【感想・ネタバレ】トラクターの世界史 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たちのレビュー

あらすじ

1892年にアメリカで発明されたトラクターは、直接土を耕す苦役から人類を解放し、穀物の大量生産を可能にした。文明のシンボルともなったトラクターは、アメリカでは量産によって、ソ連・ナチ・ドイツ、中国では国策によって広まり、世界中に普及する。だが、化学肥料の使用、土地の圧縮、多額のローンなど新たな問題を生み出す。本書は、一つの農業用の“機械”が、人類に何をもたらしたのか、日本での特異な発展にも触れながら、農民、国家、社会を通して描く。
●目次
まえがき
第1章 誕 生――二〇世紀初頭、革新主義時代のなかで
1 トラクターとは何か
2 蒸気機関の限界、内燃機関の画期
3 夜明け――J・フローリッチの発明

第2章 トラクター王国アメリカ――量産体制の確立
1 巨人フォードの進出――シェア77%の獲得
2 専業メーカーの逆襲――機能性と安定性の進化
3 農民たちの憧れと憎悪――馬への未練


第3章 革命と戦争の牽引――ソ独英での展開
1 レーニンの空想、スターリンの実行
2 「鉄の馬」の革命――ソ連の農民たちの敵意
3 フォルクストラクター――ナチス・ドイツの構想
4 二つの世界大戦下のトラクター

第4章 冷戦時代の飛躍と限界――各国の諸相
1 市場の飽和と巨大化――斜陽のアメリカ
2 東側諸国での浸透――ソ連、ポーランド、東独、ヴェトナム
3 「鉄牛」の革命――新中国での展開
4 開発のなかのトラクター――イタリア、ガーナ、イラン

第5章 日本のトラクター――後進国から先進国へ
1 黎 明――私営農場での導入、国産化の要請
2 満洲国の「春の夢」
3 歩行型開発の悪戦苦闘――藤井康弘と米原清男
4 機械化・反機械化論争
5 日本企業の席巻――クボタ、ヤンマー、イセキ、三菱農機
終 章 機械が変えた歴史の土壌

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

トラクターの発展史である。そして政治体制やイデオロギーとの関係でトラクター=これからの世の中を変えていく「未来」としてどのように扱われたのかを解説しており、著者の巧みな語り口で読ませていく。めちゃ面白い。
共産主義のプロパガンダや集団農場体制でのトラクターの扱われ方が、共産味がドバドバ出てて笑える。

0
2025年09月18日

Posted by ブクログ

とても面白い。大げさではなく、人類の歴史を根底から変えた技術、トラクター。
馬や牛といった動物を使った耕耘で実現していた有機物の循環を断ち切り、よそから化石燃料を持ち込み、動物は単純に食べ物になった。このことの意味は大きい。
また、農業経営の形態も、家族経営から集団化経営の夢を見させたという点で、大きく変わった。
林業についても、多くの示唆を与えてくれる一冊。

0
2020年04月03日

Posted by ブクログ

世界各国でのトラクターの出現、浸透、定着を通して人類の歴史を語る一冊。果たしてトラクターが農村や国の形をどう変えてきたのか、そして無人トラクターが実用化に近づいている現代、こるから農村や農業がどう変化していくのかを考えるのに適した一冊。専門分野に関わらず農業関係者必読かと思う。

0
2020年03月16日

Posted by ブクログ

著者は農業の歴史の研究者である。そして、本書は農業に革命を起こしたトラクターの歴史について世界史的な視点から書かれた本である。通常、経済史の世界では内燃機関を搭載した輸送機械としての自動車の発明とその大々的な普及については特筆され、輸送革命、交通革命として論じられることが多いが、トラクターは輸送でも交通でもなく、人類史上画期的な農業生産性の向上を伴う「農業革命」の主役であった。またそれは大量の化学肥料投入と対になって進行した(牛馬の糞尿が肥料として使われなくなった)。

資本主義、社会主義などの社会体制を越えてトラクターが及ぼした変革の力はもっともっと考えられるべきテーマであろう。本書はその導きの糸となるものである。

0
2019年02月20日

Posted by ブクログ

トラクターの開発・普及や、世界各地でのトラクターの導入方法などを示しつつ、農業の変化や戦争への転用など、その功罪を展望する一冊。タイトルで技術史の本かと思わせつつも、トラクターを通して農業を見る農業史の本でもあり、文化史の本でもあった。面白い。

日本のトラクター史についても、小岩井牧場や斜里農場で初期に導入していたこと、戦前日本でトラクターが意外と開発されていたこと(普及はしてなかったけど)、岡山や島根がトラクター開発の先進地だったこと、などなど知らないことも多く、読んでて楽しい。

それと、機械化でなく労働集約化の方向に進んだ近世日本の農業を考える上で、機械化による大規模農業の事例は逆にいろいろなヒントを与えてくれそうに思えた。勉強になった。

0
2018年06月16日

Posted by ブクログ

トラクターというマニアックでニッチなテーマを掘り下げ、人類発展の歴史をあぶり出している本。
食料生産力を劇的に向上させたトラクターの功績と、戦争に応用されたとする功罪、そしてトラクターが生んだ今後の課題について言及されています。
全部を通して伝わってくるのが、筆者のトラクターに対する愛です(笑)マニアックながら、ただただ面白い。オススメです◎

0
2017年11月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分と興味の方向性の違う本を人におススメ頂くのが大好きで、本書も人におススメいただいた本です。

「トラクターの世界史」・・・文字通りトラクターの登場の背景から現在、そして未来への流れについて書かれた本です。自分では絶対に手に取らない種類の本ですが、興味深い内容でとても面白かったです。

19世紀半ばごろの欧米で、蒸気機関型のトラクターや脱穀機が生産されはじめましたが、当初は重量が重く、石の橋でも重量に耐えられず崩落事故が多発し、また、爆発事故も多くトラクターは危険なものでした。
それでも人がトラクターを求め続けた理由は、役畜の世話、長時間の農作業などから解放されたかったからです。
実際にトラクターの登場により農作業は効率化され、人は時間的拘束から解放され様々な自由を手にすることが出来ました。

ただし、家畜を手放したせいで肥料を生み出さない、牧草の代わりにガソリンと潤滑油を購入品けれればならない、怪我をしやすい、というリスクが新たに浮上します。
さらに、糞尿が出ないため、農家は化学肥料も購入することになり、空いた時間で別の仕事をして稼がなかればならない羽目に陥ったり、もちろんトラクター導入のためにローンを組み、機械化貧乏の道を歩む農民も多く輩出します。

これだけでもデメリットがかなりあるという印象でしたが、話しはそれだけで終わりません。
ダストボウル(砂の器)という、化学肥料の多投とトラクターの土壌圧縮によって、土壌の団粒構造が失われ、サラサラの砂塵となり(砂漠化)、それが風にあおられて空を覆う。
当時は黒い雲、赤い雪が降り、大きな被害となったそうです。現在でも土壌浸食が起きた土地は手放され、別の土地を求める、という手法は現在に至るまで続けられていて(特にアフリカで)深刻な問題であり続けいるそうです。

現在のトラクターは農業のさらなる合理化が叫ばれる21世紀において、無人化の研究が進んでいるそうです。
人間が機械を通じて自然界や人間界とどう付き合っていくべきか考えされられました。
砂漠化、待ったなしの深刻な状況ですね・・・。

0
2024年03月31日

Posted by ブクログ

トラクターという存在が歴史的にどういう立ち位置だったのか分かる。

「〜の歴史」という本が好きですが、この本もどストライクでした。というか、参考文献がめちゃくちゃ多いです。これほどの量があるのに、新書として読めるという点が筆者の凄まじい努力が伝わります。
トラクターが世界大戦の際に戦車に派生し、世界恐慌の一要因になり、またソ連の集団農業を進めることになる。
個人的に興味深かったことは、戦時中の人々のトラクターの見方である。
男性陣が戦場に駆り出され、農業人口が減ってしまった時に、トラクターが農作業を効率化したこと、また、トラクターという機械に慣れておくことが、戦場での応用に効くと国が考えていたこと。

世界史を一通り学んでも、何か一つのものの視点から見る世界史もすごく違っていて面白い。

次は何の歴史の本を読もうかな。

0
2023年05月21日

Posted by ブクログ

世界の農業従事者憧れトラクター。第一次世界大戦ではトラクターのキャタピラ技術が戦車に転用される悲しい歴史も。ランボルギーニ社がトラクターメーカーでフェラーリの会長に相手にされず対抗心でスポーツカーを作ったのは知っていましたが、米フォード、伊フィアット、仏ルノー、独ポルシェの有力自動車メーカーがトラクターを製造していたのは驚きでした。GPS無人運転技術で人手不足問題は解消できるかは微妙のようです。

0
2020年07月19日

Posted by ブクログ

トラクターなしに現代農業を語れはしないだろうに、それを主題にした本を見つけるのは難しい。
農業革命というと肥料や品種改良ばかりが注目され、失敗というと政策や気候についてのみ語られるが、
農機具の進化が如何な役割を果たしたのかが語られないのは何故だろうか。

本書はその調査対象を各国の農業史や歴史書、企業広告等は当然として、ポーランドの歴史小説からベトナムの短編小説、戦時中のソ連映画、19世紀のドイツの風刺雑誌、1937年公開のナチスと日本の合作映画など、トラクターが作った轍をすべて辿りつくすかのような徹底ぶりを見せる。
この本を抜きにしてトラクターを語ることは出来ないだろう。

19世紀末にアメリカで発明されて以来、ときに激動の歴史の渦に巻き込まれ、ときに新しい時代を後押しし、人々の生活と関わってきた。

多額のローンを組んだのに故障の多さに泣く独立自営農民。
家畜の有意さを信じて疑わない古い農民。
新しい農業共同体を信じる共産政治家。
労働力不足解消のためにトラクターを大量輸入する政府。
慣れない操作に戸惑い事故で死ぬ共同労働者。
生産力向上による農作物価格の下落。
銀行と金融による土地の集積と大規模化と零細農の放逐。
農業集団化のシンボルとしてプロパガンダに用いる共産主義国家。
日本の水田に適合した小型トラクターを開発する発明家。

ほとんどの進歩というものがそうであるように、多くの混乱の果てに必需品となったトラクター。
もはや昨今の自然主義者であろうとも、トラクターを手放せとは言わないだろう。
今の世界人口は完全にトラクターありきの生産力に支えられている。
予想される進化の先には完全無人化があるが、それを超えるようなイノベーションは起こるのだろうか。
まだまだ積み重なるこれからのトラクターの世界史に期待したい。

0
2019年12月25日

Posted by ブクログ

「トラクター」を通して、世界の農業史を振り返る一冊。

農家にとって、トラクターは「一度頼るとそれから離れられない農機具」。それを「政治的に農業と農民を管理する手段(p.84)」として使ったスターリン時代のソ連など、興味深い事例が多く紹介されている一冊。

歴史資料として「トラクターが出てくる小説」を多く取り上げているのも特徴。なかでも秀逸なのが、戦前・戦後のウクライナの政治・農業史を振り返る資料として紹介される「ウクライナ語版トラクター小史(=邦訳『おっぱいとトラクター』)」(p.114-)。舞台となるウクライナでもトラクターを通して農民を管理・抑圧する動きはあったことを示唆しつつ、一方でトラクター技術者としての誇りももつ、という主人公の存在は非常に興味深い。

日本でのトラクター史も紹介はされている。ただ、それは海外(特に米ソ)では主流の大型トラクターの技術を、日本の小規模で粘土質が多い田畑に適した小型トラクター(耕運機)に生かしていくか、という日本技術者の動きに注目されており、日本の農村社会への踏み込みはこの著書の中では限定的。そこはちょっと物足りなかった。

ただ、油断してると「田畑・農村・農民間におけるトラクターの立ち位置」にとらわれがちなトラクターへの視点を、世界史という全体を俯瞰できる視点に引き上げてくれる一冊として、興味深い一冊だった。

0
2019年04月30日

Posted by ブクログ

農業の機械化、中でも今では牽引機として幅広い用途で利用できるトラクターに焦点を当てたもの。

世界的なトラクター開発の流れや歴史だけでなく、日本に置いての歩行型トラクターの開発の話も綴られており、これはトラクター好きは読まないとならないなと思います。

農業の機械化と戦争の関係もあり、機械化による大地への影響もあり、社会主義の裏にもあったトラクターを始め、
果たして農業が機械化されたことで、家畜を利用していた頃と比べて本当に豊かになったのか。
そんなことをふと考えるきっかけになります。

0
2018年10月27日

Posted by ブクログ

タイトルのとおり、トラクターの誕生から、世界各地での発展の仕方などを通じて、現在の様相まで、一本の線で歴史的にとらえられるように書かれています。さすがに1冊で書ききれる容量ではないので、全部という形ではありませんが、トラクターという普段触れることのなかった世界を、歴史的に知ることができて面白く読ませていただきました。
農業をするうえで、土を耕すという作業が大きな比重を占めているということ、それを克服するためのトラクターという機械と改良という人類の戦い、それに対する旧来の人々との闘い。そして最後に、トラクターは人類の夢に向かって着実にそれを実現してきましたが、それで良かったのかという投げかけもされており、考えさせられます。豊かになった一方で失ったものもあるという、他でも見られるジレンマがトラクターを通じて改めて感じられました。
あとがきで、著者が本書にあたっての取材がどれだけ楽しまれていたのかが書かれていて、ここが私にとってはハイライトでした。

0
2018年09月04日

Posted by ブクログ

軍事技術が民生品に転用され、進化するというのと逆で、トラクターが戦車として開発されたという。トラクターの歴史がこんなにも面白いとは!

0
2018年04月21日

Posted by ブクログ

主として農用のトラクター史。かつては蒸気機関を積んだトラクターも存在したが,内燃機関が採用されたことで20世紀に爆発的に普及した。
トラクターと戦車が双生児とも言えること,トラクターと共産主義の関係など,とても興味深い。
トラクターの語源が牽引で,attractとも同根であることから,「さまざまな人間を魅惑してきた」p.4という洒落っ気も好感度高い。

日本のトラクター密度が世界一だというのは,なるほど納得。農地千㌶あたりの乗用型トラクターの台数は,日本は二位のオーストリアを3倍以上引き離して386台とダントツ一位(2000年)。アメリカの40倍近いトラクター密度だとか。
農地面積が狭く集約的な日本農業の特徴が現れている。

長い人類史において,19世紀まで一貫して畜力・人力でやってきた耕耘という重労働。それを20世紀のトラクターは肩代わりしていくのだが,その経緯が東西で対照的すぎてすごい。
アメリカをはじめとする自由主義国家では,自立した農家が新技術に警戒しつつ,家族ぐるみで大事に育ててきた家畜を徐々にトラクターで置き換えていくのに対し,ソ連や中国などの社会主義国家では上からの強制により農業集団化が進められ,トラクター投入を見越して役畜を屠殺したところトラクターが来なかったり故障で動かなかったり。どちらが人間的であったかというのがよく現れていると思う。

「農業は大規模化して効率よく機械化すべし」という合理的であるはずの考え方が,自己目的化して社会を混乱に陥れたという事実。そしてそれを隠蔽する情報統制とプロパガンダが政策の見直しを阻み,同じ失敗を繰り返す。これが構造的な問題であることに気付いても独裁者への諫言には多大なリスクを伴う。まさに暗黒…。

トラクター発祥のアメリカでも新奇なものに対する反発,旧来の習慣への愛着は大きかった。
本書では一例としてスタインベック『怒りの葡萄』の一節を引用しているが,本当に強烈な表現だ→“鋳物工場で勃起した十二の彎曲した鉄の陰茎、歯車によって起こされたオルガスム、規則正しく強姦し、情熱もなしに強姦を続けていく”p.65(大橋健三郎訳)

0
2017年12月20日

Posted by ブクログ

中公らしい一冊だけど、トラクターという題材は戦車との対比と各国での取り上げられ方ではちょっと弱かったように思える。

0
2017年12月07日

Posted by ブクログ

「世界史」「人類の歴史を変えた」となると大仰だな、といった印象だが、内容的にはまちがいではない。
トラクターの歴史から、世界諸国でどのように供給されひとびとに受け入れられてきたか、もしくは拒絶されてきたか、などが書かれている。

私自身はトラクターとは無縁である。親族に建設機械メーカーの人間はいるが、その程度。なので、当然ながら知らないことばかりが載っており、興味深かった。

最初期のトラクターは、労働からの解放もアピールされていたそうである。それまでは男の作業であったが女でも耕すことができる、ということで女性解放的な意味合いさえあったという。しかしそれも、ソ連はいいとしても中国ではうまくいかなかった、など国によるちがいはある。
そのようなディティールも足早ながら描かれており、丁寧な著作。

0
2025年05月04日

Posted by ブクログ

なかなかマニアックな内容。トラクターの技術が戦車に応用されていたとは驚き。日本のトラクター界を牽引してきた方々に西日本出身者が多いのが興味深い。

0
2024年03月26日

Posted by ブクログ

 トラクターという切り口で、世界の農業や政治の変化を語るというのが何と言っても面白い。

 田舎の本家筋が農家だったので、トラクターもあったのを記憶しているが、こういう歴史があったのかと、ちょっと感動。

0
2023年01月16日

Posted by ブクログ

トラクターの誕生、進化がもたらした農業の変遷と功罪を知る。トラクターは農作業の効率を高め、農民の労働負担を減らして余暇を増やす、そんな利点だけを漠然と描いていた。大きな購入経費負担、振動と騒音による身体被害、多発し減らぬ作業事故、排気ガスによる環境汚染、さらに兵器である戦車への技術転用の歴史など、負の側面をも検証する。なお、最後まで叙事的ならぬ叙情的に著されており、日本のトラクターの章ではもう少し技術面の突っ込んだ紹介が欲しい。さて、昨今のIT活用でスマート農業が進むならば、穀物や野菜は産品というより製品って感じで、農業は第一次産業ではなくて第三次産業に分類したくもなる。

0
2018年11月17日

「学術・語学」ランキング