あらすじ
一九六七年ニューヨーク。文学を志す大学生は、禁断の愛と突然の暴力に翻弄され、思わぬ道のりを辿る。フランスへ、再びアメリカへ、そしてカリブ海の小島へ。章ごとに異なる声で語られる物語は、彼の人生の新たな側面を掘り起こしながら、見えざる部分の存在を読む者に突きつける。事実と記憶と物語をめぐる長篇小説。
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Posted by ブクログ
旧友から送られた回顧録の体裁を取ってるとはいえ、倫理的にも社会的にも結構エグい話。オースターと訳者の品格ある文章に抑えられているのを差し引かなかったら、かなりドン引きしていたのは間違いない。またその話が複雑で流動的な枠構造に彩られ、ドンドン物語世界の深みにさらわれる。読み終わりたくない、と久々に思った。
主人公アダムはオースターの主人公としては定番なタイプとは言え、美しく聡明な姉グウィンとの関係は、何故かサリンジャーのグラース家を彷彿とさせる。
更に、一応インテリながら歪んだエゴ炸裂で一皮剥けば変人どころか剣呑なルドルフは、偏執狂気質を露呈するとどうもイマイチ魅力に乏しい一方で、「王妃マルゴ」よりは寧ろ(同じフレンス女性だからか)自堕落で主体性のない乾いた妖艶さが「テレーゼ・デスケルー」を連想させるマルゴは、個人的にツボ。
コロンビア大の学生(アダム・ウォーカー)がフランスからの客員教授(ルドルフ・ボルン)とその恋人マルゴとNYのパーティで出会う。マルゴの口添えで、アダムはボルン出資の雑誌を作るチャンスを得るが、殺人事件がボルンとアダムの本性を暴き、話は立ち消えに…って、充分面白そうな話だが、コレが40年後、アダムの回顧録のサワリとして大学時代の友人(ジムこと作家ジェームズ・フリーマン)へ届く。オマケにアダムは病気で死にかけ。結局再会は果たせず、コレは未完のままジムの手元に残る…で、サワリの回顧録は更にこじれて舞台はパリへ移る。またもや狂気一歩手前の一悶着あり、話は現代へ。トドメの舞台は西インド諸島、学者になったセシルがルドルフに呼び出され、あわや倒錯か、的な。
Posted by ブクログ
アダム・ウォーカーが書き残した彼の人生。ルドルフ・ボルンとの出会いと殺人疑惑。彼に物語を託されたジムはアダムの死後、彼の人生を追う。
ポール・オースターも村上春樹と同じで、読むタイミングがある作家さん。今は波長が合うらしく、ずっと読んでしまった。アダムの物語やジムに語られる関係者の話が引き込まれる。
Posted by ブクログ
こころ震わすような、とか涙滂沱、大興奮、という激しい読後感はポール・オースターにはないのだが、不意にある登場人物や場面がまざまざと浮かび上がって来て自分でもびっくりすることがある。
もちろん、読んでいる最中は夢中になる。あちらの世界からこちらに戻ってくるのにちょっと時間がかかったりもする。
『インヴィジブル』の各章はアダムが見たもの、アダムが見ようとしたもの、アダムが見たかったもの、アダムに見えなかったもの、が書かれている。
でも、書かれたものが真実とは誰が言える?
ボルンは少年を殺したのか、殺さなかったのか。
セシルは島を去ったのかとどまったのか。
見えたものが真実ではないし、見えないから存在しないのではない。自分自身も含めて、不可視なものに取り囲まれて、
そのくせ人は自分の見たいものしか見ない。
最後のページが終わっても、読み終えて何日か過ぎても、何かがどこかが引っ掛かる、オースター、すごいです。