あらすじ
頬に傷痕のあるお吉は押しも押されぬお狂言師。お小人目付けの日向新吾と互いに想い合う仲だが、日向には縁談が持ち上がる。弘化五年、赤坂御門外での事件から、将軍の寵愛をほしいままにしているお琴の様方をめぐる、女子同士の色模様という、面妖な企てが浮かび上がってくる。はたしてお吉の想いは届くのか、そして大奥の謀議は明かされるのか。文字通り我が身を削って書き継いだ著者渾身の遺作、抜群の面白さ。
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カナリア恋唄 お狂言師歌吉うきよ暦
by 杉本章子、深井国
「同じ組内と申すが、話をおまえといっしょにしてはならぬ。おまえはお扶持の多い家へ嫁ぎ、由乃殿はその逆なのじゃ。そこのところを忘れるな」
縁談の相手は、お徒衆 大竹 理 左衛門 の次女由乃で、今年二十四という。だいぶ 薹 が立っているのは、二十で嫁ぐはずだった 許婚 が婚礼の半年前に急死したからだそうだ。
許婚の死に 様 は、由乃にも影を落とした。以来かんばしい縁談もなく、たまに良縁と思われる話がきても、後妻の口だったり、相手が四十男だったりした。 由乃の下には妹がいて、その娘も 嫁 けなければならず、親は焦りに焦っていたところへ、中田からそれとなく 下話 がきたのである。
「まさ江に先立たれて、つくづく思うた。 夫婦 というのはさようさ、相棒のようなものじゃ。相棒なのだからして新吾、あうんの呼吸が合わねばならぬ。まさ江は、わしのよき相棒であった」 「…………」 「そしてな、この齢になってみると人の一生というやつは、まことに 須臾 の間だとわかるのだ。さればこそ、気に染まぬ女子と 組 になるより、想い人と組になれと申しておる」 「まことにありがたく、また、もったいなき仰せなれど、わたくしには想い人などおりませぬ」
「どうだ、お父上は喜んでおられよう。祝言のときしかお目にかかっておらぬが、由乃殿はしとやかで控え目なおかたのようだ。男所帯返上で、家内は明るうなったであろう」
まさか日向は、自分しか知らぬはずの由乃の娘時分の不始末を、父喜兵衛がとっくに知っていて、胸にたたんでいるとはゆめ思わない。
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あと一話、最終話を残して逝ってしまわれたのか。「といちはいち」の事件はどう決着するつもりだったのだろう。それよりも日向と歌吉にはインタビューでの予告通り、悲しい結末が用意されていたのか。作中人物の命は著者の思いのままながら、著者自らの命はいかんともし難い。一度きり会話させただいた杉本さんは才色兼備、忘れられぬ言葉もいただき、すっかり魅せられた。まさに一期一会なれども、遺された作品とは重ねてお付き合いしていきたい。
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お狂言師歌吉うきよ暦 シリーズ4 にして最終編
歌吉こと、お吉は、三代目水木歌仙の弟子で、お狂言師となった後も、厳しく仕込まれている。
お吉には、裏の顔として、お小人目付の日向新吾と岡本才次郎の手駒として、様々な事件に関わっていた。
手駒となり、6年。
お吉と、日向は、想い想われの仲になったが、
お吉は、相弟子の嫉妬から、一生治らない傷を顔に受けた過去がある。
「そんなお吉の支えとなっている踊りを捨て、気を張り詰めどおしの暮らしの中に引き込みたくない」と、日向は、姉の勧める娘と、祝言を挙げた。
稽古にも身が入らないお吉。
それでも、自分を励まし、お狂言師歌吉として、立ち上がる覚悟をする。
心を隠し、手駒として働くお吉。
一方、日向の新妻に、芳しくない過去があり、日々の行いに、父親も手を焼く有様。
ようやく、日向は、妻と離縁する決心をし、父親に、仕事が一段落したら、お吉と会って欲しいと言う。
それを聞いて、父親「合縁奇縁、末永く添い遂げてくれよ」と言う。
後一冊で、最終編というところで、作者の杉本章子氏は、乳がんにより、逝去されたとのこと。
お吉と日向のその後は、どうなるのか。
読んでみたかったが、どうやら、杉本章子氏は、二人とも、死ぬ構成を作っていたとの事。
二人が死んでしまうと、家族や周囲の人々の悲しみは、いかばかりか。でも、残された者は生きていかねばならない。その事を作者は、最後に改めて伝えたかったのだと確信している。と細谷正充氏は、解説で述べている。
が、それでも、ワタシは、二人には、末永く添い遂げる、幸せな結末を迎えて欲しい。
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(ネタバレ)
「お狂言師歌吉うきよ暦」シリーズ。
まさかの、遺作とはな。。。未完のまま、おわってしまうのか、、
この事件も、解決しないんだな。杉本さんの頭のなかには、あったようだけれど、でも、重い結末が予定されていたようだ。。
いっときでも、日向とお吉が堂々と、陽のもとで寄り添って暮らせる日がみたかったな。目前だったのにな。
歌仙まで手駒に加わって、これから面白くなりそうだったのになあ。煮え切らない身勝手な日向にイラっとしながらも、なにげに好きだったのになあこの物語。ざんねん。
どなたか、ファンが予想の最終回を仕上げてくれないかなあ。同人誌ででも読みたい。この、芸事の世界の女性たちの台詞まわしが粋で好きだったのになあ。身のこなしを想像するのも楽しかった。ざんねん。こういうことがあるから、シリーズものって終わりが難しいんだろうね。かわせみも、途中のままにならないでほしい。。。。