あらすじ
叶わぬ恋こそ、うつくしい――能の演目に材をとり、繊細なまでに張りつめた愛の悲しみをとらえる作品集。
雨の気配を滲ませた母子に宿命的に惹かれ、人生設計を投げ捨てたエリート医師(「弱法師」)。
編集者の愛を得るために小説を捧げ続けた若き作家(「卒塔婆小町」)。
父と母、伯母の不可思議な関係に胸ふるわせる少女(「浮舟」)。
能のモチーフをちりばめ、身を滅ぼすほどの激しい恋情が燃えたつ珠玉の3篇。
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Posted by ブクログ
中山先生の文体はとても綺麗で読みやすい。
いつもなら、絶対濡れ場が入っていたところを、この短篇集は、そういった描写は一切ない。それでも、心くすぐられるえろさは何なんだろう。
以下の短篇3つが収録されています。
「弱法師」
「卒塔婆小町」
「浮舟」
「浮舟」はとにかく泣いた。
愛する人を譲らなければならなくなった薫子おばさんのやるせなさ。
愛する人との板ばさみの中、自分は幸せだ、という姿勢を、絶対に崩さなかった文音さん。
愛する人を奪ったことで得た幸せに、微かな罪悪感を抱きながらも、愛する人を守るため、健気に生きてきた香丞。
自分の恋心にも似た独占欲を抑えられずに、母と交わした最期のやり取りが、とても悲しいものになってしまった碧生。
切ない、もあるけど、本当に、やりきれない。
それでも、前に進んでいく人間の強さがしっかり描かれている。
この作品、大好きだ。
Posted by ブクログ
心が痛い。人を好きになるってこんなにくるしいものか。「卒塔婆小町」がもっともお能の原作にのっとっていたなあ。どれもじんわり泣いてしまったけどこれの最後の一行がなんかしっくりこなかった。「浮舟」はどうやって書くのだろうと思えば!本人が語らないゆえに彼女のよるべなさがにじみ出て切ない。でもこのひとの描く浮舟は強いなあ。
Posted by ブクログ
能の演目『弱法師』『卒塔婆小町』『浮舟』を現代風にアレンジした短編集。
それぞれ独特の雰囲気に圧倒され、厳かで静かに進む文章に引き込まれる。
特に『卒塔婆小町』は破滅の道へ追い込まれていく二人の様子に目が離せなくなる。
一昔前の文豪の多くが自らの命を断つ理由が少し分かった気がする。
他人からは決して理解してもらうことのない愛だったけれど、二人の愛は叶えられたのだと思う。
そして源氏物語をモチーフにした『浮舟』。
あの話をこの設定にするとは驚いた。
「男が本気で女に惚れたら、奪うもんだ」
「女が本気で女に惚れたら、引くもんだ」
姉弟のセリフは実に奥が深い。
死をも辞さない究極の愛に圧倒された。
Posted by ブクログ
「弱法師」「卒塔婆小町」「浮舟」という、能楽をモチーフにした3編からなる作品。
私にとって初の中山作品で、彼女が主に女性同士の恋愛を描く作品を書いている作家さんだと知らずに読んだ。
標題作はふ~んという感じで終わったが、卒塔婆小町を読み始めてからは周りの音が耳に入らないくらい完全に作品に引き込まれた。
今は墓地に住むホームレスとなったある敏腕編集者と、ある夭逝した天才作家との激しい関係を描いた作品。
女性にしか恋愛感情を持たない女性編集者を愛し、彼女に愛を受け入れてもらうためだけに自らの命を削り100冊の作品を書き上げていく作家。
その狂気ともいえる創作活動をたどるうち、作家の編集者への狂おしいまでの思いが重く、重く、のしかかってくる。
二人が破滅的な結末を迎えることを知りながら、最後のその時に向かって読み進めざるを得ない。
彼の墓に寄り添い、雪に埋もれて絶命した彼女の最期はあまりに美しく、読後はしばし放心。
すごい作品だった。