共同体的な集団へと変えること。
イノベーションの理由は、単純な営利目的ではなく、むしろ利益計算では示すことのできない非経済的な価値観であった。営利中心の発想は、この価値観を殺す。
米国経済における、金融部門が保有する資産は1980年にはGDP比で55%だったのが、2000年には95%にまで膨らんでいる。金融機関の支配力が強くなった事で株価の最大化や短期的利益の追求への圧力が格段に強くなった。
20カ国30年のデータを分析すると、金融部門が成長すると、生産性は低下するという結果が出ている。株主主権論と効率市場仮説から導き出される金融化がイノベーションを促進するものになる事はありえない。
自社株買いこそが米国企業の短期主義を助長し、アメリカのイノベーションを削いできた元凶。コーポレートガバナンス改革の結果、2016年の1-9月までの上場企業による自社株買いの実施額は、4.35兆円と過去最高であり、これが本来ではイノベーションに向かうべき資金。
アメリカ出羽守(でわのかみ)、、、アメリカでは〜、シリコンバレーでは〜と、すぐに海外の手法を真似たがる途上国メンタリティ。
アメリカ出羽守が提唱する経営手法や制度は、日本には馴染まないだけでなく、アメリカでも上手くいっていない。
日本経済は米国を模倣した構造改革が足りないからではなく、構造改革をしたからダメになった。
アメリカはベンチャー企業天国ではない
・開業率はこの30年で半減している。
・1990年代は、IT革命にも関わらず30歳以下の起業家の比率は低下ないし停滞し、特に2010年以降は激減している。
・先進国より途上国の方が起業家率が高い。ペルー、ウガンダ、エクアドル、ヴェネズエラは米国の二倍以上。日本の開業率も高度成長期には現在よりもはるかに高かった。
・アメリカの典型的なベンチャーはイノベーティブなハイテクではなく、パフォーマンスも悪い。
日本は1990年代以降、アメリカを模範としたコーポレートガバナンス改革を続けた結果、米国経済と同様に長期停滞に陥っている。
・日本のコーポレートガバナンス改革は、アメリカのビジネススクールで洗脳された官僚達が主導している。
・日本のコーポレートガバナンス改革は、金融化やグローバル化を推進し、日本企業を短期主義的にする結果を招いている。
・コーポレートガバナンス改革によって、日本はイノベーションが起きない国へと転落する。