あらすじ
「かがわまほせんせいのえがだいすきです。ぼくのことをすきになってくださいね」佑樹は五歳の時、大好きだった絵本の作者に手紙を書き、彼女から来た返信を今もまだ大切にとっていた。父のいない子として生まれた佑樹は、不思議な懐の深さを持つ魅力的な少年に成長していた。人を想い慈しむ気持ちが、絡まった過去の秘密をゆっくりと溶かす。命と命の邂逅へと繋がる、美しい運命の糸の物語。
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幸せな主人公
読む人によって誰が主人公になるかは、変わってくるのだろう。
タイトルを見る限りそれは直樹ではないような気がするが。
社会と親族の荒波を乗り越えてきた直樹の実力と人を見抜く力は凄いのだが、平岩によってこの登場人物の多くは、幸せと成功を掴む。なんという大きな人間であろうか。
そして、それによって奇しくも自分自身か最高の人生へと昇華されていく。
彼にとっては幼くして亡くなった息子の分身でもある佑樹と2人で歩く至高のひととき。
自身が生涯をかけて取り組んだ仕事を、はからずも1番認めてくれた佑樹との会話。そのシーンがしっかりと読者には見えたのではないだろうか。
それにしても、直樹はなんと幸せな人なのだろう。まさに右腕と言っても過言ではない信頼できる平岩を部下としてもったこと。芯の強い奥さんと結婚したこと。肝の座った聡明な海歩子と出会えたこと。夏帆という賢い娘を持てたこと。美しい異母兄弟ふみ弥の存在。そして最大の贈り物''佑樹'を授かったこと。
どういう形で生を受けたとしても、関わる全ての人を幸せにしてしまう彼は、まさにこの本の主人公!!
そして、読者である私の今後の人生にとっても心の主人公。
愛情をいっぱい受けて育った彼が、まるで恩返しのように周囲に愛情を降り注ぐ。自身でも気がつかないうちに……。
愛の凄さを、彼は証明しているかのようだ。
愛おしい彼の存在は、描かれる富山の美しい風景(描写)によって更に輝きを増す。読者は誰もがここを訪れたくなる。そこで佑樹を感じたくなるのだ。
親子が奇しくも好んだ西入善駅にも私は立ってみたい。
そして物語の核となる星月夜 '愛本橋' も見てみたい。
富山の新鮮な空気を吸い込んで、未完成のこの物語の続きを自分なりに創作してみたい。含蓄のあるあのキーワードを口ずさみながら。