あらすじ
誰か、私を留めて。どこかへ跳び去ろうとする私を――世にも奇妙な「量子病」を発症して以来、自らの意志と関係なく世界中をワープし続ける稀。一瞬後の居場所さえ予測できず、目の前の人と再び会える保証もない。日々の出会いは儚く、未来はゆらぐ。人生を積み重ねられない彼女が、世界に爪痕を残すためにとった行動とは?
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Posted by ブクログ
量子病、といういきなりどこかにワープしちゃう病気にかかった女の子を主軸に書かれてる。
SFファンタジーなんだけど、どこか現実の現代の未来がこうなってもおかしくないなって思えるくらいには、いい意味で想像に易いファンタジーで入り込みやすかった。
あと、細かく章が分けられてて、それが唐突なワープ感を上手いこと描写しててすげ〜って思った。
SNSとか、カップルアプリとか、出会いを求める人間に比例してツールも増えて、その繋がりが切れないツールや仕組みも同時にたくさんあって、それって離れ難いから作られたものだ。
おじいさんは「別れなど、なぜ、なくてはいけない。」って言った。
同じ事を思った人が仕組みを作った。
おかげで、別れて二度と会えなくなる事とかに対して重みが無くなっていってるかもなあって考えた。
出会いも別れも同じくらい尊いはずなのに。
Posted by ブクログ
本作は、『天盆』に続く王城夕紀さんの第2作だという。読み始めてすぐ感じた。『天盆』とはタイプが大きく異なる作品だ。『天盆』が明快かつ連続的な物語ならば、本作は哲学的かつ断片的な物語だ。それには理由がある。
主人公の坂知稀(まれ)は、「量子病」という奇妙な病に冒されていた。自らの意思と関係なく、世界中をワープし続ける。いつ跳ぶか、どこに跳ぶか、予測する術はない。稀のワープに伴い、物語も跳ぶから、断片的になるわけである。各節は短く、それほど長い作品ではないのに、実に148節から構成されている。
跳ぶ先々での出会いが、一期一会のときもあり、何度も会うときもある。なぜか戦乱やテロの真っ只中に跳ぶことが多い。こんな過酷さに、自分なら耐えられまい。しかし、悲しむ間もなく、哲学的問いかけに答える間もなく、場面は次々とザッピングされていく。一気に読まないと、ついて行けなくなるだろう。
時代が近未来であることは察せられるが、現代社会が似たような状況にあることに注目したい。ネットに溢れる虚偽や悪意が、現実に影響を与え、動かしていく。二度のワールドダウンと、人々の喧騒、暴動。これが資本主義の成れの果てか。断片的な物語における巨大な奔流を、絵空事と笑い流すことができるか。
誰よりも世界中を旅した稀に突きつけられた、最後の問いとは。聡明な稀だけに、その提案は魅力的にも映る。人類に究極の選択を迫るという点では、早世した天才・伊藤計劃の作品群に通じるものを感じる。たとえ作り話でも、これが人類にとっての福音だと思いたくはないが、魅力に抗えない人もいるかもしれない。
意思に反して跳び続けた人生から導いた、稀の答えとは。ここに至り、断片的だった物語が、一本の線で繋がれた。『天盆』のようにわかりやすくはないが、『天盆』と同じく、血が通った物語だった。
Posted by ブクログ
坂知稀が罹ったのは己の意思とは関係なく存在感が分解され、全く別の場所へ転移する「量子病」。この病は何なのか。
格差は広がり、貧困にあえぐ者とは対照的な、支配する者により変えられていく世界。
肉体を捨て、自ら量子の世界を選ぶこともできるようになる。
自分と他人、個と同化。ヒトが存在するというのはどういうことか。
今の世界にリンクする事柄もあり、こういう未来があるのかも、という世界観と詩的な言葉に引き込まれる。
いつか彼女に惹かれて集まった人々が、彼女を留める楔となる日が来るのかもしれない。
世界を漂う彼女が残したものとは。必ずあるもの。そして人生そのものだ。
Posted by ブクログ
坂知稀は、量子病という、世界中どこにでも跳んでしまう病を抱えていた。
跳ぶ瞬間は突然に訪れ、そのとき身につけている青いものだけ一緒についてくる。
人との別れも幾度となくあった。
最初は病気に振り回され、自分の意志など関係ないと思っていたが、次第に、跳ぶ先は人間の意志で決まってくるのだと知る。
生きることをある意味放棄していた主人公が、自分の人生へ光を見出していく。
どんな人生でも、意味を見つけて、どう生きるかは自分次第なのだ。
別れがあれば出会いもあり、数えきれない人との出会いが自分を作っていることに気づく。
Posted by ブクログ
私たちは量子という波であり
他の波に留められなければ
粒子として存在できない。
出会いのすべてが偶然だが
それは必然でもある。
誰かが必要とするから
出会いたいと強く願うから
その波に反応して
私という波は粒子として顕在化する。
この一冊の本を通じて とてつもなく
大きなことを教えられたような気がする。
爽快なエンディングに心からの喝采を。
私は強く望む。マレ・サカチに出会うことを。
そうすればいつか 彼女は私の前に現れるのだから。
出会うことの本当の意味。教えてくれてありがとう。