あらすじ
「安全地区」に指定された仙台を取り締まる「平和警察」。その管理下、住人の監視と密告によって「危険人物」と認められた者は、衆人環視の中で刑に処されてしまう。不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは、全身黒ずくめの「正義の味方」、ただ一人。ディストピアに迸るユーモアとアイロニー。伊坂ワールドの醍醐味が余すところなく詰め込まれたジャンルの枠を超越する傑作!
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Posted by ブクログ
平和警察の制度を「集団心理の怖さ」と平たくまとめてしまうのはどうにも雑な気がするので、ちょっと噛み砕いて解釈したい。
根本には強権力による抑圧体制、恐怖政治があるのであり、「制度の否定が身を滅ぼしかねない」という思惑が個人レベルに存在する。それは裏返すと「制度の肯定は自身の安全に繋がる」事なのであり、少なくともうわべでは、現状の肯定が個人レベルで加速していくことになる。加えて本作のような相互監視社会においては、さらに現状否定は抑圧されざるを得ないだろう。ただ、本作の設定で面白いのは、この平和警察制度はあくまで各地で順次試験導入されているものであり、抑圧から免れたい市民は宮城県から引っ越してしまえば良い、という条件が与えられていることだ。即ち、彼らは望んで宮城県内に住み続けている事になる。市民を繋ぎ止めているのは、やはり「極悪人が処刑される」という事に対する熱狂や享楽意識であったように思う。こうした排外意識への熱狂は、正義の大義名分やマジョリティ側の制度、強権の後ろ盾があると尚、後ろめたい感情を正当化する拠り所がある事によってその感情がエスカレートする事がよくわかる。作中序盤で沢山例に挙げられていた中性の魔女狩りはまさしくそうだし、ナチ党ファシズムやスターリン政権下にも似たような風潮はあっただろうと思う。また作中の処刑シーンから察するに、処刑が行われるのはせいぜい2ヶ月に4,5人程度といった具合だっただろうから、政令指定都市仙台市民の多くにとっては、「自身が処刑される」あるいは「身近な、何の罪もない人が処刑された」という経験とは関係がなく、実在する都市伝説を傍観している感覚だっただろうから、余計に熱狂が加速したのではなかろうか。
「悪の討伐」によってスカッとしたい!という感情は我々が潜在的に持つものであり、皮肉にもこの本の感想にすら「最後スカッとしたかった」「みんなで倒す展開が見たかった」といった物がチラホラ見かけられるのもそれを示していると思う。時にこうした大衆意識を逆手に、ポピュリズム的な偏向統治が進行する危険性も認識しておかなければならないなぁ、と思った。
真壁が述べていたように、弱者強者が入り混じって不確定であるから安定しているのであり、強権によって正義/悪を確定すると、正義の暴走を招くということもよく示されていたと思う。そうした暴走の極地として「処刑をされた事が危険人物である何よりの証拠」であるという風なトートロジカルな言説もいくつか見られた。
正義/悪は限りなくグレーで確定するものではなく、どちらか一方に行き過ぎていた時に調整する、程度のことしかできないのだ、と振り子になぞらえて締めくくられる諦観的なラストはとても腑に落ちる物があった。やっぱり真壁すき、すき、大好き。かっこいい。高橋一生とかが演じてくれないかな。かっこいい。
やっぱり伊坂さん作品
拷問に近い取調べ、サディスティックな人の集まりが公僕たる警察官であること…
なんたかいつもの伊坂作品と違っていて、読むのが不安になっくる。
それでも読み進めていくうちに正義の味方が現れて
…と思ったら、失敗したり人を殺しちゃったり、くもゆきが怪しい。
最後の最後になって、ようやく…
いえ、最後の最後まで読者の気持ちを引きつけて放さない、自分にとっては傑作です。
面白かった!伊坂さん、ありがとうございます。
Posted by ブクログ
伊坂作品にしては心重たい部分が長くて疲れる本だった。
平和警察とは名ばかりの一般市民に対して魔女狩りを行う世の中に対して、ちょっとした正義感から立ち上がる1人の青年を描いた物語。
揉み消された平和警察の横暴を始めとして伏線の散りばめ方と回収のスマートさは伊坂幸太郎健在と言ったところ。
真壁鵠太郎という敵側に置いておくには些か魅力的すぎるキャラクターが最終的には黒幕の1人であるあたりは伏線で裏切りを重ねながらも大事なところは押さえているな、という感じ。
まさかタイトルが「不満があってもこの世で生きていくしかないよね、まさか火星にでも住むつもり?」みたいなニュアンスとは思わなかったけど。
Posted by ブクログ
たしか解体全書で伊坂幸太郎ご本人が一番好き?自信作?って言ってた気がするので読んでみた!
そんなに数多く作品を読んでるわけじゃないけどかなり拷問の描写がきつくてちょっとびっくりした。
ずっと大学生の子がヒーローだと思ってたから、まさか死んじゃってると思わないし、全然別の人がヒーローの正体だったりあの人が本当は……みたいなずっと面白い そんで読みやすい
平和警察なんかできたら終わりだよー
Posted by ブクログ
監視社会のディストピア。
伊坂作品の中では特に暗めな気がする。他の作品と比べるとコミカルというかユーモアチックな文章が少ないから?
真壁が魅力的。警察内の中の唯一のまとも人。
飄々としてるけど罰せられない程度に薬師寺の権力の乱用に反抗したり、嗜めていた。
刑事部長を最初から最後まで馬鹿にしていたけどそれもブラフなのは流石だと思った。
薬師寺の最後として自分がこれまでやってきたことが帰ってきた感があったすこしすっきりした。
監視社会はたしかにテロ対策として効果はあるかもしれないが、目的がテロを目論む人たちの謙虚ではなく、この物語のように体制に反発する人、考えをもつ人たちを黙らせることにシフトして独裁というか、人々の考えを統率して自由を奪うことになるんだ、と考えた。
そもそもそれぞれ監視するようになるとつながりというかコミュケーションを結ぶことができないようになり、孤独感のある社会になりそう。
Posted by ブクログ
途中まで読むのがしんどくて、読むスピードは落ちていたが、後半はどういう終わり方をするのか予想できず読む手が止まらなかった。
そして気持ちいいくらいの伏線回収。「そういえばそんなのあったな」の連発。手のひらで転がされている感覚に近かった。
最後まで読んで初めて面白いと思う話だった。
Posted by ブクログ
伏線回収がよかった
最初から最後まで伏線と回収があった。
文自体は読みやすかったけど、人が多すぎて読みづらかった
真壁さんが死体を使って偽装死したのかな?
映画で見たい作品だと思った
ビターエンド
Posted by ブクログ
仕事終わってからの時間でちょっとずつ読んでたから登場人物がわけわからなくなった所はあったけど、すごく面白かった。
「世の中は良くなったりしないんだから。それが嫌なら、火星にでも行って、住むしかない」っていう真壁が発した言葉が伝えたかったことなのかなって思った。正しいとか正義とか偽善とかなんなんだろう
Posted by ブクログ
平和警察という名の実質魔女狩りが行われるようになった世界。危険人物と疑われると取調べという名目の拷問が行われ、実際に危険人物かどうかは問題ではなくなる。
長いのと、前半は特に登場人物が多すぎる!笑
伊坂幸太郎さんあるあるなのかもしれないが、登場人物が多くて伏線のようにさらっと出てくる。
元々の設定自体が警察という正義であるはずの機関が悪のようになっているいやーな設定なので、もはや誰がやられたときにスカッとすればいいのか(笑)
終盤は伊坂幸太郎さんらしく鮮やかな伏線回収。
スッキリ終わることができ、個人的に好きなキャラだった真壁さんが生きてたので良かった。
P.S.当時20歳のぼくりりによる解説が載っているが、同じ本を読んでこうも感想が違うのかと衝撃を受けました(笑)
Posted by ブクログ
伊坂氏による2015年の発表作品。
国家(平和警察)が市民を疑心暗鬼にさせ、火のないところに煙を立たせるかのような、ディストピア風テイストの小説。
洒脱な会話描写はいつも通り。いわゆる第二期のモヤモヤな進行ながら、最後はやや明るめな結末が特徴か。
・・・
そうですね、本作、まず感じたのは「ゴールデンスランバー」に似ているかな、というところでしょうか。
「ゴールデンスランバー」は主人公青柳が、突然爆破殺人の罪に着せらせるというものでした。その視点は一人称的に描写され、主人公が信じていたものが眼前で次々と崩れてゆく・信じられなくなってゆく様が、背筋を凍らせるかのような作品でありました。
他方この「火星に住むつもりかい?」では、憲兵的な「平和警察」なるものが次々と無辜の民衆を「危険人物」として処刑してゆく様を三人称的に語ります。
その視点はどちらかというと警察内部からの描写で、エリートで風変りな警官真壁をして内部批判・揶揄でもって警察内部の冷徹さを飄々と描きます。
警察が「正しい」といえばウソすら正しくなる様子が、冗談交じりにさらりと語られるなど、これまたぞっとする情景描写でありました。
・・・
さて、「ゴールデンスランバー」と似ているとしつこい位にわめいているのですが、本作の特徴といえばやはり作品のメインが誰なのかが良く分からないところでしょうか。
つまり、「正義の味方」です。
作品冒頭から顔を出し、「平和警察」を邪魔するかのようなアクションをとる良き人物。彼が誰なのか、私には皆目見当がつきませんでした。
最後15%程度のところで正体が分かりますが、さらにそこから一ひねりあるのが伊坂流。もうどうなるの?と手に汗を握らせます。
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ということで伊坂作品でした。
ディストピア的な怖面白い作品であったと思います。いやあ、「金子ゼミ」が個人的にはめっちゃ恐ろしかった。
是非、「ゴールデンスランバー」と共に味わって欲しいと思います。
Posted by ブクログ
公的機関による監視社会、事実が捻じ曲げられるディストピアとなった日本。
正義のヒーローが立ち上がり、最後には既存の仕組みが緩やかに破壊される。
緩やかにというのが面白かった。結局仕組みを破壊するためには、リーダーをすげ替えて既存の仕組みから新しい仕組みに移行させる必要がある。
今の仕組みに問題があるからと言って真っ向から戦ったとしても、相手がその仕組み上のリーダーであれば、よっぽどのことがない限り変えられない。
しかし、その仕組みを提唱するリーダーを失脚させ、すげかえることで仕組みを変えられる。
そんなメッセージを受け取ったように感じた。
Posted by ブクログ
伊坂幸太郎っぽさ全開で、抑圧された社会、バラバラのピースが繋がっていく感じが楽した。一方で今まで通りというか、あまり新しさを感じられなかった