あらすじ
そこには特別な光があり、特別な風が吹いている――ボストンの小径とボールパーク、アイスランドの雄大な自然、「ノルウェイの森」を書いたギリシャの島々、フィンランドの不思議なバー、ラオスの早朝の僧侶たち、ポートランドの美食やトスカナのワイン、そして熊本の町と人びと――旅の魅力を書き尽くす、村上春樹の紀行文集、待望の文庫化!カラー写真を多数収録。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
出会いはランプライトブックホテル札幌
紀行文というジャンルに興味を抱くきっかけとなった1冊。
好きすぎるフレーズが沢山散りばめられてた。
以下、一番好きな文を紹介。
かつて住民の一人として日々の生活を送った場所を、しばしの歳月を経たあとに旅行者として訪れるのは、なかなか悪くないものだ。そこにはあなたの何年かぶんの人生が、切り取られて保存されている。潮の引いた砂浜についたひとつながりの足跡のように、くっきりと。
そこで起こったこと、見聞きしたこと、そのときに流行っていた音楽、吸い込んだ空気、出会った人々、交わされた会話。もちろんいくつかの面白くないこと、悲しいこともあったかもしれない。しかし良きことも、それほど好ましいとはいえないことも、すべては時間というソフトな包装紙にくるまれ、あなたの意識の引き出しの中に、香り袋とともにしまい込まれている。
Posted by ブクログ
【村上春樹さんの滞在エッセイ集】
村上春樹さんが滞在したことのある、アメリカ・ボストン、ギリシャの島、イタリア・トスカーナ、旅先で訪れたアイスランド、フィンランド、ラオス、アメリカの2つのポートランド、そして熊本県でのお話、思索がつづられています。
先日『#一人称単数』を読ませていただきましたが、その欠片も少し出てきて、発想の宝庫がこの経験の中に散らばっているのだろうなーと思ったりした。
村上春樹さんの経歴について、あまり知っていないのですが、特に翻訳作家としてご活躍されているので英語の習得はどうなさったのかとふと思い、調べたら特に学校もずっと日本なんですね。
本書で何度か出てくるアメリカ滞在経験、それは大人になってからで。
でも映画やジャズを通して、アメリカ好きなんだろう、と思いきや、ヨーロッパにも執筆のために滞在していたり。
時に独特な着眼点、様々なものへの好奇心が深く探求し思索する言語力と行動力を伴い、村上春樹さんの世界観が広がり続けているのだろうと感じた。
自分が暮らしてきた価値観や考え方との類似点と相違点を考え、言葉にしていたり、これまでもっていた概念を更新していく。
例えば、ラオスで根幹から変わったと書かれていた川の観念。固有の物語性を持つ宗教の実体験。
猫や鳥、羊も出てくる。虫が無理な人にはお勧めのアイスランド、いいですね。
フィンランドのハメーンリンナ訪問記では、これは#多崎つくる の巡礼のお話の下になっているのかと思いきや、章の最後の追記で、その本を想像で書いてから訪問したとあった。工芸品とかも出てきて、とても雰囲気あったけどな。想像力も豊かなのだろう。
彼がイタリア・ギリシャに滞在していたのは、1986年、30代後半。#ノルウェイの森 を考えているときだったりしたらしい。
そして、アメリカに渡ったのは90年代前半。
四半世紀経って訪れる楽しみも伝わってくる。
人生長く生きることになる場合、若い時に一度訪れた場所や、出会った人、したことを竿度する、そんな楽しみもあるのかな、と思ったりした。
だから今、興味のあることに飛び込んでいく価値があるのだろう。
将来振り返れる今を持つこととか。もう会わないかもしれない人、もう来ないかもしれない場所、たくさんある中で、記憶がよみがえるかどうかも分からないけれど、思い出って面白い。