あらすじ
吉田修一からの挑戦状。ノンストップ長篇!
ビール会社課長、明良。都議会議員の妻、篤子。TV報道ディレクター、謙一郎。
それぞれの悩みや秘密を抱えながら、2014年の東京で暮らす3人が人生の中で下した小さな決断が驚愕のラストへとつながる――
「週刊文春」連載時から話題沸騰。
吉田修一史上、最も熱い議論を呼んだ意欲作を文庫化。
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Posted by ブクログ
まさに橋を渡るような読書体験だった。春、夏、秋と橋を渡った先には奇妙な冬の景色がある。それは虚構に違いは無いが、我々自身の選択によってはある意味有り得る未来図とも言える。
初めの三篇は極平凡な純文学的作品に見える。iPS細胞、東京都議会野次問題、雨傘革命、マララ・ユスフザイ、東京オリンピック等等、当時としてはタイムリーだったのだろう、リアルと地続きの距離感と世界観で物語は展開する。日常に潜む言語化し難いモヤモヤを抉りながら。人間ってこういうところあるよね、みたいな。それぞれの掌編の繋がりは稀薄で、態々一つの作品としてやる意味あるのかな、なんて考えたけれど……。
最終章「そして、冬」に於いて物語は一気に七十年後の未来へと飛躍する。そこはユートピアともディストピアともつかない「不感の湯」のような妙な心地のする世界だった。まるで承前三篇の答え合わせのようだが、果たして正しく解答は導き出せたと言えるだろうか。
文明は発達し、寒暄を忘れ、もはや不感症のようになってしまった冬を抜けると、再び祝福の春が巡ってくる。
善人なおもて往生を遂ぐ。況や悪人をや。独り善がりの正義は時として取り返しのつかない過ちを犯す。然しそんな過ちを回避する為には、自分の信じる正しさを貫き、時に世界すら敵に回して戦う勇気が必要にもなる。正義とは利己や保身ではなく、利他と公共の為に戦う力だ。
而して戦う為に必要な武器は殺意でもミサイルでもない。一冊の本が、或いは一本のペンがあればそれだけで人間は戦える。そうして戦う人は皆、子供も教師も関係無く、一人の気高い兵士だ。
本書を読み了え、今一度橋を渡り、虚構から現実へと帰還を果たせば、橋の向こうには違う景色が見えていることだろう。
Posted by ブクログ
一見バラバラの3人のそれぞれの人生が、最終章で集結する。
コロナ前の未来予想図。
未来は現在より良くも悪くもなっていなかった、という言葉が印象的。
コロナ後、どんな未来予想図を描き出すのか…
Posted by ブクログ
第3章の最後から「えっ!?」ってなって、第4章は「え、えぇっ!?そうくるか!?」って感じ。
吉田修一の価値観は個人的にとてもしっくりくる。
Posted by ブクログ
最初は、なんとなく後味の悪い短編が続いてるだけのように思えて、どこで繋がるんだろうと思っていたら、ラストで急にSFになってびっくりした!
ips細胞の話や議員のヤジなど、実際に起こったニュースが多く取り上げられていたのは、文春の連載だったからなのか?
自分自身いちばん怖かったのは、ヤジを聞いた人がどこにもいない、聞いたと名乗り出る者がいないというシーン。
ここまでのニュースにはならなくとも、絶対に実際起こっているのに、全員が見て見ぬ振りをすることでなかったことになること、それを恐怖と思わない人が確かに存在することが恐ろしかった。
ラストの章で、若干頭が混乱してしまった部分はあるけど、未来の日本や技術の発達にあまりポジティブなイメージを持っていなかったわたしにとっては、少し救われたラストだった。