あらすじ
スーパーの保安責任者の男と万引き犯の女。偶然の出会いは神の思し召しか、悪魔の罠か? ミステリーの限界を超えた“現代の神話”
スーパーの保安責任者・平田誠は、ある日、店で万引きを働いた末永ますみを捕まえた。いつもは情け容赦なく警察へ引き渡す平田だったが、免許証の生年月日を見て気が変わった。昭和60年生まれ。それは平田にとって特別な意味があった。平田はますみを見逃すことにした。これがきっかけで二人に交流が生まれ、やがて平田は己の身の上をますみに語り始める――。
偶然の出会いは神の思し召しか、悪魔の罠か?
二人を結ぶ運命の糸は、思いもよらない結末へと繋がっていた!トリックなし。しかし、ラストで世界が反転する!
“絶望”と“救済”のミステリー。
解説・榎本正樹
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
流石の歌野ミステリー!
どんでん返しからのどんでん返しで引き込まれる作品だった。
それはそうと、いつかは終わる命。そして、それが不意にきてしまうかもしれない。
生きられている事に感謝して、自分の人生をしっかり歩んでいこう。
そう思えた作品でもあった。
Posted by ブクログ
”ミステリとは、トリックの奇抜さや、謎解きの秀逸さや、結末の意外性だけで評価されるべきものではない。人の心の不可解さ、人間存在の不思議さと神秘さの追求こそが最大のミステリを規定するものであろう
その意味において本書は、最大最高のミステリと言えるのである”
-巻末の解説より
スーパーで保安責任者として働きこの本の主人公である平田。
平田が働くスーパーで万引きをした末永ますみ。
平田は最初普通のサラリーマンとして描かれていくが、末永との出会いによって話が
進んでいく毎に彼のもつ様々な事情が明らかになっていく。
末永ますみは、自分の境遇はとても悲惨で、
自分でも言っているように終始"バカ"として描かれているが、
平田から受ける行為(施し)に対してはちゃんと自分なりの良識を持って断ろうとしたり、
結局受けることになっても感謝を伝えたりと、バカであるが悪い人ではない。
そんな彼女が平田と出会い、そして彼の境遇を知っていくうちに彼女の中で芽生えていった
であろう想いがこの本のポイントなのはでと思います。
最後に"バカ"である彼女が一生懸命に考えとった行動、それは彼女の本心で、
そしてそれは自分の思った通りだったのか、そうではなかったのか…
以下ネタバレ含む
解説ではますみの携帯電話のメールの文章にある
"「ナカちゃん、待ってて。そんなに遠くないうちに会えるから。---」"
という所でますみが真実を書いたとあり、また彼女は物語の結末において「救い主」
として聖なる存在へと転生するとあります。
私も読んでいて同じように思いましたが、しかし"そんなに遠くないうち"は
今ではないもう少し先のことだと思えば死までは覚悟していないのではとも考えられます。
物語ではメールを読んだ平田が思惑通り?に勘違いしてますみを殺してしまう。
それも果たしてますみ自身が平田を救ってあげられたのかどうかもやはりわからない。
それで一時でも平田の心は晴れたのだとしても小瀬木が知った事実に似たようなことは、
平田自身も考えつくでしょう。
もしそうなら、平田が事実を語らないのは、母娘の仇をとってあとは死を待つだけ
という意味だけではなく、事後、ますみへの想いに気付いた彼がその贖罪として
刑を受けようしているからなのだとも考えられます。
平田がむきになって語ろうとしない部分や、小瀬木の「平田さん、そうなのでしょう?」
などからも読み取れます。
もしそうならますみの死は一見意味のない物にすら思えてしまい、とてもせつない…
ますみが命を賭した行動、それはちゃんと平田を救えたのだとただただ思うばかりです。
Posted by ブクログ
スーパーの保安責任者である主人公は万引き犯の女性を捕まえた。しかし、女性が交通事故で死んだ娘と同じ年の生まれだと知り、赦してしまう。娘と重ねてその女性に手を焼いているうちに段々と情が移ってしまう。ある日、女性の携帯を見た主人公は娘を轢いたのはその女性だと知り、殺害してしまう。しかし、それは女性が主人公の怨みを晴らすための嘘だった。
最初から最後までずっと惹き込まれる文章だった。しかし、結末で全てが明かされる訳ではなく、若干の読者の思案が要求される。
Posted by ブクログ
一人娘の春夏を轢き逃げで殺され、妻の英理子もそれがもとで自殺、本人も肺癌にかかり生きる希望が消えかかっている平田誠55歳、スーパーの保安責任者。スーパーで万引きし、(平田誠の娘と同年生まれということで)何も訊かれずに無罪放免された末永ますみ24歳。この2人が織りなす物語。平田の闇を聞かされ、平田に生き続けて欲しいと願ったますみが考えたことは。そして、平田のとった行動は。何とも切ないラストですが、後味如何に関わらず、記憶に残る小説です。歌野晶午「春から夏、やがて冬」、2011.10刊行、2014.6文庫。
Posted by ブクログ
哀しかった。この作者は初めてでしたが色んな
評にどんでん返し的なお話が特徴とあったので
読み始めましたが直木賞候補になるだけあり
1人娘を持つ者としては考えさせられるような
お話でした。ラストのますみの告白(?)は
真偽がどうであれ誰も救われないという所があり
切ないものでした。ただ事の真相を調べる医師が
ますみは殺される事を覚悟であのメールを書いた
と有りましたが、首を絞められていた時のますみの
目には「どうして」という驚きがあったと文中に
有り、真相は結局何も分からないまま終わります。
もしメールが虚偽ならばますみに死を覚悟させて
まで告白文を作らせた動機は一体何だったのでしょうか?考えれば考えるほど哀しいお話でした。
Posted by ブクログ
単純におもしろかった。
読み進めていく中で、彼女が犯人なんてことあり得る⁉︎って半信半疑。
可能性はある。
でも、そんな偶然あるのだろうか。
最後のオチは、ある意味で納得のいくものだった。
というか、女の覚悟に戦慄する。
娘を事故で亡くした男と、娘と同い年の女との出会いは万引き犯と保安員から始まる。
男は妻も自殺で亡くしていて、実は自分も肺癌で死を覚悟している。
女はDVの彼氏やら、不幸な生い立ちやらで生きることに精一杯。
2人の出会いから、心を通い合わせる流れは、磁石が引き合うようなものだったかもしれない。
もちろん性的なものは一切ない。
ネタバレだけど、女は最後、男に絞め殺される。
それは娘の轢き逃げの犯人は自分だと告げたから。
しかも告げ方が巧妙。
単に本人の前で言うのでは、こんな結果にはなっていなかった。
あくまで、彼が偶然、彼女の秘密を知ってしまったという小細工が、もし女が死も覚悟してのことであれば、すごすぎる。
彼は彼女の嘘を見破れなかった。
そして、犯人を葬ったという満足感を得られた。死ぬ前に。満足感ではないかな。罪悪感が軽減されたというのかな。
彼女が死を覚悟していたのかどうか。
見方によっては、アンハッピーエンド。
最悪な終わり方。
私は好きだなって思う。
報われないけれど、最初に彼が彼女にしたこと、それに対して、彼女が彼に残したもの。
なんだか壮絶でした。
Posted by ブクログ
平田誠
スーパー「ベンキョードー吉浦上町店」まの保安責任者。
末永ますみ
万引き犯。二十代。
丸橋
万引き犯。初老の男。
リョウ
山岸亮太。ますみの彼氏。
中島勢津子
スーパーの従業員。
三村柚那
スーパーの従業員。十七で出産し、十八で結婚、二十歳で第二子をもうけ、二十二歳の現在、第三子を妊娠中。
平田英理子
平田の妻。自殺した。
平田春夏
車に轢かれて十七歳で死んだ。平田の娘。
小瀬木
医者。平田の高校の後輩。
塚本
スーパーの店長。
森泉麻尋
平田の姪。
森泉三千代
英理子の妹。麻尋が四つの時に離婚し、女手一つで家庭を守っている。
ナカちゃん
Posted by ブクログ
誰も幸せにならないやつ…
人を想う心が招いた結末がこれでいいのか。
でも最初の不幸がなければこの心にも気づかなかったわけで。
でも読後感が悪いという訳では決してなく、平田という人物がどのような人間なのか、それを探っているうちに結末に到達した。
いや、でも辛い。
Posted by ブクログ
歌野晶午はいくつか読んだが、そのなかでもこれはあんまり面白くなかった。楽しめなかった。
キャラ造形や展開は良いんだけど、詰めの甘さというか、そうなる?エモいのか?という疑問がわいてしまってダメだった。
死んだ娘と同い年の人間に甘くなる人間臭さや、事故まで仕事人間、事故後は妻を支え、妻を失ってはポッキリ折れて、肺癌でもう生きる気力も無い主人公が得た気力が復讐。しかしそれは仕組まれたもので偽りで、助けたかった彼女が犯人だなんて主人公にとってはショックだろうなあとしか。余計な重圧じゃなかったのかと自分は思った。
そもそも、ますみの頭の回らなさを描いておきながら主人公を騙せる話を創作出来るのがフィクションすぎてダメだった。真実が混ざっていても。
最後の最後にますみの行動のわけを医者目線で語るのもちょっとな。話の構造的に第三者は必須だけど、唐突感がある。
人間ドラマとしての料理の素材は良いし過程も悪くないけど、芯のとこがダメだった。そこを忘れるくらいの強烈な面白さは感じ取れなかった。同作者の他の本のほうが好きだなって感じ。