【感想・ネタバレ】夏の裁断のレビュー

あらすじ

芥川賞候補となった話題作、そしてその後の物語――。

小説家の千紘は、編集者の柴田に翻弄され苦しんだ末、ある日、パーティ会場で彼の手にフォークを突き立てる。休養のため、祖父の残した鎌倉の古民家で、蔵書を裁断し「自炊」をする。四季それぞれに現れる男たちとの交流を通し、抱えた苦悩から開放され、変化していく女性を描く。
芥川賞候補作「夏の裁断」と、書き下ろし三篇を加えた文庫オリジナル。

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Posted by ブクログ

性被害を受けた千紘が過去の傷と向き合う話
個人的には教授の言葉がとても心に沁みて泣きそうになりながら読みました
性被害の傷はなかったことにはならないだけど、薄まっていくことはできるそう勇気をくれるような作品だった

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2025年05月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

過去に受けた傷と、その克服について、
書かれた本だったかと思います。

千紘は幼い頃に性加害を受けたことがトラウマとなり、自己と他人の境界線が曖昧になって、自ら傷つきにいってしまったりと、自分を守ってあげていないような気がしました。

作中で何度も行われる自炊も、作家である千紘が裁断機の刃を本の背表紙に当てるのは、自傷行為の暗喩のような印象です。

自分でも自分を傷つけて、他人の男からも傷つけられて。。夏の章は中々苦しかったです。

ただ、秋冬春にかけて、自己と他人の境界線の引き方を学んでいけたのかなと、
自分が心地良いように過ごせる生き方が見えてきたような兆しがありました。

過去の性加害最低野郎とも、それを知ってた上で過去も今も守ってくれなかった最低母親とも、
破壊衝動的なとんでも最低編集者とも、
まさに裁断なのです。

王子と、猪俣君と、清野さんは、千紘が自分軸で動けるように必要な出会いだったと思います。

最後のシェイクスピアの名言も良かったです。

“A rose by any other name would smell as sweet ”(バラはどんな名前であっても、その香りは変わらない)

清野さんとの関係に説明できる名称は無いけれど、
お互い会いたいと思い続けることは美しいし、それは愛し合っていると言えるのかなと。

人間関係の本質を考えさせられるような一冊でした。

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2025年04月10日

Posted by ブクログ

思い立ったことをすぐ行動に移す人や、愛情表現が豊かな人は魅力的なため、惹かれるのはすごくわかる。また、自分の人生を思い返すと、このタイプのモテ男は一定数居たなあと思う。

このタイプの人と遊んだ時、「この人は空っぽで掴みどころがないけど、繋がりを持っていたい」と思ったのが率直な感想だった。

この作品を読んだタイミングが、自分にとってとても良かったように思う。これから上京し、社会人をする私にとって、少し憧れを抱くような生活を主人公はしていた。

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2022年09月08日

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いろんな種類のクズ男が出てきて、クズ男における多様性が学べた一冊であった。

柴田が仕事をやめるという嘘をつく場面があって、私も同じようなことをクズ男にされた経験を思い出した。今となってはなんの意味もなかったな、ということを改めて復習できた。

清野さんとの敬語のやりとりは距離を置きながらも奥まで踏み込んでいる会話でそのアンバランスさが心地よかった。

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2021年07月01日

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「一撃のお姫さま」を読んで、
島本理生さんの作品を久しぶりに読みたくなり。
夏というタイトルが気になって手に取りました。

母親との関係、幼少期の経験、
どれもこれも辛くて痛いのに、
自分を痛めつけるものに近づいてしまう。

読んでいて苦しくなりますが、
島本さんの文章は淡々と落ち着いていて、
読み心地が良くて。

自分の感情や欲求に目を向けて、
少しずつ輪郭が明らかになっていき、
最後にようやく取り戻した感じがして、
読後は良かったです。

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2025年09月15日

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ネタバレ

千紘や清野さんにいろんな過去があったように、王子が思っていたよりしっかりとした考えを持っていたように、他人の全てを知る事ってなかなか難しくて、それぞれみんな悩んだり考えたりしながら生きている。
清野さんへの気持ちを「夕暮れが綺麗で寂しくて愛しいのに似ている気がします」と言った言葉がとても美しいなと思った。

千紘の沈んだりしながらも徐々に前に向いて進んでいく姿がとてもよかった。
教授の優しさもじんわり心に沁みた。

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2025年07月12日

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 どうにも一筋縄ではいかない男ばかり出てくる。特に柴田さんには、毎回、痛い目にあうのに、どうして関わろうとするのか?と主人公にイライラ。

 トラウマを作った過去の男。冷たい母親。途切れる事なく現れる男達。辛い状況ではあるが、主人公にいまいち共感は出来ずに終わりました。それでも読みやすく、先は気になりサラサラ読めました。

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2023年11月07日

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幼少期の嫌な体験が大人になっても、残ってる人は多いと思う。そのような経験をどうか身近な子どもにはさせたくないと思った。
千紘がどうか幸せになって欲しいと思いながら読んだ。
時系列バラバラで読みにくいというコメントをちらほら見たが、全くほんの少しも気にならなかった。

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2023年07月26日

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ネタバレ

区切りがないと、関係性に名前がないと、約束がないと、不安でいてもたっても居られない
自分に価値がある人間かどうかが分からないから、いつも謙遜してしまう
主人公ほどの過激な世界ではなくとも、多くの同世代の女性が感じたことのある葛藤や哀しみなのでは、と思い、胸がキュッと苦しくなった
漠然と幸せになりたいって思うけど、色々な幸せのかたちがあることを教えてくれる人は少ないし、自覚するのにもパワーが必要


____
初めて心から、幸せになりたい、と思った。
私は清野さんじゃない誰かと付き合って、正しい約束をして、そして、幸せになりたい。

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2023年06月18日

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ネタバレ

柴田は本当に腹が立つ男で、厳しい制裁を受けてればいいなと思う

でもその他の男性と千紘の関係についてもモヤモヤする
過去のトラウマを乗り越えるために無意識にしてる行動かもしれないけど柴田と似たり寄ったりじゃないかと感じる所もあった

書き下ろし三篇があって良かった

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2023年01月22日

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出てくるのが一見まともに見えて近づくとキケンなクズ男ばっかり。
ちょっとスリルのある柴田さんはドキドキした…

主人公は、男にぐずぐず寄りかかって生きてる悲劇のヒロイン。

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2023年01月10日

Posted by ブクログ

時系列が行ったり来たりするので、読みにくかった。
柴田のような男は最悪だなと思い、主人公も誰とでもよく寝るなと思いつつ…。自分の中の空洞を埋めるにしても。
最後に向かうに連れて、一筋の光が見えた気がした。
本の裁断をすることで、彼女自身もどこか浄化したのだろうなと思う。

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2022年08月31日

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柴田みたいな男に振り回されたり、質より量になったり、名前のない関係性とか、覚えがありすぎて何とも言えない気持ちになりながら最後まで読んだ。
そして、胸に刺さってた小さな棘が抜けたような感じがした、そんな一冊でした。

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2022年07月29日

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紙の本を裁断、解体して、デジタルデータとして取り込んで保存することを「自炊」と言う…というのは、どこかで聞いたことあった。
作家の千紘が、亡くなった鎌倉の祖父の家で、祖父が大量に遺した本を「自炊」しながらひと夏を過ごした記録なのだけど、編集者の柴田と知り合い関わってしまったことで奇しくも不穏な夏になってしまう。

人を傷つけることを何とも思わない、むしろ傷つけることを生き甲斐とする人間がいる。それが無自覚であればあるほど罪深い。
読んでいる間ずっと胸騒ぎがするような作品だった。柴田に振り回され自我を失っていく千紘を見ていて、人間のどうしようもなさを感じてしまって。
千紘には性的なことを嫌悪してしまうような過去があって、そのことが千紘の自信を奪い、人との距離感を適切に保てない。
傷つける側の人間は、そういうターゲットの性質を見抜いた上で近寄るのかもしれない。観察だけでなく、妙に鋭い勘で。

元は「夏の裁断」だけの作品だったものが、その後、秋冬春の短編が書き下ろされて出来上がった短編集らしい。
秋冬春の作品も、主人公が変わらないせいか不穏さがまったく無いわけではないけれど、「夏の裁断」と比べたら穏やかさも見えて希望も感じた。柴田は表面的には消え、清野という新たな登場人物との話が中心になっている。
正直千紘は才能はあるけどダメ女だと思う。けど恐らく不思議な魅力を持つ女性なのだろうということも同時に思う。庇護欲をくすぐるようなタイプなのかもしれない。

人と深く関わるのは怖いことだし、その距離感や在り方も人それぞれだ。過去も性格も何もかもが違うのだから。うまくいかなくてすれ違いながら解り合っていくしかない…と、現実と重ね合わせながらしみじみと考えた。

にしても、柴田のような男って妙な色気があるようなタイプが多いのよね。破綻していて触れたらまずい感じがするのに、なぜか惹かれてしまうような。そういう自分の魅力も分かってて動いてるのかしらと思うと腹が立つわ!と小説なのについ思ってしまった。

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2022年05月28日

Posted by ブクログ

記録用

自炊という行為と、過去との決別が重ねられているのかなと思った。

彼女が前向きに歩いていけそうでよかった。

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2021年01月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

文庫版を読んで途中で知ったが、
夏の裁断に続く3つの話は全てあとから文庫版で書き下ろされたものだった。
夏の裁断で終わっていたら、千紘のように煮え切らないまま過ごすことになったと思う。

正直、この本に出てくる登場人物皆に、なぜ?とか、どうして?なんでこの人はこんなことを言ったり、するの?って思う人も多々いると思うが、
実際、私自身も"付き合う"という縛りが嫌だ。と、言う人が好きで好きで仕方が無い時があった。

その時は、まさに恋は盲目。
その人に人格を否定されるような罵声をあびせられても、時に男らしくて心の芯に染み渡る優しさに、私を見捨てないで。私をそばにいさせて。と、なぜか縋りたくなる思いにさせる。
今となってしまえば、千紘の柴田に対する気持ちのように、"その時"を忘れてしまった気がする。

私が好きだったその人も、愛されたいし人に甘えたいけれど、人を傷つけ深く入ろうものには毒を吐く今思えば怖い人だった気もする。

けれど、同じように見えて同じでは無いのが、清野さんのような人だ。
傷つけるのが怖いから、あえて型はめをしない。

でも、やっぱり、女はそれが寂しいものである。
けれど、この2人は少しずつ自分たちの価値観を擦り合わせて認め合いながら、2人のふたりらしい時間を作っていくのだろうな。


読み終えて思ったのは、男の人によって女の人生や行き方は変わる。
けれど、それは男性側も当てはまるだろう。
千紘の正直な内心と裏腹な態度が人間らしくて好きだ。

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2020年09月11日

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芥川賞候補作で表題作の『夏の裁断』に、三編の書き下ろしを収録した、文庫オリジナル。

正直柴田のような男性には嫌悪感しかなくて、表題作を読み進めるのはとても苦痛でした❗️しかし、『秋の通り雨』以降、千紘が少しずつではあるけれども、前向きに進もうとしている姿に共感して、最後は温かい気持ちで読み終えることができました❗️

『夏の裁断』のみの話しであったなら、不快感しか残らない作品になっていたと思いますが、後日談の三編を加えることで物語に深みを感じることができました。またまた好きな島本作品を見つけてしまいました❗️

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2025年12月04日

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精神的に不安定な状態になった主人公が、静かな生活を送るために、本の「自炊」作業を始める。過去のトラウマを強制的にシャットアウトするという意味で「裁断」と掛けているのかも知れない。キレイに清算するまでには時間が掛かるので、裁断という言葉がシックリきた。
男性関係を含め、主人公の不安定な状態が沢山描かれており、読んでいて時系列が混乱するところがあった。男性の暴力的な面に惹かれてしまったり、相手の欲望を断れない自分に葛藤している様子が鋭く描かれていて、「この人は大丈夫か?」と心配になるほど、重たいストーリーだった。

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2025年01月11日

Posted by ブクログ

島本理生さんの描く女の人って、いつも少し意外だなと言う気がする。
なぜかはよくわからないけれど。

孤高で、凛として、強くてまっすぐ、に見えるけど
実は人並みに臆病で、俗っぽくて、孤独で、自信がなくて、依存症。

好きじゃないのに共感できる、変な感じ。

「正しい約束をして、幸せになりたい」
ずっとそう思っているはずなのに、ずっと言えない感じ。

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2024年10月20日

Posted by ブクログ

柴田さんって言うあんまり生きた感じのしない男性、島本理生の作品にはこうゆう性的に魅力のあるメンズが出てくることが多いような。
主人公の感情の振れ幅が小さいようで大きくて、繊細に描かれていた。最後は幸せな終わり方。いい。

他の方のコメントを見て、確かに思ったのは主人公に共感ができなかった。それはあるな。

春夏秋冬で男性が変わるのも読んでいて楽しかった。

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2024年08月01日

Posted by ブクログ

2015年
紙の本を背で裁断して、スキャンして保存することを『自炊』と呼ぶことを知りませんでした。本好きなら一般常識なのかな。凹む。
小説家の主人公の女性を通り過ぎる男性との恋模様。彼女は、祖父の蔵書を鎌倉の祖父の家で
『自炊』していく。
男性の言動に翻弄される主人公。
彼らに自分との関係性に意味を持たせたい。
明確な関係を求めてしまう。
好きだからか依存なのか不確か。
この自炊行為の裁断と 彼女と男性との忌まわしい記憶の裁断を掛けてあわせている。(と、思うのだけど)
男性を季節ごとに登場させて、最後には、ひとりの男性と明確な関係となります。

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2023年09月12日

Posted by ブクログ

『「もし、なんの約束も名前もないままに、会いたい、という気持ちだけで会い続けることができたら、それは愛とか恋とかと同じくらいに美しいことさもしれないですね」
寝息が止まって、目が開いた。
清野さんは子どもみたいに笑うと、はい、と言った。』

『いつだったか、自分よりも彼が孤独じゃないことを羨んだことを思い出して心臓が切れそうになった。
自分ばかりに気を取られ、それを相手が理解してくれなければ、正しくないことのように決めつけてきた。
だけど他人同士が分かることなど、本当は、あまりに少ない。』

『What's in a name? that which we call a rose. By any other name would smell as sweet.
名前ってなに?バラと呼んでいる花を
別の名前にしてみても美しい香りはそのまま。』

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2023年05月21日

Posted by ブクログ

表題作に登場する男がまっっったく魅力がない、どころか嫌悪感すら感じさせる男だったので、そんな男に翻弄される主人公にもヤキモキさせられてイライラすること多数。

昔のトラウマと今の恋愛観は確かに呼応し合うものかもしれないけど、何もこんな男に惹かれなくたっていいじゃないのさ……と、男運無さすぎな女友達を心配するような気持ちで読み進めました。

公衆の面前で編集者の柴田の手首にフォークを突き立てた主人公の千紘。作家である彼女に柴田が手を出した事が原因の凶行と周囲に決め付けられ、お咎め無しとなった千紘は、休養という名目を口実に、亡祖父の鎌倉実家の蔵書を「自炊」することに。
背表紙を裁断することに背徳的な恍惚を覚えながら、柴田との出会いを思い返す千紘。
あの男が諸悪の元凶なのか、それとも悪いのは私なのか?
本の裁断と男との思い出をなぞることで過ぎてゆく、鎌倉の一夏。

うーーーーーーん、表題作だけだったら正直、星2つ。蛇足とも評価されかねない文庫オリジナルの三編が良かった。徹底的に主人公に共感できない表題作ですが、後日談となる三編は、過去のトラウマと柴田の影響から脱却しようとする姿が自然体で描かれてて嬉しかった。

主人公に思いを寄せる猪俣くんが不憫でしたが、文庫オリジナルに出てくる男性陣が魅力的なのも良かった。王子、意外に好き笑。

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2023年02月15日

Posted by ブクログ

自炊、という言葉の意味をこの本でもうひとつ知った

もっと自分を大切にすれば大切にしてくれる人に巡り会えるのでは?とつまらない事を考えてしまうくらい主人公は誰とでも重なる、そして傷ついている、うーん。

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2022年09月19日

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本能的に人をコントロールするのが得意な人間。この男は島本理生さん作品ではかなり悪い部類に思える。
そういう人ほどコントロールしやすい人を一瞬で見抜く。

「誰にも自分を明け渡さないこと。選別されたり否定される感覚を抱かせる相手は、あなたにとって対等じゃない。自分にとって心地よいものだけを掴むこと」

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2022年07月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

意味が欲しい。自分が一緒にいる意味が。
島本理生先生王道。過去に大人の男の人に虐げられ、助けてくれない母親をもったがために不安定で男の人に流されてゆく主人公。
正直、またかと思いつつも、変わりゆく主人公を見届けました。
良い春を迎え、最後まで読んで良かった。
そして、また手に取ってしまうんだろうな、島本理生先生の本。
救われていく様を見て、私自身も救われているのかも。

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2022年01月15日

Posted by ブクログ

今年になってからハマっている島本理生さんの作品。

表題作でもある、夏の裁断は、正直読んでいて悲しいだけだった。
流されやすい女性、男性に消費される女性を見ると、そうならざるを得なかった知人の話がリンクして虚しくなる。

でも、この作品の主人公である千紘は、秋から春にかけて再生していく。
柴田のような男に、翻弄されるだけじゃなくて良かった。
柴田に感じる嫌悪は、少し間違えたら自分もこうなっていたということを思わせるからな気がする。

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2021年12月28日

Posted by ブクログ

不安定で危うい精神を持つ主人公の千紘となんとも掴みどころがない嫌な男、柴田のやり取りがずっと重苦しく終始どんよりした気持ちにさせられました。

主人公にも柴田にもなんら共感する所がなく感情移入出来ないまま読み進めていましたが途中時系列がわからなくなった箇所もあり、少ないページ数の割には難しさを感じました。

最近欠かさず読んでいる島本 理生さんの独特な世界観が好きで惹き込まれていますが今回の作品には物足りなさを感じてしまいました。

何度も読み返せば又感想が変化して行くのかな?と思う作品。

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2021年02月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ


島本理生の本を読みたいな、と思い手に取った本。


全体的に暗く、かといって強く否定出来ないような恋愛の話。
タイトルの裁断は、作家の千紘が亡くなった祖父の家に住みつつ、祖父の遺した本を裁断し、データ化する「自炊」を行うこと。
本を生み出す側が自らの手で本を解体するという、自傷に例えたタイトルである。
柴田、王子、清野という男性と関わりつつ、最後は自分の過去と向き合っていく。


柴田のようなどうしようもない男を好きになる人は、私の友人を含めて多い気がする。
話を聞くのが上手く、簡単に距離を縮めて、気があるそぶりを見せつつ簡単に裏切るような人。
何も与えないけど、何も奪わない人、という千紘の言葉がぴったりだと思った。
(大事な20代の時間を搾取されているのでは、と本書の中で教授が言っていたが)
主人公の千紘は時折幼さがあり、20代前半くらいかと思っていたが、三十路近いことに驚いた。


ゆるゆると話が進んでいくので、苦手な人は苦手かも。合わない人は退屈すると思う。




「ーだめだとか、間違ってるってことはないよ。ただ、あなたはグレーなものに耐えられない人だったから。きっちり線を引いたり固定しないと不安でしょう。一秒後の未来だって、本当は保証なんてない。でも、あなたにそれを教えたら、生きていけないかもしれないって思ってたんだよ。」
→柴田のことを含め、千紘は定期的に大学時代の心理学の教授に相談しており、最後教授が千紘に投げかけた言葉。

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2020年10月02日

Posted by ブクログ

文庫化に伴い書き下ろしが3編も加わるときいたので読んじゃいました。
初読は2年前。そのときの感想をふりかえると千紘のことをメンヘラビッチと切り捨てているのですが(ごめんなさい)、今回読んだ印象はだいぶ変わった。
彼女は弱いだけなのだ。柴田のような強引なものにひっぱられてしまう。
暴力的な柴田に惹かれてしまう理由や、彼の気まぐれな言動に意味があるのだと思い込む痛ましい姿はどこか私自身の体験とも重なって、もやもやと嫌悪感が募った。
島本理生さんは経験しないと分からない、そしてひとたび経験したら共感しきりのような、良い意味で極端のイメージがある。

「そんなものに意味はないよ」「選別されたり否定される感覚を抱かせる相手は、あなたにとって対等じゃない」とキッパリ言い捨ててくれる教授の存在は救いだった。
そのとおり柴田という男に問題があるのは一目瞭然なのだが、でもどうせ彼女たちはまた突き放され傷つけられると分かっていても求められたら律儀に与えてしまうのだ。好むと好まざるとに関わらず。
結局その原因が幼少期の性的トラウマに起因しているということが書かれているのでしょうが。
人物造形や設定は直木賞を受賞したファーストラブとかなり通ずるところがあり、あの小説は島本理生さんが本作では書き足りなかった千紘という女性をどんどん細分化して炙り出していったもののように思えました。

書き下ろしは「秋の通り雨」「冬の沈黙」「春の結論」。
鎌倉にこもる千紘が捨て鉢になって男遊びするところから、清野さんという新しい男性と出会い少しずつ自分を取り戻していく季節の一巡だ。
清野さんとの間の名前や定義や約束のない関係性は脆く幻のように感じてしまうが、奪うでも与えるでもなく互いに「会いたい」と思って会い続けられる関係性は、美しい。
相手の顔色を伺い暗闇に意味を求め身をやつす必要はないのだ。誰にも自分を明け渡さないこと。 

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2021年11月02日

ネタバレ 購入済み

三冊目

島本理生作品は10年以上前に「リトルバイリトル」を読んで以来3冊目。いずれも好みではない。電子書籍化も少なかったのでずっと読んでこなかったが、直木賞受賞後、電子書籍化が増え、クーポンもあったので「ファーストラヴ」とこちらを読んでみた。「ファーストラヴ」の方が断然良かった。
特にこの夏の裁断は、何が言いたいのかよくわからない箇所があったり唐突に過去の回想が始まったりと読み辛く、作者の技術力や表現力の不足を感じる。
主人公の性的トラウマと母娘の信頼関係の破綻は、作者のお気に入りの設定なのか。
島本理生作品をすべて読んでいる訳ではないからわからないが、この設定にはもう飽きた。

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2020年10月12日

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