【感想・ネタバレ】日米開戦の正体 なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのかのレビュー

あらすじ

それは日露戦争勝利の時から運命付けられていた?!……。なぜ、日本は勝てる見込みのない戦いを仕掛けたのか? 「史上最悪の愚策」―真珠湾攻撃はどのように決断されたのか? いつ、開戦回避が不可能となったのか? ベストセラー『戦後史の正体』の著者(元外務省国際情報局長)が、膨大な資料と当時の人々の証言から解き明かした歴史の真相!この教訓が岐路に立つ現代日本に何をもたらすのか。戦後70年特別企画、話題の書を同時電子化!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本作のテーマは「日米開戦」「真珠湾攻撃」。

若者から面倒臭っ、古臭っ、みたいな反応がありそうです。ただし、氏のテーマ設定の背景は深遠です。『日本は今、「あのとき」と同じ歴史的曲がり角にいます』、と冒頭で述べます。

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今、TPP、原発はじめエネルギー問題、消費税増税、国の借金等問題がありながら、正論が叩き潰され、言論が密かに封殺されるような現代社会。

今なら無謀な戦いだと理解できる約80年前にも、正論が覆され、自己の保身から統治責任を放棄した政治家や軍人たち、そして現状をあおったマスコミや論壇があった、という話です。

現代を危機と捉えるものの問題には直接触れず、逆に80年前の状況を渉猟し、多くの歴史上の人物に当時を語らせることにより、どのようにして日本が破滅の道へたどったかを示します。正確には、1941年の真珠湾攻撃から遡り、満州事変、さらには日露戦争辺りまで事象の連関を探ります。
当然ながら、これは反面教師的効果を狙っています。

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まず、日本は流れを読めなかった。

俗に、第二次世界大戦は、欧米に「追い込まれた」上で日本は突入したと言われることがあります。一部には正しいと思います。自国が不平等条約で酷い目に遭い、過剰適応の末、同様の事を韓国や中国でも展開しようとしたのかもしれません。また兄貴分たる欧米のやり方を踏襲しただけということなのかもしれません。

ところが辛亥革命以降、民族自決の萌芽は顕在化しつつあったわけです。中国を狙う米国すら、その民族意識や反発・またそれと対峙するコストについては勘案できていた節があるようです。日本にはそこまで読む力はなかったようです。で、石橋湛山など、こうした流れを読める言論人は世間から排斥されてしまったわけです。

現代で正論を言う人が排斥されていることはないでしょうか?

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次にお偉方の監督責任です。

五・一五事件や二・二六事件は一般に若手将校の先走りと解されていると思います。ひいては満州国設立の差し金たる関東軍の横暴です。で、そういう暴挙に対して、偉い人たちは何をやっていたのかって思いませんか。

結論から言えば、傍観・責任放棄です。ただいるだけ。半藤一利氏の著作からの引用でこうあります。

『二・二六事件はひと言でいえば「恐怖の梃子」ですよ。(略)何かといえば陸軍の上に立つ人は「わたしはいいが、部下の方がどうでるか」と脅すんです。(『日米開戦の正体』P.489)』

今であればどうでしょう? 「いや部下のマネジメントこそあなたの仕事でしょう? できないんだったらとっとと辞めてください」って言いたくありませんか? もちろんこの場合は文字通り拳銃を持った部下であり、御しがたいところはあろうかと思います。内心で部下の横暴を応援していた向きも多かったと思います。ただ、政治家・軍人にはあまりにマネジメントに適さない人が多かったと思えてなりません。
現状の政界・財界はどうでしょうか。

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これ以外にも、テロ(武力)をもとにした言論封殺は興味深かったです。辛くも生き延びた幣原喜重郎氏や、どう見ても陰謀の下に殺害されたとしか思えない佐分利中国公使の話など。

また、我が身を守るために世間と迎合した文学人(斎藤茂吉、山岡荘八、川端康成等多数)の責任問題など、有名人・芸能人の立場の厳しさを突き付けられた気がします。もちろん、メディアや有名人の発言をあるがまま嬉々として吸収してしまう民度の低さは言わずもがなです。

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ということで孫崎氏による戦前戦中史についての作品でした。

多くの軍人・政治家・外交官の発言から、当時の空気を再構成しています。感じ取れるのは、近視眼的(よく言えば?戦略より戦術)、上層部の責任放棄、長いものに巻かれろ主義、異論を許さない不寛容、でしょうか。

今、こうした国民性に変化が無いとすれば、やはり同類同規模の悲劇が再発する恐れがあるのかもしれません。

本作、戦中史に興味がある方、外交史に興味のある方、政治に興味のある方、現代日本はおかしいんじゃないかと感じる方、等々にはお勧めできる作品かと思います。

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2023年07月15日

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