あらすじ
十代の娘の「なぜ、世の中にはこんなに格差があるの?」というシンプルな質問をきっかけに、元ギリシャ財務大臣の父が経済の仕組みを語る。「宗教」や「文学」「SF映画」など多彩な切り口で、1万年以上の歴史を一気に見通し、「農業の発明」や「産業革命」から「仮想通貨」「AI革命」までその本質を鮮やかに説く。
...続きを読む本書は、経済危機に陥ったギリシャで財務大臣も務めた経済学者である父が、10代の娘に話すようなつもりで「経済」について書いた本です。専門用語(例えば「資本主義」とか!)を使わずに、今、世界で問題になっている「格差」や「金融市場」、ひいては「民主主義」なども含めて、経済というものをシンプルかつわかりやすい言葉で説明してくれます。しかも、文中では文学や映画、そしてギリシャ神話などを引いた説明が多くなされますし、娘に向けて書いたとあっても子どもに話しかけるような文体ではないので、「なるほど」と思わされ続けてあっという間に読み終わってしまいました。そして、作者は文中で娘に、つまり読者にいろいろな情報を与え続けますが、本当に作者がしたいことは読者に考え続けさせることなのだろうと感じました。経済について、表面的なことを知るだけではなく、自分で考えられるようになりたい方におすすめしたい良書です。
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Posted by ブクログ
格差はどこから生まれるのか。なぜイギリス人がアボリジニを支配して、逆にアボリジニがイギリスを侵略することが起きなかったのか。本書はその問いから始まる。
人口の増加を狩猟で支えうことが出来なくなった社会は強制的に農耕へ移行するしかなくなり、農耕が余剰を生み出し、農耕が文字を、官僚制度を、軍隊を、権力を生み出したという、すべては余剰に突き動かされていた。オーストラリアはこれに従えば農地を耕さなくても生活の営みが可能だった。だから余剰を記録する文字も生まれなかった。
続いて市場社会の誕生の話に移り、かつては商品ではなかった、「労働力」、「土地」が囲い込みを通じて、かつて領主との使役関係にあった農奴は自由を得る代わりに土地から追い出され、唯一持つ労働力を市場を通じて取引をせざるを得なくなった流れが説明される。
不況の最中にむしろ人間と機械のうち人間の方が食べていかなければならないからこそ、労働力として安上がりになり、機械に奪われた仕事を逆に人間の雇用が取り戻すというのは、逆説的なようでいて考えていなかった視点だし、ラッダイト運動が目指したのは機械に奪われた仕事を取り戻すことではなく、機械を一部の人間が支配していたことに対する反抗であったことは知らなかった。