あらすじ
或る家族の半世紀を描いた、愛をめぐる8つの物語。
小料理屋の女主人・百々子(79歳)と、若いころから女が切れない奇妙な魅力をもった夫・拓人(72歳)。半世紀連れ添った男を、ある日水で濡らしたタオルを顔にかぶせ、その上に枕をおき全体重で押さえ、殺した。
急きょ集まった三人の子供たちに向かって「あんたたち、お昼食べていくんでしょう」と、百々子は米をとぎはじめる。
「ママはいいわよ。べつに、刑務所に入ったって」警察に連絡するしないでもめている三人に、のんびりした口調で話す。
死体処理の相談をする姉たちは弟・創太にブルーシートを買ってくるよう命じるが、創太の足は父親との思い出の店・小鳥屋へ向いていた――
表題作ほか、「五、六回」「ミック・ジャガーごっこ」「コネティカットの分譲霊園」「恥」「はやくうちに帰りたい」「自転車」「縦覧謝絶」の全八篇。
解説:池上冬樹
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Posted by ブクログ
おもしろかった。だらしない男の人書かせたらピカイチだなこの人。この小説は家族みんなおかしいけど。
次女が娘の恋人一家と食事するシーンで、すごく洒落てる、と思いながら対抗心を燃やすあたりの心理がわかりすぎて笑えた。
結局、百々子は教え子と再会した旦那に今までの数々の女遊びとは違う許せない何かを感じたのか、あっけらかんとした始まりとは打って変わってラストは狂気と正気に挟まれて一気に持っていかれた。
トランクを見つめる百々子の表情、どんな女優ができるかとつい想像してしまった。大竹しのぶかな。
Posted by ブクログ
この作品はまず、79歳の百々子が夫の拓人71歳を殺したことを家族に知らせて、息子の創太と娘の時子、文子がどうやってそれを隠そうかとするところから始まります。
夫は女性に若いころからだらしなく、妻の百々子は、何故今頃になってという感すらありました。
井上荒野さんの作品のレビューに、よく「白い方の荒野さん」とか「黒い方の荒野さん」とかいう言い方をされていらっしゃる方がいらっしゃいますが、その言い方で言うとこの作品は「真っ黒」だと思います。
こんな気持ちの悪い家族の関係の家族。
こんな家族でよく子供がぐれたりしなかったと思うほど、一致団結しています。
なんでこんな拓人のような男性に女性が多いのかもわからない。それぞれの女性に拓人に魅かれる理由は描かれてはいますが、気持ちが悪いと思いました。
当の正妻の百々子でさえ結婚のきっかけは、当時、高校の教師だった百々子が、女生徒と交際中だった拓人を生徒から略奪したことであり、その後女生徒は、自殺未遂をしています。
それぞれ語りが非常に上手いので、そういう状況ならこんな、男性でも好きになることがあるかもしれないと思わせますが。
でも、家族の団結の固さも恐ろしい。
この親にしてこの子供ありです。
母親が、父親を殺して、でも家族だからかばって、家族だから隠そうと画策します。
この母親も、父親も、子供達には親であり、家族だった。誰もどちらも責めていない。
隠すことに必死です。
最後はどうなることか、はらはらして読みましたが、これは限りなく純文学に近いホラーではないかと思いました。
上手い小説だとは思いますが、気分がよくなる話ではないので、星は減らしました。