あらすじ
度重なる自然災害によって国土は破壊され、資本主義の行き詰まりにより、国民はもはや経済成長の恩恵を享受できない。何のヴィジョンもない政治家が、己の利益のためだけに結託し、浅薄なナショナリズムを喧伝する――「平らかに成る」からは程遠かった平成を、今上天皇は自らのご意志によって終わらせた。この三〇年間に蔓延した、ニヒリズム、刹那主義という精神的退廃を、日本人は次の時代に乗り越えることができるのか。博覧強記の思想家が、政治・経済・社会・文化を縦横無尽に論じ切った平成論の決定版。
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Posted by ブクログ
片山杜秀氏が相変わらずの切れ味を発揮。
良質で安価な労働力を際限なく求める資本主義と、そこに国民を参加させるための仕掛けとしての民主主義は足並みをそろえてきた。という論。
グローバリズムと国民国家は対立する、という論調を片山氏は採っていない。
でも、もうわが国(というか世界どこでも)、国家は成長の実感も福祉も国民に提供できない。ナショナリズムという幻想で国家を維持する運動が強まるのは必然。
そしてその背景に流れる、絶え間ない天災と虚無感、ネット社会の進行で進む視野の(拡大ではなく)狭窄、AIによる人間労働の代替の予感。
そんな中、国家が壮大なフィクションに向かう今の流れに強い危機感を抱かれているのが、自らの意思で平成を終わらせた今上天皇。
後段のAI論など、著者のほかの本とくらべても随分ある意味情緒的というか、むき出しの危機感。
資本論が読まれなくなって労働者は自分を守るすべを失った、という主張と、民主主義の守り神としての天皇陛下への敬意を矛盾なく両立させる片山氏は、イデオロギーを軽々と乗り越えて、それでも暗い予感に充ちた時代に一筋の光を招き入れているかのようだ。
Posted by ブクログ
【幕引きに思う】数多くの災害等に見舞われ、「平らかに成る」という意味とは異なる様相を見せた感のある平成。波乱に満ちたその時代を精神史という形で描き出した作品です。著者は、音楽評論家としても活躍する片山杜秀。
平成、そしてその後の時代に対してもかなり悲観的な見方になっているのですが、憂世の文章にはなっていない点が見事。明治から昭和にかけての出来事から照り返す形で平成について問い直しをしていますので、広く日本史に興味がある方にもオススメです。
〜バブルの真っ只中に始まった平成は、巨大な天災と人災に同時に襲われ、その傷が癒えぬどころか、その傷から蝕まれて戦後日本のさまざまな分野の貯金を食いつぶしながら足下を危うくして終わろうとしているのではないでしょうか。〜
片山氏の作品は基本的に読んでハズレなし☆5つ
Posted by ブクログ
本書は『平成精神史』という題名だが、内容に関しては「思想史的な観方で考えてみる平成」ということになるのだと思った。
後から振り返って好い時代でも好くない時代でも、とりあえず生きて来た訳だ…過ぎた時代は「こうだったのではないか?」と考える対象になるばかりのことだが、次の時代は未だ何がどうなるか、自身がどうするのか、ハッキリはしていない…本書のような「考える材料」を手に、色々と次の時代に向けて考えてみるべきなのだろう…と思う…