あらすじ
生きることが、それがしの覚悟でござる――。俊英と謳われた豊後・羽根藩(うねはん)の伊吹櫂蔵(いぶきかいぞう)は、狷介さゆえに役目をしくじりお役御免、今や〈襤褸蔵〉(ぼろぞう)と呼ばれる無頼暮らし。ある日、家督を譲った弟が切腹。遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因と知る。前日、何事かを伝えにきた弟を無下に追い返していた櫂蔵は、死の際まで己を苛む。直後、なぜか藩から弟と同じ新田開発奉行並として出仕を促された櫂蔵は、弟の無念を晴らすべく城に上がる決意を固める……。落ちた花を再び咲かすことはできるのか? 『蜩ノ記』(ひぐらしのき)の感動から二年。〈再起〉を描く、羽根藩シリーズ第2弾!
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Posted by ブクログ
落ちた花は二度と咲かないとひとは言う。だが、もう一度、花を咲かせようと櫂蔵は思う。そして、咲いたとすれば、わが胸の奥深くに咲くお芳の花でございます。わたしが生きてる限りは、お芳の花は枯れずに咲き続けることでありましょう。
そのために生きるのです。ひとはおのれの思いのみ生きるのではなく、ひとの思いも生きるのだと。それゆえ、落ちた花はおのれをいとおしんでくれたひとの胸の中に咲くのだと存じます。
お芳と弟の新五郎を想い、仇を取るために紛争する櫂蔵。最後は、潮鳴りが、いとおしい者の囁きがきこえる。
人を想い生きる事は、どんな事があらうが、生き抜かねばならない。そんなふうに感じた小説でした。
Posted by ブクログ
「落ちた花を再び咲かせる」、まさに俺の一番好きなテーマ、人生再生の物語である。
襤褸蔵と漁師にバカにされるまで落ちた武士、櫂蔵
男に裏切られ、絶望の末娼婦となった、お芳
三井越後屋の大番頭から放浪の俳人となった咲庵
借金漬けでどうしようもなく経済破綻している羽根藩
登場人物も舞台も堕してしまったところからの再生を志し、あがいていくのである。その様をみて「他人ごとではない、俺だってあがいてみせるさ」と読者を勇気づける、そういう小説が楽しくないわけがない。
実は、この小説で一番魅力的だったのは、家は堕ちても、心根は堕ちず孤高を保った主人公の継母「染子」ではないだろうか。武家の妻としての矜持を抱え込むように持ち、その生きざまを貫き通す。駄目なものは駄目、しかし良いと思ったものや、見直すべき価値感があれば、自分の中で修正し認め受け入れ育んでいく。その凛とした生き様は、一服の清涼剤のごとく読んでいて気持ちよかった。