あらすじ
慟哭の夜から救済の光さす海へ。
3・11後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作。
ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。
光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。
依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが……。
巻末に著者によるエッセイ、「失われた命への誠実な祈り(文庫版あとがきに代えて)」を収録。
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Posted by ブクログ
東日本大震災から4年半、海底に沈んだままの遺留品を回収するために夜の海に潜る舟作が、遺族の一人、透子と出会い、彼女の元夫の結婚指輪を探そうとする。
海水の放射能汚染のリスクや、夜の海に潜ることのリスク、さらには見つかったら罰せられるかもしれないリスクがあるなか、ダイバーとして協力する舟作も、会費を払ってでもこの取組を進めたいと考える遺族たちも、津波の被害者である。それだけでも理不尽なのに、それぞれが、遺品が見つかってほしい気持ちと、見つかるとその持ち主の死を認めざるを得ないから、出てきてほしくないと思う気持ちの間で揺れている様子には、心を揺さぶられた。
そして、物語自体もよかったが、文庫版あとがきに代えて著者自身が書いている"失われた命への誠実な祈り"を読んだときが一番泣けた。
大切な人が亡くなったり行方不明だったりすると、自分だけが幸せになっていいのかと、自責の念に駆られる人がいるが、「生きている人たちは幸せになっていいし、むしろ、幸せになることこそが、失われた命に向けての、誠実な祈りになる、と思っている」という著者のメッセージに、どれだけの人が救われただろう。
Posted by ブクログ
なんとも天童荒太らしい本。
震災で生き残った人は、贖罪の日々を送るのだ。すべては自然が起こした抗えようのない事実とはいえ、自分を責めるばかり。
主人公は海に潜り続ける。そこで見つけたものは、希望の光であって欲しい。大切な命、生きぬいて。
Posted by ブクログ
遺された者の想いを描いた作品。この震災では多くの人が亡くなったが、その遺族は亡くなった人の数倍おり、死者に対する想いも遺族の数だけある。その想いは遺品に現れるが、それを海から取ってくる者にも当然現れる。
実際にこういうことをやってる人はいそうな気がする…月が明るい日の深夜に一回浜通りの海に行ってみたくなった。
地名は全く出てこないが、実際に被災した街が舞台になっていることがはっきりと分かる。舟作が潜っている海は福島第一原発近辺ということは明らか。私の被災地訪問の記憶からの推測だが、文平が住んでいるのは浪江や富岡で有志の会の会合が行われるホテルはいわきと思われる。そして化石掘りの話から舟作の故郷は歌津なのだろう。(違っていたら恥ずかしい)