【感想・ネタバレ】戦略と実行 組織的コミュニケーションとは何かのレビュー

あらすじ

マイケル・ポーター『競争の戦略』が刊行されたのは30年以上も昔のことだ。いまや企業にとって戦略は必要不可欠なものとなった。
戦略を持たない企業はないといえる。ところが、一時ブームとなった「ブルーオーシャン戦略」は、他社との差別化の道は容易には見つからない
という厳しい現実を前に、あっという間に廃れてしまった。どの企業も同じような戦略を立て、差別化が困難という状況が続いている。
どの企業も頭のいい人が集まって立派な「成長戦略」を掲げているのに勝者、敗者に分かれるのは、戦略の本質を理解した「実行」が決め手に
なっているから。企業の業績は戦略と実行の掛け算であり、戦略立案=トップの役割、実行=現場の役割といった二分法ではうまくいかない。
戦略とは分析、ロジックであり、実行は組織における人間の気持ち、やる気である。本書は、戦略実行における問題点、失敗事例を挙げながら、
実行の要となる「組織におけるコミュニケーション」を深堀りする。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

題名の通り、「戦略とはなんぞや」という代物ではなくて戦略を「実行すること」に主眼を置いた著書です。

「戦略」が無い企業など聞かないようになった一方で「戦略がうまくいかない」ことばかりを見聞きする昨今の懸念点を出発に、戦略の実行について掘り下げています。

戦略の立案には途方も無い時間と費用をかけるけども、PDCAのDCAは疎かになっているのではないか、つまり、いくら立派な戦略を掲げても、現場からのフィードバックがないことには新たな戦略立案の乱立に終始してしまうだけだということです。

そこでポイントとなるのは「コミュニケーション」だそうです。
飲み会でもない、和気あいあいでもない、"価値観を伝え理解すること"で"意味を共有すること"がコミュニケーションの本質だと。そのためには部門間の対立も不可避である(実行できないことの言い訳にはならない)し、100%合意できなくても「総論賛成、各論反対」を前提に実行されていくしか無い。
あとは各論反対について「合意はしないけれど、納得して全力を尽くす」状態に組織を持っていけるかどうかが重要だそうです。
そのためには、ロジカルで詳細なデータにあふれた人間味のない戦略をただ伝えるだけでは意味がなく、どれだけ情熱や想いを持って、組織に戦略をコミュニケーションしていくかにかかっているということです。

企業においてなぜ戦略が機能しなかったのかという議論をする際には、戦略の中身ばかりに目がいきがちと思いますが、この本では「そもそも伝わっていない、理解されていない」ことに主眼を置いたところに面白さがあります。

また、「コミュニケーション」という言葉も戦略と同様にこれほど企業内で叫ばれているものもないはずですが、これも「コミュニケーションしているつもり」で取り組んでいるのではないか、コミュニケーションの本質や前提を理解しないまま改善活動だけが叫ばれていることが問題ではないか、と書かれています。
コミュニケーションとは本質的に非効率(お互いを理解するのは疲れるし時間がかかる)であるという前提を改めて見つめ直す必要があるというわけです。

さらに著者は「現場の力」に頼り切った現在の日本企業に対しても非常に危惧されています。
戦略に迷走し、コミュニケーションもままならない状態のトップの方針に、見返りのないコストカットばかりで搾取される疲弊しきった現場を見ていると、「そろそろ限界なのでは」と感じているようです。
現場の力こそが多くの日本企業の強みだという私の認識の中、これはなかなか危機感を煽られる話です。

以上の内容を含め、自分の会社に照らし合わせてみても、この他に書ききれないほど示唆に富む内容が盛り沢山でした。

本著が3部作の最後とのことですので、ぜひ1部、2部も読んでみたいところです。

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2017年08月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

戦略は単なる仮説であり、「実行」を通してフィードバックを得ることで始めて検証しつつ練り上げていくもの。その課程で、新たなやり方に挑戦しなければいけなかったり問題を解決していく営みこそが競争優位につながる。

それを実行にうつしていくためには、人の気持ちに重点をおいた組織内のコミュニケーションのマインドが重要。

ハッとさせられたのは、戦略が実行されない問題要因を構造化したあとに、その要因を1つずつみていくと当たり前のことに気づくが、ではなぜ当たり前を実行出来ないのか?という問に対して「前提が間違っている」と指摘していること。
そもそもその問題意識に対する暗黙的な前提、例えば「戦略が不明確」という問題の前提には「具体的な戦略が明示されていれば実行も成功する」という前提が眠っている。その組織の無意識の思考様式がそこには存在しているということ。
ここには哲学的思考、つまり「前提を問う」ことが求められるのかなと。これは本当にハッとさせられた。

結局、重要と成るのはリーンの概念で、戦略の核となる目的はぶらさず、あとは仮説を検証していき学びを得ることで戦略を創っていくという姿勢が重要。

後半はそれをするためにはコミュニケーションが必要だということを述べていて、目的に対しては合意しつつ、実行の際には合意できないこともあるので納得を形成するためのコミュニケーションを行うこと。「納得」というある種の諦め、を目指すことにはなるほどなと腹落ち。その納得をつくるために対話を重ねることとそこに対しての熱意がリーダーに求められるのだろう。

それぞれの意見の土台には、個々人の価値観があるために、それをはっきりさせて何が同じで、何が違うのか?を対話しつつ意味を共有していく。それには「人の理解はかんたんにできるものではない」という認識から生まれる「関心」をもち「まず聞く」という姿勢が必要。

資本主義社会をにはびこる効率化という考え方は大企業に於いてなどは特に顕著だと思うが、コミュニケーションは効率化を目指してはいけない。たぶん、効率化を測ったコミュニケーションって多くの場合は「わかったつもり」を産んでしまう。だから個人の論理が構築されている背景にある主観的解釈から立つ価値観、個人的体験を理解して気持ちを理解する。そしてそれには時間がかかるもの。
この個人的体験って大事で、ニーチェが説く客観的真理は存在しない、という思考にも通ずるなあと感じた。いかに具体的な個の物語を引き出すか、自らもそれを開示するか、だなあと。

コミュニケーションに関してまとめると、以下3点がポイントで、その核にあるのは「他者に対しての関心」
・意味を共有すること
・本質的には効率が悪い
・情報の前提となる価値観を伝える

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2016年09月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

現在の企画部門で、はや1年以上が経過してしまったが、未だに机上の企画に終始しており、焦りと苛立ちを覚えている。
実行になぜ結びつけられていないのか。改めて考える契機になった。

現実は一筋縄ではいかず、なかなか難しい面もあるが・・。
企業全体に巣くってしまっているものがないか、当事者意識で考えたい。

「論理や力で屈服させることではない。

相手の立場や価値観を理解し、許容することである。
論理や力で100%納得させることはできない。

意見の対立や判断に関わる問題を明確にすることが重要である。
正しい答えではなく、正しい問いが必要である」

<実行にあたって>
・「伝える」から「共有」へ
・Said ne Heard(こっちが言ったからといって、聞いてもらえたわけではない)
・Heard ne Listened(聞いてもらえたからといって、聴いてもらえたわけではない)
・Listend ne Understand(聴いてもらえたからといって、理解してもらえたわけではない)
・Understand ne Agreed(理解してもらえたからといって、賛成してもらえたわけではない)
・Agreed ne Convinced(賛成してもらえたからといって、腑に落ちて納得し行動しようと思ってもらえたわけではない)

<失敗要因の前提⇒見直し前提>
a.トップの鶴の一声(あれも、これも)
 ・分析は戦略ではない。戦略という未来への貸せるは様々な要素の非線形的な統合である「思いつき」からしか生まれない
 ・トップはトレードオフの重要性を認識しているが、できる立場になく、また逆に優先順位をはっきりさせることの副作用を懸念している
b.時間・準備不足
 ・どれだけ時間をかけても、戦略実行の準備に「十分」ということはない。どこかで踏み出さなくてはいけない。
c.戦略が不明確
 ・戦略の具体化には限界があり、むしろ試行錯誤を通じて実行される必要がある
d.実行と評価制度がリンクしていない
 ・評価制度は全てではないし、評価制度にこだわることでより本質的な問題から注意がそれる
e.責任が不明確
 ・責任の所在が実行できない理由としては取り上げられるのは、誰も真剣に戦略に取り組んでいない証拠である
f.部門間の対立
 ・部門はそれぞれ異なった役割を持っており、対立や緊張は避けられない。対立があるからこそ創意工夫が生まれ、プロジェクトの完成度が高まる
g.納得性が低い
 ・納得するとは、論理や力で屈服させられることではなく、相手の立場・価値観を理解し、許容することである。論理で100%納得させることはできない
h.片手間
 ・戦略の実行は、そもそも片手間でするものである
i.情熱・本気度の不足
 ・情熱があること、それが実行に生かされるかどうかは同じではない。情熱はお互いに打ち消しあったりするし、浪費されれば枯渇する
 

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2012年06月06日

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