あらすじ
芥川賞候補となった話題作、そしてその後の物語――。
小説家の千紘は、編集者の柴田に翻弄され苦しんだ末、ある日、パーティ会場で彼の手にフォークを突き立てる。休養のため、祖父の残した鎌倉の古民家で、蔵書を裁断し「自炊」をする。四季それぞれに現れる男たちとの交流を通し、抱えた苦悩から開放され、変化していく女性を描く。
芥川賞候補作「夏の裁断」と、書き下ろし三篇を加えた文庫オリジナル。
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Posted by ブクログ
過去に受けた傷と、その克服について、
書かれた本だったかと思います。
千紘は幼い頃に性加害を受けたことがトラウマとなり、自己と他人の境界線が曖昧になって、自ら傷つきにいってしまったりと、自分を守ってあげていないような気がしました。
作中で何度も行われる自炊も、作家である千紘が裁断機の刃を本の背表紙に当てるのは、自傷行為の暗喩のような印象です。
自分でも自分を傷つけて、他人の男からも傷つけられて。。夏の章は中々苦しかったです。
ただ、秋冬春にかけて、自己と他人の境界線の引き方を学んでいけたのかなと、
自分が心地良いように過ごせる生き方が見えてきたような兆しがありました。
過去の性加害最低野郎とも、それを知ってた上で過去も今も守ってくれなかった最低母親とも、
破壊衝動的なとんでも最低編集者とも、
まさに裁断なのです。
王子と、猪俣君と、清野さんは、千紘が自分軸で動けるように必要な出会いだったと思います。
最後のシェイクスピアの名言も良かったです。
“A rose by any other name would smell as sweet ”(バラはどんな名前であっても、その香りは変わらない)
清野さんとの関係に説明できる名称は無いけれど、
お互い会いたいと思い続けることは美しいし、それは愛し合っていると言えるのかなと。
人間関係の本質を考えさせられるような一冊でした。
Posted by ブクログ
千紘や清野さんにいろんな過去があったように、王子が思っていたよりしっかりとした考えを持っていたように、他人の全てを知る事ってなかなか難しくて、それぞれみんな悩んだり考えたりしながら生きている。
清野さんへの気持ちを「夕暮れが綺麗で寂しくて愛しいのに似ている気がします」と言った言葉がとても美しいなと思った。
千紘の沈んだりしながらも徐々に前に向いて進んでいく姿がとてもよかった。
教授の優しさもじんわり心に沁みた。
Posted by ブクログ
区切りがないと、関係性に名前がないと、約束がないと、不安でいてもたっても居られない
自分に価値がある人間かどうかが分からないから、いつも謙遜してしまう
主人公ほどの過激な世界ではなくとも、多くの同世代の女性が感じたことのある葛藤や哀しみなのでは、と思い、胸がキュッと苦しくなった
漠然と幸せになりたいって思うけど、色々な幸せのかたちがあることを教えてくれる人は少ないし、自覚するのにもパワーが必要
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初めて心から、幸せになりたい、と思った。
私は清野さんじゃない誰かと付き合って、正しい約束をして、そして、幸せになりたい。
Posted by ブクログ
柴田は本当に腹が立つ男で、厳しい制裁を受けてればいいなと思う
でもその他の男性と千紘の関係についてもモヤモヤする
過去のトラウマを乗り越えるために無意識にしてる行動かもしれないけど柴田と似たり寄ったりじゃないかと感じる所もあった
書き下ろし三篇があって良かった
Posted by ブクログ
意味が欲しい。自分が一緒にいる意味が。
島本理生先生王道。過去に大人の男の人に虐げられ、助けてくれない母親をもったがために不安定で男の人に流されてゆく主人公。
正直、またかと思いつつも、変わりゆく主人公を見届けました。
良い春を迎え、最後まで読んで良かった。
そして、また手に取ってしまうんだろうな、島本理生先生の本。
救われていく様を見て、私自身も救われているのかも。
Posted by ブクログ
島本理生の本を読みたいな、と思い手に取った本。
全体的に暗く、かといって強く否定出来ないような恋愛の話。
タイトルの裁断は、作家の千紘が亡くなった祖父の家に住みつつ、祖父の遺した本を裁断し、データ化する「自炊」を行うこと。
本を生み出す側が自らの手で本を解体するという、自傷に例えたタイトルである。
柴田、王子、清野という男性と関わりつつ、最後は自分の過去と向き合っていく。
柴田のようなどうしようもない男を好きになる人は、私の友人を含めて多い気がする。
話を聞くのが上手く、簡単に距離を縮めて、気があるそぶりを見せつつ簡単に裏切るような人。
何も与えないけど、何も奪わない人、という千紘の言葉がぴったりだと思った。
(大事な20代の時間を搾取されているのでは、と本書の中で教授が言っていたが)
主人公の千紘は時折幼さがあり、20代前半くらいかと思っていたが、三十路近いことに驚いた。
ゆるゆると話が進んでいくので、苦手な人は苦手かも。合わない人は退屈すると思う。
「ーだめだとか、間違ってるってことはないよ。ただ、あなたはグレーなものに耐えられない人だったから。きっちり線を引いたり固定しないと不安でしょう。一秒後の未来だって、本当は保証なんてない。でも、あなたにそれを教えたら、生きていけないかもしれないって思ってたんだよ。」
→柴田のことを含め、千紘は定期的に大学時代の心理学の教授に相談しており、最後教授が千紘に投げかけた言葉。
三冊目
島本理生作品は10年以上前に「リトルバイリトル」を読んで以来3冊目。いずれも好みではない。電子書籍化も少なかったのでずっと読んでこなかったが、直木賞受賞後、電子書籍化が増え、クーポンもあったので「ファーストラヴ」とこちらを読んでみた。「ファーストラヴ」の方が断然良かった。
特にこの夏の裁断は、何が言いたいのかよくわからない箇所があったり唐突に過去の回想が始まったりと読み辛く、作者の技術力や表現力の不足を感じる。
主人公の性的トラウマと母娘の信頼関係の破綻は、作者のお気に入りの設定なのか。
島本理生作品をすべて読んでいる訳ではないからわからないが、この設定にはもう飽きた。