あらすじ
この国の人間関係は二つしかない。密告しないか、するか──。
第18回大藪春彦賞受賞作! 革命と音楽が紡ぎだす歴史エンターテイメント
バブル期の日本を離れ、ピアノに打ち込むために東ドイツのドレスデンに留学した眞山柊史。
留学先の音楽大学には、個性豊かな才能たちが溢れていた。
中でも学内の誰もが認める二人の天才が──
正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ。
奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ。
ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。
その一方で、自分の音を求めてあがく眞山は、ある日、教会で啓示のようなバッハに出会う。
演奏者は、美貌のオルガン奏者・クリスタ。
彼女は、国家保安省(シュタージ)の監視対象者だった……。
冷戦下の東ドイツで、眞山は音楽に真摯に向き合いながらも、クリスタの存在を通じて、革命に巻き込まれていく。
ベルリンの壁崩壊直前の冷戦下の東ドイツを舞台に一人の音楽家の成長を描いた歴史エンターテイメント。
圧巻の音楽描写も大きな魅力!
本作を彩る音楽は……ラフマニノフ 絵画的練習曲『音の絵』バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻 『マタイ受難曲』リスト『前奏曲(レ・プレリュード)』
ラインベルガー オルガンソナタ11番第2楽章カンティレーナ ショパン スケルツォ3番 ブロッホ『バール・シェム』より第2番「ニーグン」 フォーレ『エレジー』 ……etc.
解説・朝井リョウ
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Posted by ブクログ
第二次世界大戦後、ドイツ内ソ連占領地域に建国されたドイツ民主共和国(DDR)。秘密警察である国家保安省(シュタージ)による国民の監視が行われ、言論や表現の自由が制限されていた。多くのDDR国民は自由が保障されたアメリカ・イギリス・フランス戦領域のドイツ連邦共和国(西ドイツ)に憧れ、亡命を試みる者や改革を目指す者もいた。
本作の主人公である日本人音大生・眞山柊史は純粋な音を求めてDDRの音楽大学に留学。自由な感性と技巧で他を圧倒するバイオリン奏者と、正反対に楽譜に忠実に音楽を再現するバイオリン奏者、そして美しい音を奏でるオルガン奏者に出会う。
自由を求めるものはその志を砕かれても立ち上がる。監視国家であるDDRと国の誇りであり自由であるべき音楽。このふたつの物語の軸が混じり合ってつながるラストがとても良かった。
Posted by ブクログ
ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツ、そしてクラシック音楽と、関心のある設定だったにも関わらず、読み始めはなかなか乗りきらず、断念しようかと何度も考えた。
序盤で主人公が「もともとラフマニノフはあまり好きではない」(P22)と、好きではない理由も含めて述べていてしょんぼりしてしまったというのもあるかもしれない。
自分の一番好きな作曲家について、そんなふうに言われるとは思っていなかったので……。
「第三章:監視者」のあたりから没頭できるようになり、特にピクニック事件あたりの展開にはハラハラさせられながら壁崩壊の瞬間を楽しみにしていたが、正直、これで終わり!?というラストだった。
『革命前夜』というタイトルだからそれはそうなのかもしれないが、不完全燃焼な感じがあった。
設定は私好みのはずなのに、心を揺さぶるものがなかった。
心をぐちゃぐちゃにされるあの感覚が、この小説では得られなかった。
ただこれは、この小説が悪いというわけではなく、今の私が欲しているものではなかったという、タイミングのミスマッチが起きてしまっただけのことなのだと思う。
素晴らしい作品であることは間違いない。
作者自身が経験していない世界をこんなにも密に描けるのか、という点は非常に驚いた。
東ドイツのヒリヒリした空気感、緊張感が伝わってきて、まるで当時の東ドイツを実際に経験しているかのような心地になった。
Posted by ブクログ
好きな曲とたまたま同じ題名で表紙に引かれ買ってみた。最初は少し難しい話なのかと期待していたものの宗教的な考えや今を考えさせられるような日本の外の様子がとても細かくそしてリアルに書かれていて少し見くびったなと感じた。少し残念だと感じてしまったのは恋愛要素だと思う。国境を越えてだの世界平和だの示唆しているのかは知らないがやはり女と男なのだと嫌気がさす。私的な理由だがそれも含めて星4の価値はあるだろう。過去の話を見るのはとても好きなので面白かった。
Posted by ブクログ
この本で描かれる東ドイツで張り巡らされていたシュタージとIMによる監視システムは、ドイツ人の国民性をよく反映していると思いますが、日本人も同じ特性を持っているため身近なものとして感じました。映画、GOOD BYE , LENIN! を見た時は、社会主義国家東ドイツを信じて疑わず理想を抱いていたご婦人が出てきたため、大半が体制を盲目的に信じていたのではと思っていたのですが、反体制派から見たベルリンの壁崩壊直前の東ドイツはまさに動乱の最中で、如何に激動の渦であったのかが紙面上から伝わってきます。そして、東ドイツ政府が如何に望みのない限界体制であったのかがありありと描かれています。音楽小説のつもりで読んでいたのですが、いつのまにか歴史小説となり、サスペンス、人間模様までにも幅を利かせているため、目まぐるしいテンポの良い展開は読みやすかったです。ただ、要素が多いため、見どころは見失いがちでした。主人公のシュウは芸術家としては半人前で誰かに反発することで初めて自分を持つことができるという特性を持っています。シュウの内面の成長とピアニストとしての成長の繋がりを個人的にはもう少し見たかったです。
アールマイティな優等生のような作品であると感じました。