あらすじ
植物は20の感覚で思考している──
ベストセラー『植物は〈知性〉をもっている』で、驚きにあふれた奥深い植物の世界を見せてくれた著者が描く、人間と植物の新しい関係。
動かずに生きる道を選んだ植物は、かわりにさまざまな能力を磨くことで未来を切り拓いてきた。記憶力や特殊な運動能力、さらには人間もまねできない擬態力やインターネットのような分散化能力まで─。今や地球上のあらゆる場所で繁栄する彼らは、いわば生物界の超エリートだ。過酷な環境にも適応し、共存していくその能力に、今こそ人間も学べることがあるのでは? 宇宙開発や環境問題の解決のために活用できたら、私たちの未来は、どのように変わるだろうか?
最新の科学で、〈植物と人間の驚異の未来〉を刺激的に描きだした野心作!
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Posted by ブクログ
二年あまり前にも『植物は<知性>をもっている』を読んでいるがこの本もいい。より人間社会や営みにむけたメッセージが強い内容である。
前著がどうだったか記憶がないが、この本はカラー写真の色の出し方が独特だなと、愉快なイタリアのセンセイである著者の個性を生かしているように感じた。
P103 植物の運動には、内部エネルギーを利用する能動的な運動と、環境中に存在するエネルギーを利用する受動的な運動がある。
【中略】受動的な運動は、細胞壁の構成要素が持つ吸水力の差によって引き起こされる。(受動的な運動は風変わりなものばかりで、実行しているのが、内部エネルギーをも全く使わない”死んだ組織”なのだから驚きだ)
P140 スコヴィル辛み単位1600万SHU(純度100%のカプサイシンの値)は唐辛子の辛みの最大絶対値を表し、光速や絶対零度のような物理定数と同じ意味を持つ。【中略】カプサイシンは、神経末端と接触するとTRPV1という受容体を活性化させるアルカロイドだ。TRPV1は熱センサーで、体に害が及ぶほどの温度を感知すると脳に危険を知らせる働きがあり通常は43度で活性化する。【中略】唐辛子にとってカプサイシンの本当の利点は、哺乳類を遠ざけることではなく、人間即ち絶対的に優れた運び屋を異常な依存状態に陥らせ、自分たちから離れられなくする能力だったのだ。
P164 "運動"は動物にとって決定的手段なので―危機的状況におかれた時こそお決まりの"逃走"反応をするー【中略】そう考えると、動物にとっての最適な身体構造は、あらゆる決定を下す指令センターを頂点としたヒエラルキー的身体構造といえるだろう。一方、植物にとって動物のようなスピーディな対応は全く意味がない。大切なのは、効果的な解決策を見つけることだ。つまり、熱さや寒さ、捕食者の出現”にもかかわらず”生き延びることができるような解決策である。この難しい課題にうまく対応するには、集中した構造より分散型の組織構造のほうがはるかに望ましい。より革新的な対応ができ、文字通り“根付く”ことで環境をより正確にとらえる力が得られるからだ。【中略】要するに、動物が周囲の環境の変化に"運動"によって対応し、変化を避けるのに対して、植物は絶え間なく変化する状況に対し"適応"によって対応する。
P176 少数の個体やグループが、集団全体の意思決定を行うヒエラルキーなど、自然界ではまれである。そうしたヒエラルキーがあちこちにあるように見えるのは、わたしたちが人間の目線で自然を見ているからだ。先にも触れたように、わたしたちの目は、自分に似ていると思うものしか識別しない。
P187 重要なことにもかかわらずどうしていいかわからない状況におかれたとき、<道徳的代数>、つまり”理由のバランスシート"を実践する。それは数学的に必ずしも正しいと言えないが、十分に役に立つ。
P195 秩序が優れていると考えるのはごく普通のことだ。秩序付けることは組織化すること意味する。つまり、全く類似性を持たないものを、無理やり一緒に押し込める牢獄を作ることだ。そして、ヒエラルキーを、階級を、集団を、下位集団を作ることだ。わたしたちが何かを分類するときには、それが物質的な分類であれ精神的な分類であれ、動物の体のヒエラルキー構造を繰り返し模倣し、それを再生産しているのである。【中略】動物のモデルは効果的で安定しているように見えるだけで、実際はギプスで固められたモデルなのだ。【中略】人類の未来は、植物のモデルに基づいて作り出す以外にはありえないはずだ。
P269 地球の三分の二は水で覆われていて、そのうちの97%は塩水だ。地球の外を開拓するよりも、海を人類の新しいフロンティアにするほうがずっと早い。
P281 肥沃な土壌を必要とせず、淡水を必要とせず、太陽以外のエネルギーを必要とせずに食物を清算する。これほど素晴らしいことがあるだろうか。【中略】きちんと機能するプロトタイプが完成すれば、興味を持ってくれる投資家はいくらでも見つかるだろうと思っていたのだ。【中略】だが市場とうまくやって行くのは本当に難しい。市場とは閉じた世界であり、しばしば偏狭で、約束事ばかりに縛られ、大半の研究者たちを怖がらせる要求だらけの世界なのだ。【中略】それでも私たちはくじけない。遅かれ早かれ、いつか食糧生産のために海を耕すことが必要になるだろう。