【感想・ネタバレ】妊娠小説のレビュー

あらすじ

『舞姫』から『風の歌を聴け』まで、望まない妊娠を扱った一大小説ジャンルが存在している──意表をついたネーミングと分析で、一大センセーションを巻き起こした処女評論。待望の文庫化。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

通勤電車の中で読んでいたが、どうしてもニヤニヤしてしまい、困った。
特にブックカバーもしていなかったので、このタイトルとニヤニヤオヤジの顔を見比べた乗客がいたら、さぞかし気味悪かったろう。

もちろん斎藤美奈子の本には時々触れていたが。
先日来春樹の作品群を拾い返す中で、春樹って結局中絶手術後自殺した女の子のことばかり思い返しているんだろうなあ、んで聞きかじったところによれば中絶手術ってここ数十年の話(脱線するが水子供養の歴史ってすごく短い)らしい、
など考えるうち、石原千秋「謎とき村上春樹」で本書に言及されており、猛烈に読みたくなった次第。読んでよかった。
気になっていた優生保護法の歴史と伴走するように文学史からピックアップされており、現在の興味にもきれいに合致していて、大変美味しかった。

とはいえフェミニズムの系譜だけに置くのは、ひどくもったいない本。(ちなみにここ1年ほどで流行っているチョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」の訳者斎藤真理子さんは斎藤美奈子の妹らしい。)
何よりも切れ味、皮肉、毒、軽妙さ、意地悪さ、つまり文体の芸でもあるのだ。

本書で言及された小説の3分の1くらいは読んだことがあるので、余計面白い。
鴎外ー川端ー三島ー大江ー春樹ー三田誠広ー辻仁成、と高校生前後に読んだ作家が、こんなふうに見えてくるとは。
自分の読書歴そのものも違って見えてきて、それが清々しい。

 はじめに――妊娠小説とはなにか―― 望まない妊娠を搭載。妊娠を標準装備。定義は途中で変わるかもしれない。

 Ⅰ 妊娠小説のあゆみ
 妊娠小説のあけぼの 堕胎罪の時代。第一次妊娠小説ブーム。「舞姫」のイメージ戦略。「新生」の陰謀。操作されたテキスト。妊娠の発見。
 本格妊娠小説の出現 52年体制の成立。第2次妊娠小説ブーム。「太陽の季節」のバランス感覚。「ヒロイン殺し」の真相。堕胎の再編=妊娠中絶の発見。
 純妊娠小説の台頭 花開く妊娠小説文化。第3次妊娠小説ブーと性別役割分業の促進。「闇のなかの祝祭」の思わせぶり。赤ん坊の生まれない日」のストレートパンチ。外圧とミカドの家と60年優保。70年優保とウーマンリブ。妊娠イデオロギーの導入。僕小説の興隆。
 変わりゆく妊娠小説 80年優保と水子寺。「風の歌を聴け」のトリック。「テニスボーイの憂鬱」の余剰価値。批評的妊娠小説の時代。「桃尻娘」の教訓。

 Ⅱ 妊娠小説のしくみ
 受胎告知の様式 妊娠小説との出会い。メンズ系妊娠小説の受胎告知。レディス系妊娠小説の受胎告知。受胎告知シーンの役割。
 妊娠効果の基礎知識 マイナスの物語外妊娠効果。プラスの物語外妊娠効果。物語内妊娠効果。
 ゲームの展開 スコアボード化の方法。終盤一発ぶちかまし型。中盤盛り上げ型。序盤先制逃げきり型。全篇お祭り型。
 妊娠濃度による分類 妊娠濃度の測り方。妊娠濃度2=妊娠スパイス級。妊娠濃度3~5=妊娠ミート級。妊娠濃度3=妊娠シチュー級。妊娠濃度5=妊娠ステーキ級。妊娠濃度4=妊娠ハンバーグ級。妊娠濃度1=妊娠パセリ級。妊娠濃度?=妊娠オイル級。妊娠効果による等級分類。

 Ⅲ 妊娠小説のなかみ 
 妊娠物語の類型学 メンズ系妊娠小説の物語類型【青年打撃譚】【浮気男疲労譚】【恋愛挫折譚】【中絶疑惑譚】、レディス系妊娠小説の物語類型【おぼこ娘自立譚】【母子家庭創成譚】【妊娠無情譚】【妊娠誤謬譚】。妊娠物語の法則。
 愛と幻想の選択 生みたがる女たち【許可申請型】【出産宣言型】【責任押しつけ型】。生みたがらぬ女たち【親との確執型】【愛なき性交型】。生みたがる男・生みたがらぬ男【現状維持型】【目的達成型】【現状打破型】【意思不明瞭型】。語り手たちの誤解【信頼できない語り手その1】【信頼できない語り手その2】。「生みたがる女」の謎解き。
 アニミズムの帝国 恐怖と絶望の産婦人科医院【魔物のような医者】【とんでもない看護婦】【怪物のような女医】【墓場のごとき医院】【悶絶する女】。胎児のイリュージョン【映像的な胎児】【音響的な胎児】【文学的な嬰児】【カルトな隠喩】【ポップな隠喩】。進化論という呪術。
 避妊をめぐる冒険 避妊が存在しない世界だった(異界型)。避妊を実行しなかった(避妊非実行型)。正しい避妊の知識を持っていなかった(知識不足型)。正しく避妊を実行的なかった(運用失敗型)。避妊小説の避妊感覚。

 おわりに――妊娠小説はなぜ書かれるか―― 生産者の側に強い動機づけがあったこと。消費者の側に潜在的な需要があったこと。妊娠中絶にまつわるこの国固有の文化的土壌があったこと。

 本書で取り上げた主な「妊娠小説」合計45、プラスアルファ。
 ■戦前 森鴎外「舞姫」小栗風葉「青春」鈴木三重吉「子猫」長塚節「隣室の客」水野葉舟「石塊」島崎藤村「新生」
 ■1950年代 川端康成「虹いくたび」「山の音」石川達三「薔薇と荊の畦道」石原慎太郎「太陽の季節」三島由紀夫「美徳のよろめき」大江健三郎「死者の奢り」「われらの時代」
 ■1960年代 大江健三郎「見るまえに跳べ」倉橋由美子「パルタイ」吉行淳之介「闇のなかの祝祭」水上勉「越後つついし親不知」「越前竹人形」三島由紀夫「美しい星」柴田翔「されどわれらが日々――」開高健「青い月曜日」石川達三「青春の蹉跌」
 ■1970年代 吉行淳之介「暗室」渡辺淳一「野わけ」「北都物語」萩原葉子「蕁麻の家」三田誠広「赤ん坊の生まれない日」中沢けい「海を感じる時」津島佑子「寵児」村上春樹「風の歌を聴け」
 ■1980-90年代 川西蘭「はじまりは朝」村松友視「サイゴン・ティをもう一度」立松和平「春雷」橋本治「その後の仁義なき桃尻娘」「帰ってきた桃尻娘」森瑤子「一種、ハッピーエンド」林真理子「ビデオパーティー」村上龍「テニスボーイの憂鬱」五木寛之「哀しみの女」原田宗典「雑司ヶ谷へ」高橋三千綱「掠奪の初夏」小川洋子「揚羽蝶が壊れる時」佐藤正午「個人教授」辻仁成「クラウディ」丸谷才一「女ざかり」

 あとがき
 解説 金井景子

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2019年06月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

結論もいいけど、分析の過程がいちいちおもしろい。

明治以降に著された中で、
いわゆる『望まない妊娠』を扱ったものを纏めて分析・批評した本。
有名無名のいろんな作品が出てくるが、妊娠に関わる記述のみピックアップしていて、すごくドライに扱っているので妊娠に対して神秘性とか求めてる人はイラっとくるかも。
妊娠小説って基本的に男の人の優位性が滲み出るもんなのだと著者は言いたいのだと思う。

なお、最後に取り扱ったお話一覧が付いているので、読みたくなった人には便利。

いわゆる、文学の中で扱われる妊娠というのは、
(男性に取って都合の良い)道徳を説くのにとても便利というのが、
触れた小説を通して実感が湧く結論だった。

0
2011年04月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小説における女性の妊娠を描いて秀逸な作品。森鴎外の舞姫でエリスが最後は「はかなくなりぬ」で、終わっているが、随分都合良いなと思った記憶がある。

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2011年03月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

筆者書き下ろし渾身の妊娠小説!使用した機材は何✖何のポストイット あえて漢語を用いるなら懐妊である。 ちなみに漢字を読めない民草のためにこれを大和言葉に意訳するとおめでたである。力点 学校の成果 望まない妊娠史
黎明期 明治政府のイッパツ目が堕胎の禁止。 列強のすうぜいだった。 ハタと膝を打つ。 外部観察で終わる手法か。鈴木三重吉 長塚節 土っぽい農民文学者
文芸職人ギルド 近代的自我というテクニカルターム 
意味深長だ。 ユングフロイリヒカト 中絶と堕胎は意味が異なる官製用語 犠牲者と混血化と労働力化が育児制限に キラ星のごとく
文化と鈍感 受容から参加へ 系譜を見る 刺激剤よりか劇薬 ハイブラウ   ヘミングウェイもかくやの臨場感 おかぶを奪われる ビューフォート風力階級表 アガサクリスティ  アクロイド殺人事件

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2017年09月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

<わかったこと>
・小説における妊娠は話を盛り上げるためのイベントの一つ
・小説における妊娠は女の武器
・作者は登場人物を妊娠させるために苦労する
・小説における妊娠はドラマチックで生と死とか愛ゆえの離別とかのお題目に結びつけやすいしその割に手軽なので作者にとっては重宝する
・妊娠小説のパターンは少ない
 →なぜか? 妊娠という現象自体に結果や期間の制限があるから


<思ったこと>
・やっぱ舞姫はうまく出来てる
・妊娠小説はパターンが少ないので妊娠ばかりを中心に添える小説は陳腐化する傾向にある
・妊娠は味付け程度に使う小説のほうが面白いかもしれない

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2015年07月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この本が出た当時、話題になっていたのはわかっていたが、タイトルから伊藤比呂美のような世界観の小説かと誤解して敬遠していた。
その後、内容を知って読んでみた。
確かに野球のイニングや料理評などあの手この手で妊娠小説を解剖するさまは画期的だし圧巻だ。
それでもやはり男社会、男目線にもの申す結論ありきのように感じてしまう。
わたしは、ベストセラーだろうがなんだろうがどうでもいい作家のどうでもいい作品なんぞどうでもいいと思う方だ。
むしろ、セオリーを崩すことに成功した小説があれば、例外としてでもぜひとりあげたいと思う。
つまるところ、マスに対する興味もコンプレックスもなく、マクロの多様性に目がいってしまう自分とこの本の著者との違いだろう。

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2012年01月27日

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