あらすじ
パリの社交界で金持ちの貴族を相手に奔放な日々を送る美貌の高級娼婦マルグリット。彼女はある日、青年アルマンと出会う。初めて真実の愛に目覚めた彼女は、これまでの享楽的な生活を捨て、パリ近郊の別荘で二人は暮らし始めるのだが、そこへ訪ねてきたのはアルマンの父だった。そしてアルマンを愛するがゆえにマルグリットが下した決断は……。フランス恋愛小説、不朽の名作。
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Posted by ブクログ
わぁーーーもう、めっちゃ好き。
最初の一文で惹きつけられて、最後の一文が本当に最高。単純に面白いのでもっと色んな人に読んで欲しいし、広まって欲しい。
まずこの本を選んだきっかけは、昨今の日本社会があまりにもギスギスしていると感じて現代の日本文学を読む気になれなくて、せめて精神的にでも外国にトリップしたくて(笑)候補に挙げたのが『月と六ペンス』と『椿姫』。
読みたい度が高かった『月と六ペンス』に8割ほど決定していたけれど、とりあえず冒頭を読んで決めようとしたら、圧倒的に『椿姫』の方がするすると頭に入ってきた。こちらの方が堅苦しい印象があったのでぐいぐい読み進められてびっくりした。
『椿姫』はオペラで有名だからか元々なんとなく聞いたことはあって、過去に読んだ『グレート・ギャツビー』が面白かったので、(ギャツビーはアメリカだけど)近代ヨーロッパの貴族や社交界の世界をもっと覗きたくて購入し、積読していたのだと思う。
それにしても光文社古典新訳文庫は偉大だ。私は古めかしく日本語が破綻したような不自然な翻訳が本当に無理で、海外文学を読みたくても文体で拒否感が出てしまうことがよくある。
本屋で何社も読み比べて、困ったら光文社で探すことにしているけれど、やっぱり訳が生き生きとしていて安心して読める。
椿姫の舞台は19世紀のフランスだけれど、これ今ドラマや映画化しても通用するんじゃないかと思うほど、よくある恋愛のやり取りが現代と同じ感覚で描かれている。
ただ私は19世紀の文化や生活習慣等を全く知らなかったので、逐一調べていたら楽しくて寄り道しまくっていた。
パンチ、ボンボン、食べてみたい。モンマルトル墓地、行ってみたい。19世紀って、遠いような近いような、微妙に手が届きそうな気がする過去。約180年前、フランス革命からそんなに経っていない頃にこのような人々が生きていたのだなぁと思うと不思議だ。
『マノン・レスコー』や大デュマの作品は、映画では見たことがあるけれど小説でも読んでみたい。
驚いたのが、手紙を現代のチャットかのように頻繁にやり取りしていたこと。スマホがなくてもやっていけそう。お金持ちだからかな。馬車は今の車そのもの。
この物語、デュマ・フィスの実話に基づいて書かれているらしいけれど、語り手が入ることで所々辻褄が合わなくなるので、私は「限りなく実話に近い」という体で読んでいた。
最初なかなか主人公アルマンが出てこなくて、やっと出てきたと思ったら墓暴きをしだして度肝を抜かれた(笑)リアルな死体の描写から始まる恋愛小説、斬新。
アルマンの話を聞いていると、早々にマルグリットもアルマンもプライドがめちゃめちゃ高いと気付いた。出会いの場面ではマルグリットの方が失礼で嫌な奴だな、でもアルマンもなかなか・・・と思っていたけれど、読むにつれて完全にアルマンの傲慢さや天邪鬼、計算高く粘着質で陰湿でストーカーで完璧主義・・・みたいなところにイライラしていた(爆笑)
特に夜中ずっとマルグリットの家を見張っていたり、毎日お見舞いに来たことを知らせず具合だけ尋ねたり、周りの人間から情報を集めまくっておいて本人にはそれを知られないように装ったり、読んでいる方はもはやドン引き。
お互い若いし、未熟だから仕方ないとも思うけれど、お似合いだなぁこの二人と思った。マルグリットの方はおそらく女だし立場的に舐められたり危険な目に遭うのを避けるための処世術でもあるのだろうけれど。
やっと両想いになっても問題が山積みで、マルグリットの愛人や、借金や、病気や、アルマンの父や・・・最後まで読んで思ったけど、最初からこの二人の関係は詰みだったと思う。
もしマルグリットが健康で借金もなくアルマン一筋だったとしても、アルマンの父が娼婦という立場を許さないから。娘婿からの婚約破棄とか色々理由を付けていたけれど、結局父が世間体を気にしていた。
父の言葉を聞いて、もしかして毒親?と思っていたら訳者の方も書かれていて確信した。
最後、父と妹は家族の幸せを守れたのかもしれないが、それはアルマンの恋愛を破綻させ、マルグリットの寿命を縮めるほど大事な事だったのか?
息子とその恋人を犠牲にした上での幸せは、果たして長続きするのか。
二人の短い恋人期間の中でもブージヴァルでの半年は、マルグリットにしたら人生のほんの一瞬の安らぎだったのだろうな。あんなに豪華なパリでの生活を送っていても、本当の意味で心が満たされる訳ではないのだ。
これって今の時代でも同じで、見かけは華やかで贅沢で人から羨ましがられる暮らしをしていても、誰かに愛されることや、自分を大切にする幸せには敵わない。
とは言え実際はデュマ・フィスとマリ・デュプレシスは正に金の切れ目が縁の切れ目で別れたようなので、お金と同じくらい人との繋がりや愛情は大切、ということだろう。
この物語、登場人物がすぐ嘘をついたりはぐらかしたりするので、真相が気になってまるでミステリーかのように読んでいた。
特にマルグリットがブージヴァルからいなくなった時は、ハラハラと緊張しながら読んだ。
そしてその後のアルマンの行為、手のひら返しはもう別人のようで、本当に嫌悪感がすごかった(笑)
プライドが爆高なので、自尊心を傷付けられたら仕返ししないと気が済まないんだろうな。やっぱりこういう人と関わるのは怖い。
相手は身分も低い死にかけの病人だということを忘れたのかと思うような仕打ち。少し前まで大切に愛情を注いでいた相手に、自分の気が収まらないからと徹底的にやり返す。これは相手より何より、自分のことが一番大事だと思っている証拠。まぁあの毒親に育てられたのだからそうもなるかと納得した。
マルグリットの最後に会えなかったのも、自業自得としか思えない。
ただこのアルマンだけが唯一、マルグリットの病気を本気で心配し、自分の財産を分け与えてまで一緒になりたいと思っていたのも事実。だからこの二人は色んな意味で釣り合っていたのだ。
マルグリットの日記はもう、最後が分かっているだけにハッピーエンドになりようがなく、読み進めるのも怖かった。
ずっと思っていたけれど、マルグリットの話し方や文体を見ていると、さすが高級娼婦なだけあって上品だし、頭の回転が速いんだろうなと分かる。それもあって貴族達を魅了していたのだなと。
あれだけ私がアルマンに感じていた怒りが気付いたらスッと消えて清らかな気持ちになっていた。
旅先のアルマンから手紙が届いたことは少し救われる。あんな別れ方のままで死ぬことがなくて良かった。あとはジュリー・デュプラという心優しい友人がいたことも。
ここで一番最初に読んだマルグリットの手紙の意味が全部分かって、涙なしでは読めない。
壮絶な最期は目を背けたくなるほど臨場感がありぞっとした。
結核って今は治る病気だと思うと何とも切なく残念な気持ちになる。間違った治療法で更に寿命を縮めたであろうことも想像がつく。
デュマ・フィスは娼婦について「悪徳」と書いてはいるけれど、憐れに思ったり同情するような描写もある。
たとえキリスト教の教え故であったとしても、娼婦に限らず立場の弱い人々に対して、無関心ではなかった。
生まれや育ちで身分が決められる時代、彼自身も非嫡出子でいじめられたそうなので、その気持ちが分かるのだろう。
ものすごい格差社会だったであろうこの時代に、娼婦の内情を描くような作品を書いて、それが現在も読めることが、とても尊い。
20250605
Posted by ブクログ
悲恋です。
主役のアルマンと高級娼婦のマルグリットが出会い、激しく燃え上がる恋愛をし、一時的に穏やかな生活を送り、家柄の関係で引き裂かれ、生きている間に二度と再会できなかったお話です。
妹の婚約者であり、結婚相手が「彼らが仲たがいしないのならば妹とは結婚しない(=親族に娼婦がいるような家の娘とは婚姻しない)」と言い出したことが彼らの関係に終止符をうつ結果を生み出したところが憎らしいです。実質手を下したのはアルマンの父親でマルグリットが真実アルマンを愛していたこと、彼女が娼婦を生業にした過去があったとしても今は、たただひとりの男を愛する善良な女でしかないことを理解しても「別れてくれ」としか言えなかった現実にやるせなさを感じました。
マルグリットはアルマンと関係を解消した後、彼からひどい仕打ちを受けますが、それでも彼を憎むこともできなければ忘れられることもできません。病に侵されベッドの上でひとり、昼夜襲いくる息もできないほどの壮絶な苦しみを味わいながら再び愛した人が来てくれることを期待し待ち続けながら…この世を旅立ちます。
物語の後半は、このマルグリットの日記を呈した文章なのですが悲しい気持ちでいっぱいになり泣きながら読みました。
あまりにも切ない男と女の話でした。