あらすじ
一号機が爆発した。原発事故の模様をテレビで見ていた木島雄介は、これから何かが変わると確信する。だが待っていたのは何も変わらない毎日と、除染作業員、原発避難民たちが街に住み始めたことによる苛立ちだった。六年後、雄介は友人の誘いで除染作業員となることを決心。しかしそこで動く大金を目にし、いつしか雄介は……。満場一致にて受賞に至った第一回大藪春彦新人賞受賞作。
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Posted by ブクログ
フィクション、ノンフィクションの点はおいておいても凄まじい物語だった。新しい視点や価値観を教えて貰えるような。単純な救いでは終わらないのも良かった。テーマは重いのにさくさく読めた。この作者さんの別の本も読みたい。
Posted by ブクログ
第1回大藪春彦新人賞
金で解決する考え方が人を狂わせて不幸にする。
変わってしまった純也が痛々しかった。
震災の補償金を受け取った側にも苦しむ人と、潤って避難民になる人がいて読んでいて苦しかった。
さっさと私を助けなさいよ!とマキが叫ぶ終わり方には放心。
他の方のレビューを読んで、私は傷ついているから助けられるべきと他者を縛る側にマキが転身することで、再生に向かうことの難しさを表してると知り、なるほどと思った。
Posted by ブクログ
印象的な一文から始まる。
面白そう!という気持ちのまま一気に読めた。
除染ビジネスの裏側が生々しく描かれており、実際の原発事故でもこうした現実があったのではないかと思うリアルさがあった。
読後に作者が除染作業員だったと知り、納得。
ラストは作品の世界観には合っていたけれど、訳ありキャバ嬢の苦悩が他のリアルさに比べてあまり伝わらずだったのが少しざんねん。
Posted by ブクログ
オーディブルで。福島の原発と除染に関連した話。
除染作業員の世界、金の流れ、震災後の歪み、そういう大きな圧には本物の迫力がある。
違和感があったのは、出来事そのものではなく、それに対する人物の心の動き方だ。人を殺すこと、友人が死ぬこと、大金を手にすること、自分が加害者になること、自分が被害者になること。それぞれの場面で、登場人物たちはちゃんと悩み、苦しんでいる。罪悪感も喪失感も書かれている。けれど、その苦しみがリアルに迫ってくるというより、「苦しんだ」と書かれているように感じた。感情は説明され、出来事は興味深いが、読者としてその苦しみの中に入る感じは薄かった。
特にマキという女性人物にはかなり違和感があった。マキはキャバ嬢で、語尾に「だっちゃ」とつける。これはぶりっ子ではなく石巻の訛りだという。東北随一の大学出身で、社会心理学を専攻していた。東日本大震災で家族三人を失い、遺体は見つからないまま弔慰金を申請した。そのことに罪悪感を抱いている。さらに、同じような経験をした人のカウンセリングをしており、相手が癒されるなら肉体関係を持つこともある。それによって自分の存在価値を確認しているが、その経験が彼女を病ませ、左腕には無数の自傷痕がある。
この人物造形は、「男性が望む女性像」が盛られすぎているように感じた。
狙ったのではない純粋な方言としての「だっちゃ」。東北随一の大学出身という頭の良さ。しかし現職はキャバ嬢で、知性そのものの描写は薄い。無償でカウンセリングを行う聖母性。カウンセリング相手に身体を許す女神性。心を病み、自傷痕があるという脆弱性とつけ入りやすさ。休日にもかかわらず白の上下の下着。そしてラストで「助けなさいよ」と言いながら服を脱ぐ。
これらが重なると、人物としてのマキというより、男性主人公の救済や欲望のために配置された「傷ついた女」のパッケージに見えてしまう。傷、知性、方言、性、聖母性、脆さ、白い下着。意味が盛られすぎている。
ラストの「さっさと助けなさいよ」は良かった。ここを、弱者権力への転換として読むなら面白い。つまり、マキがただ救われるべき女なのではなく、「私は傷ついている。だからあなたは私を助ける義務がある」と他者を縛る側に回る瞬間として読めるなら、再生に向かうことの難しさを突きつける、恐怖を伴った良いラストだと思う。
主人公には金の力に抗えず沈んでいく段があるので、マキは「弱さ」や「傷ついた立場」が持つ権力に沈んでいく人物として描けたのではないか。主人公は金に溺れる。マキは人を救いたいと思いながら、弱者であること、救われるべき存在であること、相手に罪悪感を抱かせることの心地よさに溺れていく。そうであれば、金と傷という二種類の権力が対比され、物語としてかなり面白くなったのではと思う。
「助けなさいよ」は、その可能性を持っている。しかし、そこに至るまでのマキの描写が、男性に都合のよい傷ついた女性像に寄りすぎているため、主体性の爆発というより唐突な演出に見えてしまった。