あらすじ
〈第10回 中央公論文芸賞受賞作〉
社運を賭け、巨大ビジネスとなる惑星探査用の高純度人工水晶開発のためマザークリスタルの買い付けを行う山峡ドルジェ社長・藤岡。
インドのある町から産出された高品質の種水晶を求め現地に向かう。
宿泊所で娼婦として遣わされた少女ロサ。彼女は類稀なる知力を持つ不思議な存在で、更に以前地方の村で目撃した「生き神」だった。
鉱山からの帰途に遭難した藤岡はロサの能力に助けられることになる。
ロサを通訳兼案内人として村人との交渉に挑む藤岡だが、商業倫理や契約概念のない先住民相手のビジネスに悪戦苦闘する。
直面するのは、貧富の格差、男尊女卑、中央と地方の隔たり、資本と搾取の構造──まさに世界の縮図というべき過酷な現実だった。
鉱物ビジネスを巡る命を懸けた駆け引き。
古き因習と最先端ビジネスの狭間で蠢く巨大国家の闇に切り込む、超弩級のビジネスエンタメ!
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Posted by ブクログ
本書を読んで『神の座-ゴサインタン』の淑子の不可解さが、ようやく理解出来た。
この作品に登場するロサも「生き神/処女神」だった経験があり、ロサが語る生き神の生に衝撃を受けた。
彼女らは「生き神/処女神」として選ばれると、幼い頃から、現実の世界と隔絶され、祭文を覚える等以外は、人としての教育は何一つ受けず、その期間をカミサマとして奉り上げられ、身分ある大人たちさえ額づく環境で過ごす。しかし、初経がくれば「生き神」の座を降ろされ、突然に現世に放り出されてしまう。
人とどう喋るかも知らず、会話が出来ないし、水汲みなど、日々の労働で直ぐに疲れてしまう。「人間として」生きる術を知らないのだ。
ロサは才気煥発な女性で、「自由になりたい」という意志を、手段を問わずに求めていくが、淑子は「生き神」だった時代で、人生が止まってしまったのだろうと思う。
篠田節子氏の世界に惹き込まれて、もはやシノダー(笑)になってしまったが、本作もスケールの大きな構成で、登場人物の味わいある描写、そしてインドという国の匂いをむんむんと立ち昇らせて進んでいくストーリーの鮮やかさに、読書の喜びを存分に味わった。