あらすじ
死者を蘇らせる術で発展した亀珈(かめのかみかざり)王国。都で家庭教師を営む青年儒艮は、ある晩何者かに攫われ、光が一切入らない、盲獄と呼ばれる牢で目を覚ます。そこに集められたのは、儒艮の他に子ども、青年、老人、壮年の男性、中年の婦人の五人。彼らを集めたのは死霊術士の長である、名付け師・縫だった。縫は一同に、儒艮に従い、言葉にされない名付け師の望みを叶えるように言い渡す。儒艮は名付け師の後継者問題が絡むと推理、死霊術の祭典、幽冥祭で事件が起きると予測する。顔を見せない縫の真の目的は。第3回創元ファンタジイ新人賞佳作入選作。/第3回創元ファンタジイ新人賞選評=井辻朱美、乾石智子、三村美衣
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Posted by ブクログ
60ページほど読んだところで続編の購入を決めた。この世界観を1冊だけで終わらせたくない、もっと楽しみたいと思った作品。
ホラー作品を読み慣れているせいか、言うほどグロテスクには感じない。これでそうなら三津田の作品なんかもグロテスクになってしまう。
描写が上手く、映像が思い浮かぶように感じる箇所が多々あった。選評にある「映像的」はこのことか。「見える文章」は好きなので早い段階で続編購入を決めたのもそれが理由かもしれない。最序盤での盲獄での描写から、"設定だけ"の作品では無いと感じた。グロテスクさも、この描画の上手さ故に絵として浮かんでしまうから、ということもあるか。
途中で巻末の用語集の存在に気づいた。幽鬼や黒髪の大戦などは中盤、後半にならないと説明がでてこないので用語集はよかった。
全体的には「哀しみ」が随所にちりばめられ、エンディングでもすべてが良い方向へ行くわけでは無い。でも後味は悪くない。哀しみや後悔を背負いながらなんだかんだと生きていくという物語である。主要な登場人物は最後のどんでん返しもあって良い方向へ向かう。報われないのは第二皇子の影武者だけ(ぶしゅうもか)か。
死霊術を中心に据える以上、死から離れることは出来ず、死には悲しみがつきまとうのだから、物語が寂しげな、湿った雰囲気をまとうのは致し方ないか。
とはいえ、ユユの出産や彼女の母親としての強さ、出産後の朔屋の華やいだ雰囲気、街の喧騒や祭りのウキウキした空気、細かい部分では序盤の象牙が声を掛けられる食堂内など、場面場面で"生"を感じる活発な、楽しげな描写がなされており、読んでいて暗い気持ちになるような所はない。
「金魚小僧のうわごとの中の水車はそういう意味だったか」「儒艮の能力は自身の聡明さとご先祖の知恵を合わせたからか・・、そういえば序盤の青囁洞でのシーンは先客がいて儒艮は内部に入らなかったというトリックがあった」「何気なく出てきたギミックの龍魚と界人の関係」「儒艮の足を世界観の中で動かす方法」など、種明かしや読み手をそっとミスリードする手法も終盤での面白さにつながった。
この面白さが処女作(= 著者のこれまでの人生をかけた大作)だからなのか、今後も繋がっていくのか、続編以外の作品も期待して待ちたい。