【感想・ネタバレ】ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒のレビュー

あらすじ

三島は時代のいかがわしさに吐き気を覚えていた。なぜ今の日本はおかしくなったのか? なぜ世の中バカばかりなのか? そういう疑問を持ったとき、三島が残した厖大な量の評論は非常に参考になります。だから、三島の言葉を振り返りながら、今の世の中、ひいてはわれわれの思考の土壌について考えてみようというのが本書の趣旨です。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

日本とは何だ、日本人とは日本人の国民性とは。それについてはっきりと説明する事は困難だ。海外からの流入者も増え始め、日本という定められた領域内に生活する事だとはまるっきり言い難い時代になった。日本人の両親から生まれたら日本人かと言えば、それも違う気がする。果たして何をもって日本人とするか、はっきりした定義が揺らいできた時代にあると思う。一昔前なら海に阻まれて、外国から人が入ってくる事は困難だったが、アメリカのペリー来航に始まり(実際はそれより遥か以前から丸太船で渡ってきた人々も沢山いたが)、開国を迫られた以降は、移動技術の進歩もあり、船だろうが飛行機だろうが凡ゆる手段で日本と海外が交わる機会が増えた。そして現代はグローバリゼーションという言葉が古臭く感じる程に世界は繋がり身近になった。近年は海外からの観光を呼び込み、観光立国を目指した日本では、日本人が、自分たちには泊まれない様な高額なホテル料金すらも当たり前に感じる程、外国人が溢れかえる。そして円安を機に日本の土地を買い漁る中国人。日本は今や誰のための日本であるかも曖昧になってしまった様だ。こんな世の中では日本人のアイデンティティや存在をはっきり定義する事も難しくなる日が来るのではないかと恐怖を覚える。何故なら既に精神的にはインターネットの影響を大きく受けた若年層にとっては、天皇制の意味もそれ自体が何であるかも知らなくても問題なく生きていける時代になっている。驚きは太平洋戦争を歴史で覚える単語程度に中身を知らない学生の存在だ。
本書は三島由紀夫が伝えたかった言葉を中心に、それを現代日本への警告と受け止め、日本人が失いかけたアイデンティティを教えるに止まらず、警戒すべき日本人とその言動について述べていく。筆者はズバズバと物言う適菜収氏だ。よって遠慮なく実名を挙げられた著名人の数々。読者の中にはそれら人々に対して好意的な受け止め方をしていた人もいるかもしれない(私も肯定的に受け止めている人がいた)。そうした批判を何故筆者がするのか、その言動や行為を見ていきながら、本来あるべき言葉の意味や必要な行動を理解していけるような内容となっている。中には途中で懐疑的になる人もいるかもしれないが、それこそ筆者の思う壺。筆者曰くB層に落ちるか、そこから抜け出すために自分の頭で考えるか。本書の読みどころはそこではないかと思う。感情的にならずに、いやそうした状況でも尚冷静に自分の頭で考える。他者に容易に騙され流されて大衆の一部と化すか、そこから一歩も二歩も抜け出して意見できるかが本書の面白さの一つではないかと感じた。
保守主義という言葉と共に語られていく天才三島由紀夫の言葉と生き方に共感を持つか、それともただ古いと断定してしまうのか。そもそもの「保守主義」という言葉自体を正しく理解できているか自信のない方は、是非手に取ってみては如何だろうか。言葉は美しくその真の意味を知ってこそ、美しい響きのまま自身の口で奏でる事ができる。三島が愛した日本と失ってはならないものを一緒に探す一冊。

0
2025年06月02日

Posted by ブクログ

概ね首肯できる。ただし、移民のところは、日本民族の純潔性を言っているようで、どうかなと思う。日本という国が成り立っていくにはどうするかという視点は必要だと思うし、その中で移民の問題も避けられないのではないか。

0
2016年03月03日

Posted by ブクログ

三島由紀夫没後45年にあたるということで、注目された三島特集で目にとまった。帯にB層が図解されており、耳新しい言葉だったが、意外にも腑に落ちるところがあって、読んでみた。内容には比較的共感を覚える。民主主義とは、自由とは、平等とは。これまで金科玉条のように、正しいと疑わなかった言葉を、少し下がって考えてみるきっかけを本著は十分に与えてくれる。随所に、三島の著作からの引用が紹介されるのも面白い。例えば、我々は遠い祖先から引き継いできた文化の集積の最後の成果である、というところ。自分の背中に日本を背負い、日本の歴史と文化と伝統の全てを背負っているのだ、という気概。これこそが、本日の行動の本となる。また、善からは善のみが、悪からは悪からが生まれるというのは、人間の行為にとって決して真実ではない。全く同感である。

0
2016年01月03日

Posted by ブクログ

三島由紀夫というより、保守について書かれている本。リアルタイムで『維新』のゴタゴタを見ているためか第四章がまさに同意。

0
2015年12月10日

Posted by ブクログ

平和ボケで思考停止した脳に一撃をくれる本。
SNSが浸透して広告が衰退しているのと同様に、政治も政治家主導から国民主導になる時代がきている。今はまだ草茅危言の状態だけど。恐怖心を煽る情報操作は若い世代には通じない。踊らされてるのはミーハーな大人たちってことだろうか。
いずれにせよ、自分たちで政治を考える時代がきている。

0
2015年12月05日

Posted by ブクログ

三島由紀夫は表現者であり小説家、かつ顔も名前も売れていた。その彼が、ひっそり死なず、大衆に晒して割腹し、そこに主張を込めたのだから、その死はパフォーマンス以外の何物でもない。時代の変化に命を賭けたなら結果を見ずには無責任。諦めたという事なら、自らが忌避した小説家の自死と何が違うか。

その三島が憂いた日本の未来に関し、保守の定義に囚われて、結局、大衆を揶揄するだけで、その構造的変革に踏み込めないならば、B層以下だろう。今更、三島由紀夫を祭り上げた所でA層にもC層にも届かない。故に、放言は空中浮遊し虚しく響くだけで、ならばB層を使いこなす活動家の方がマシではないかと。自らの死を高く見積もっていたか、単に一人の生き様だったか。

同時代人が嫌いで、反時代人が好きだと三島由紀夫。時代に流されるだけの大衆が数の論理で過ちを犯すのは許せないが、自らは衆目に置かれて主張をしたい。愚行権は認めながら衆愚政治を許さぬ制度設計のように、非エリート層を諦めた上で、一体何を覚醒させようとしたのか。男一世一代の啖呵を切るも行動変容させるはずの決定打はミスり、自衛隊のガヤによってかき消され、言葉の音量が小さく聞こえやしない。そんな実務的なミスに命をかけて、何が残るというのか。

適菜は人間理性に懐疑的であるのが保守だと言う。いつからの保守、何に対する保守、いつまでの保守なのか。捉え方が変わるならば一意の定義は無駄だ。そこに時間をかけて意味があるか。逆バーナム効果のように、誰でも的を外し、安全圏から他者批判だけできるようなポジショントークが可能だ。批評家の話法に過ぎない気がした。卑怯だし、合理性もなく、無意味である。

0
2023年10月07日

mac

ネタバレ 購入済み

弁えるべきは

一部ご紹介します。
・人間の真心がそのまま相手に通じると思うべきではない。人の心は、どんなに親しい友人の間柄でも、長年の付き合いの仲でも、お互いに解らない部分を残しているものだから。言葉はそれを繋ぐ橋。橋を使えるようにする設備が作法。躾とは、身を美しくするものなのだ。
・青年は、人間性の恐ろしさを知らない。市民の自覚とは、人間性への恐怖から始まる。互いに互いの人間性の怖さを悟り、煩雑な手続きで互いの手を縛り合う。
・革命とは、現在より未来を優先させる考え方。未来社会の無謬性を信じれば、行き着く先は「欲しがりません勝つまでは」だ。
・どんな自由な世界が来ても、たちまち人はそれに飽きて、階段をこしらえ、自分が先に登り、人を後から登らせ、自分の目に映る景色が下から登ってくる人の見る景色よりも幾らかでも広いことを証明したくなるに違いない。われわれは、その階段をいかに広くしても階段を欲しいという人の欲求を無くすまでには至らないだろう。
・伝統や慣習、過去の事例を重視するのは、理性の暴走を防ぐため。そして未来へ繋ぐため。
だからこそ接点である現実を重視する。
・家族を始めとする中間組織を重視するのは、理性の暴走を抑えるための緩衝材を必要とするからだ。
・現実には、漸進主義の採用が望ましい。慎重な改善を求め、実行することだ。
・動物の行動は合理的だが、人間の行動は合理的ではない。人間の行動には、情念や慣習が大きく関与しているからだ。
・正常な思考を維持すれば、狂った社会では狂人扱いされる。だからこそ、「理性」「抽象的概念」「イデオロギー」を疑う必要があるのだ。

0
2022年09月30日

Posted by ブクログ

B層とは、郵政選挙の際に自民党が広告会社に作成させた企画書において、構造改革への支持とIQの高さの2軸で分け「構造改革に肯定的でIQが低い層」「具体的なことはわからないが、小泉のキャラクターを支持する層」と規定したもの。郵政選挙では、「改革なくして成長なし」「聖域なき構造改革」といったワンフレーズ・ポリティクスが集中的にぶつけられ、「郵政民営化に賛成か反対か」「改革派か抵抗勢力か」と単純化することにより、B層の票を集めた。これは、ナチスなどの全体主義政権下で確立された手法でもある。

ナチスは、ふわっとした民意にうまく乗り、既得権益を持つ人間という敵をでっち上げ、大衆のルサンチマンに火をつけ、社会に蔓延する悪意を吸収することにより拡大した。全体主義者の手口は、社会不安を煽り、弱者の情念を集約することで権力を一元化する。橋下はナチスより純粋な全体主義。大阪都構想の住民投票が通れば、「特別区設置協定書」に記載されていない事項の多くは市長により決定されることになっていた。個人が極端な形で分断されてしまった現代社会では、常識が消滅し、社会に偏在するあくが極端な形でつながってしまう。それが「橋下」という現象だったと著者は分析する。

ハンナ・アレントは「革命について」で、フランス革命を分析し、同情や平等の概念がテロリズムに行き着く構造を明かした。また、「民主主義と独裁の親近性は明確に示されていた」と指摘している。

ニーチェの「神は死んだ」は、世の中の人間は神は死んだと思っているかもしれないが、唯一神教の神は近代イデオロギーに化けて、我々を支配しているということ。ニーチェは、宗教一般を否定したわけではなく、キリスト教の根底にある反人間的なもの、真理が隠されており、真理を代弁する僧侶階級が権力を握ることを批判した。

0
2018年10月31日

Posted by ブクログ

「保守」と現在の日本の自称「保守派」は違うというところからはじまり、三島由紀夫の著作を援用しつつ、著者一流のB層批判、橋下元市長批判等が展開されます。

0
2016年10月03日

Posted by ブクログ

近代大衆社会がどのような形で暴走し、どのような形で行き詰るか、その兆候をすばやく察知し、我が国の現状に警告を発したのが、作家の三島由紀夫。三島の言葉を振り返りながら、今の世の中の思考の土壌について考察する。保守とは本来常識人のこと。三島は保守の立場で議会主義を守ろうとした。三島が最大限に警戒したのが全体主義。右と左から発生する全体主義に警鐘を鳴らした。保守とは人間理性に懐疑的であるということ。抽象的なものを警戒し現実に立脚する。保守主義にイデオロギーはない。保守主義の要諦が実はここにある。

0
2016年02月27日

Posted by ブクログ

作家、哲学者の適菜 収 氏の著書です。

三島由紀夫の言葉を引用しながら、著者の考える「保守」を論じる内容となっています。

本書では冒頭に「保守」の定義、本質として「人間理性に懐疑的である」と述べられていますが、この定義はよく考えられていると思います。腑に落ちました。
そう考えると世の中の保守派はほとんど真っ当ではないです。

また、三島が守ろうとしたものは「言葉」であり、「言葉を守ることが国を守る」ことに繋がるということも書かれています。

私自身、この「言葉」というのもを使う力こそが、政治家の力量と考えています。立法府は法律を作るのが仕事です。法律は言葉での表現ですから。

本書では、安倍総理や大阪維新の会の橋下氏への批判に多くのページがさかれていますが、彼らの「言葉」が乱れていると感じる場面は多々あります。

私自身はある部分では「保守」であり、ある部分では「改革」であり、著者の意見に賛同できる部分もあれば、そうでない部分もあります。

この本は、著者の「保守」視点で一貫性を持って書かれていますので、普段あまり異なった意見を目にする機会が少ない方には視点を広げるよいきっかけとなるのではないでしょうか。

0
2015年12月12日

「社会・政治」ランキング